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畑岡奈紗の失格処分に「騒動になる」と“ゴルフ強国”の韓国も疑問…ベテラン韓国選手「議論の余地あり」

金明昱スポーツライター
畑岡奈紗の失格を韓国メディアも詳細に報じていた(写真:REX/アフロ)

 米女子ゴルフツアーの「ショップライト・クラシック」で、初日4位の畑岡奈紗が、第2ラウンド(現地時間8日)開始前に失格処分となった。前日の第1ラウンドの最終9番(パー5)で、茂みのなかに打ち込んだ球を見つけるまで、制限時間の3分を超過していたというのがその理由。

 このシーンの申し出をしたのが、球の捜索のシーンに立ち会っていた米テレビ中継局のリポーターで、2日目の朝に映像を検証したという。すると3分25秒かかっていたことが明らかになり、その後、ウォーミングアップをしていた畑岡に失格が告げられたという。

 本来であれば、紛失した球とみなし、1罰打を加えて2打目地点から4打目を打たなければならない。その誤りをスコアを提出する前に訂正しなかったため“失格”となった。これに疑問を呈するのは、現役の韓国選手や多くの韓国メディアだった。

ジェニー・シンが「X」で畑岡の失格に異議

 ちょうど畑岡が失格になった同大会で、3日目を終えて首位を走っている韓国のジェニー・シン。自身の「X」(旧ツイッター)で今回の畑岡の件について、こんな投稿をした。

 翻訳するとこんな内容だ。

「これはおそらく物議を醸すだろう。畑岡奈紗は規定の3分を25秒オーバーしたため、失格処分の知らせを受けた。本来、あってはならないが、その知らせを受けたのはスコアカードをサインした後だった。このような状況を事前に防ぐために誰かがタイムを計るべきだったのか。しかし私が聞いたところでは、彼女がアンプレアブルになったとき、同伴していた競技委員がいたのに、その場にいたすべての選手とキャディが、本部に何も言わなかった、あるいはその事実が明らかになった後でさえも、何も言わなかったとのこと。この事は五輪を控えた彼女にとって、大きな損失になる。どうこう言っても仕方ないけれど」

 この投稿は現時点で約14万件の表示があり、約300件の「いいね」がついている。現役選手のこうした主張が今度、どのように影響し議論となるのか、注目する必要があるだろう。

畑岡の失格を一斉に報じる韓国メディア

 韓国メディアも畑岡の失格にすぐさま反応。「NEWSIS」は「畑岡の失格には騒動の余地がある。球を探すときに一緒にいた競技委員が、捜索時間については何も言及しなかったからだ」と伝えている。

「SBSニュース」も「LPGAは試合の映像を確認したあと、超過した時間を問題として、1日後に失格を伝えた。球を探しているときには競技委員も一緒にいたし、時間については何も言っていなかったのが分かっているにもかかわらずだ」と報じている。

 畑岡にとっては、パリ五輪出場権獲得に向けた大事な試合であったことは、韓国ではよく知られているようで、「イーデイリー」はこう伝えている。

「畑岡は今回の失格によって、パリ五輪出場権を狙うのが難しくなってきた。それにしても悔しいに違いない。米ツアー6勝の畑岡は、世界ランキング19位で、6位の笹生優花に次いで、2番手につけている。しかし今大会の失格で、ポイントの追加は難しく、同22位の古江彩佳に迫られる可能性が高くなった。9日時点で、畑岡は3.43、古江は3.26で、その差は0.17しかない。古江の結果によっては、順位が変わる可能性もある」

過去に米ツアーから韓国選手排除の動きも

 韓国がこうした反応を見せる背景には、米女子ツアーの歴史の中で、優勝者を多数輩出する韓国人選手に対して“差別的”とも捉えられてもおかしくない出来事が起こっていたことも関係していると思う。

 最も記憶にあるのは2008年にLPGAが「ツアーに2年間参加している外国選手に英会話の口頭試験を実施し、能力が十分でない選手のツアー資格を剥奪する」という方針を打ち出したこと。これは当時、「韓国人選手を排除する施策で人種差別」と批判され、すぐに撤回。

 米ツアー通算21勝のパク・インビは「今も他の朴という名の選手たちは親戚か、と質問されたりする」と韓国メディアに語っていたことがある。聞く側がどのような意図で発言しているのかは分からないが、受け取る側はうんざりしたり、傷ついたりすることもある。そうした細かいエピソードを挙げればキリがない。

日本の選手が力をつけてきた証拠?

 今回の畑岡の失格処置をアジア人に対する“差別的なもの”と見るのはおかしな話かもしれない。ただ、現役の韓国選手からも声があがり、長らくゴルフ強国として米ツアーを席巻してきた韓国のメディアが一斉に報じるところを見ると、畑岡の気持ちが痛いほど分かるのだろう。

 今回の件、逆に言えば、それだけ日本の選手が米ツアーで力をつけてきたという証拠と捉えることもできる。畑岡にはこれも経験と前向きにとらえ、次に生かしてもらいたい。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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