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大相撲初場所を制し、3度目の優勝を手にした貴景勝 大関の矜持に胸打たれる

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
貴景勝(写真中央)が自身3度目の優勝を手にした(写真:日刊スポーツ/アフロ)

大相撲初場所は、大関・貴景勝が平幕の琴勝峰との3敗同士の直接対決を制し、自身3度目の優勝を果たして幕を閉じた。またしても千秋楽まで優勝争いがもつれた、2023年最初の場所を振り返る。

貴景勝が13場所ぶり優勝、結婚後初 周囲へ感謝

千秋楽結びの一番。勝ったほうが優勝という大舞台に立ったのは、出場力士のなかの番付最高位である大関・貴景勝と、自身初の優勝争いに挑む平幕の琴勝峰だ。これまでの対戦は2度。まだ貴景勝に土をつけたことのない琴勝峰だが、元来あまり緊張しないタイプであり、思い切って向かっていくことができれば勝機はあると思われた。

立ち合い。琴勝峰が思い切ってぶつかっていく。しかし、頭からぶちかました大関が、なんと中に入って左から勢いよく投げ、見事なすくい投げが決まった。割れんばかりの拍手、歓声が沸き上がる館内。押し相撲一本といわれる大関が、最後は投げ技で有終の美を飾り、その強さを見せつける形となった。

最後はすくい投げで琴勝峰を下した(写真:日刊スポーツ/アフロ)
最後はすくい投げで琴勝峰を下した(写真:日刊スポーツ/アフロ)

勝利の後、いつもより時間をかけて、噛み締めるように手刀を切った大関。祈るように懸賞金を受け取る姿に涙腺が崩壊したのは筆者だけではあるまい。

勝利後のインタビューでは、結婚後の初優勝であること、義父の北天佑の優勝回数を超えたことに言及し、周囲への感謝を述べた貴景勝。優勝インタビューも実に大関らしく、素晴らしいものだった。平幕優勝が続いていた昨年の流れを断ち切ったことで、大相撲が大切にしている番付社会の在り方にもあらためて気づかせてくれた大関の優勝だったのではないだろうか。

一方で、最後まで戦い抜いた琴勝峰は、悔しさも残るだろうが清々しい表情。「結びの一番、思いっきりいけたので、これからも気持ちで負けないよう頑張りたい」と語った。大舞台にも物怖じしない、負けても腐らない精神力。もって生まれた素直な心と柔らかい体を生かし、23歳の若手はこれからさらに成長していくことだろう。今場所をひとつの大きな経験にして、今年1年飛躍の年にしてほしい。

輝いた力士たちの初場所を振り返る

優勝争いを演じた2人以外では、小結の霧馬山が千秋楽も勝って11勝を挙げ、技能賞を獲得した。貴景勝に勝利した一番をはじめ、持ち前の運動神経と足腰で「何かしてくれるんじゃないか」と見る者をわくわくさせてくれた。親方衆ら周囲からの評価が高く、次期大関候補の一人として今後の活躍にも大きな期待がかかる。

若隆景・若元春兄弟はそろって勝ち越し。新小結で場所を迎えた若元春は、千秋楽に9勝目を挙げ、来場所は兄弟で関脇になる可能性も高い。左足首のケガから再出場した豊昇龍は、対戦相手の阿武咲に髷つかみの反則があって千秋楽になんとか勝ち越したが、来場所以降万全の強さを見せてもらうために、とにかくいまはよく休んで治療に専念してほしい。その対戦相手だった阿武咲も、二桁勝利のみならず大いに場所をかき回して盛り上げてくれた。今場所は好調時のはじけるような元気のいい相撲がたくさん見られてうれしかった。残念ながら三賞受賞には至らなかったが、筆者をはじめ多くのファンのなかでは立派な敢闘賞である。

十両では元大関・朝乃山が優勝。連日堂々とした相撲で、来場所にも再入幕の呼び声が高い。さらには幕下15枚目格付出デビューの落合が7戦全勝優勝。こうした若手が上がってくることも大変喜ばしいことである。両国国技館も連日満員御礼の大盛況で、声出し応援や客席での食事もできるようになった。2023年の大相撲は、その歴史にどんなページを刻んでいくのだろうか。いまから期待に胸が膨らむ。

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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