Yahoo!ニュース

「災害食」の備え、なぜ大切か。阪神・淡路や東日本大震災の反省から、今こそ考えて。

奥田和子甲南女子大名誉教授、日本災害救援ボランティアネットワーク理事

災害時の食、備えはなぜ大切か

大規模災害(南海トラフ巨大地震、首都圏直下地震など)が想定されるなか、日本の国に住んでいる人々はもはや他人事では済まされない状況です。しかし、まだ本気でなくのんびりした人々が多すぎます。まあ、なんとかなるでしょう、自衛隊にお願したらいいし・・という人も多からずいます。おそらく、災害が発生した場合どのような状況になるのか具体的なイメージができない人々が多いのではないでしょうか。

災害が発生すると食べ物がいっせいに消える

被災地では、電気、ガス、水道がストップし、交通網が混乱し原材料が届きにくくなります。そのため食品や飲料水の生産がストップします。当然、外食店、そうざい店、コンビニ店、会社の食堂、食料品店も閉まります。家庭、会社、学校などで食事をつくることは不可能にちかくなります。まさにお手上げで、飲まず食わずの状態になります。このような状態を想定すると、いま何をしなければならないかが自ずとわかるはずです。

大混乱をなるべく少なくし、できれば回避したい。そのためには、2重、3重の防備を事前にしておくことが必要です。つまり自助、共助、公助です。自助とは日頃から自分のものは自分で準備し確保しておくことです。自分の食べ物と飲み物は自前で持っておくこと。さらに共助とは社員同士、町内同士、マンションの居住者同士、避難所、施設ごとにそれぞれの集団が日頃からどう助け合うか方針を決めて、すぐ実行に移せるように準備し訓練しておくことです。現時点で共助の準備が最もおろそかにされ、進んでいません。それは相談したくても肝心の人が集まらない、お金がないなどの理由で手つかずのまま放置されているようです。公助とは自治体が備蓄しておいたものを、避難所生活者、すなわち家を火事や倒壊によってなくした人々に分配することです。しかし、飲料水の備蓄がない自治体もありますので十分にいきわたると思うのは勘違いです。また災害救助法を適用して配られる弁当の支給は残念ながら遅く、間尺(ましゃく)にあいません。

災害によって体とこころの健康が大幅に損なわれ、回復が長引き元に戻りにくい

阪神・淡路大震災、東日本大震災など大型災害ですでに体験したように、避難所生活者は体調不良になり、風邪をひきやすく、持病が悪化しました。またストレス、不眠、不安などで便秘、口内炎、血圧が高くなったなどの症状があげられています。食欲がなくなりおいしいものでないと喉を通らないことも体験しました。

1日1~2食しか食事にありつけない状況で食べ物の量が少ないこと、しかも栄養的なバランスを欠いたことが原因です。ビタミン、ミネラルなどの微量栄養素、食物繊維などがとくに不足しがちで問題化しました。

「備えあれば憂いなし」の諺のように「備えがないと右往左往してストレス障害」を起こしかねない。内閣府中央防災会議の公表データー(2013.3)によれば南海トラフ巨大地震の場合、ライフラインの回復は電気3日まで、水道1ヵ月、ガス1-2ヵ月といいます。これだけでも充分ストレスがかかりこころがなえます。

今後こうした反省点を災害の備えにどう生かすかコツを抑えた実行力がいままさに問われています。詳しくは次回に続けますのでご期待ください。

甲南女子大名誉教授、日本災害救援ボランティアネットワーク理事

専門は食生活デザイン、食文化、災害・危機管理と食、宗教と食。広島大学教育学部卒業。大阪市立大学学術博士取得。米国カリフォルニア大学バークレー校栄養学科客員研究員、英国ジョーンモアーズ大学食物栄養学科客員研究員、甲南女子大学人間科学部人間環境学科教授を経て、現職に至る。「震災下の食―神戸からの提言」(NHK出版)、「働く人たちの災害食―神戸からの伝言」(編集工房ノア)、「和食ルネッサンス『ご飯』で健康になろう」(同時代社)、「箸の作法」(同時代社)、詩集など著書多数。

奥田和子の最近の記事