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政治とお金…政治・政策リテラシー講座15

鈴木崇弘政策研究アーティスト、PHP総研特任フェロー

お金と権力に絡んだ報道などがよくなされたりして、政治は汚いものだとか、政治家は汚いなどとよくいわれることがありますし、そのように思われがちです(注1)。また、お金を通じて、政治や政策が影響を受けて、特定の人々や組織が利益を受けるというようなこともあり、賄賂などのスキャンダルの問題が起きることもあります

しかしながら、政治とお金の関係をその視点だけで考えてしまうのは、ミスリーディングなのです。政治において、予算や政策を通じてお金が流れて、さまざまな問題が解決できることもたくさんあります。

このように、政治では、お金を通じて、悪いこともできますし、良いこともできます。そのことは、政治においても、その他の様々な社会活動と同じなのです。

本記事においては、もう少し別の角度から、「政治とお金」の関係について考えてみましょう。

政治において、議員になるには、選挙で当選しなければなりません。当選するには、多くの人々(特に有権者)に、自分や自分の政策など知ってもらうことが必要になります。そのためには、自分の政策パンフレットをつくったりしなければなりません。それを郵送する必要もあります。

例えば、パンフの作成に、1万部として200万円かかったとします。郵送に一部当たり80円とすれば、1万部で80万円です。年に4回送るとして、計1120万円もかかります。ポスターも作成して、自分を知ってもらうことも必要です。一部500円として、5000千部で250万円。選挙区の地元には事務所も必要です。家賃、電話代、備品等々多くの経費がかかります。会合や面会を調整するのにも、人手がかかります。国会議員の場合は、3名の秘書は税金で賄われますが、国会の事務所と地元の事務所等があるので、その人数だけでは不十分で、別の人を雇うには人件費もかかります。その他にも、政治活動や選挙活動を行うには、非常にたくさんのお金がかかるのです。それが現実なのです。

それらの費用は、国の税金などで出る議員給与、文書通信交通滞在費や立法事務費などだけで十分に賄えるわけではありません。

また、政党などには、国民一人当たり250円が負担して総額300億円を超える政党助成金というお金も税金から供出されています。このことに関しては、政党は本来は「国家から自由」であるべきという原則(政党は、国家権力から独立して行動すべきという考え方)を守るべきであるという考え方もあり、その金額に制限を設けるなど国家による資金の助成・補助に関しては、国際的にもさまざまな議論があります。

他方で、政党も、テレビによる政党のCMをはじめとして選挙や政治活動で多額の資金が必要で、政党助成金だけでも十分ではありません。

議員も政党なども、政治活動や選挙などの活動において、そのように多くにお金がかかります。公的資金だけでは十分ではないのです。その結果、個人や企業・団体などから政治献金を受けたり、自分で収益活動をすることで、その不足分などを補っているのです。

そのような場合、お金と政治の関係が、政策決定や予算配分における不公正などを生み、問題を生むこともあります。また政治にはたくさんのお金が必要なので、多くのお金を持つことで、他の議員に提供することで、政治的に大きな影響力をもつようなこともあるのです。その意味では、お金が政治権力のパワーの源泉にもなることがあります。

他方、そのような政治資金を、議員や政党などの政治に提供することで、個人や団体が自分たちの政治的意思を表明し、ある意味で、政治参加していることにもなります。つまり、政治寄付を通じて、政治参加をすることになるのです。

これは、モノの売り買いの場合と同じです。そこでは、さまざまなお金の使い方がされますが、それは、お金を通じて、商品やサービスを通じて何かの効用を得ることが目的であり、個人の意思の表れだと考えることができますが、政治でも同じことがいえます。

日本では、政治への寄付や献金は、企業や団体などによるものは別として、個人献金は非常に限られています。それは、個人による政治参加の少なさを物語っている面もあるのです。

米国の政治は、日本より透明性が高く、公平に思われがちですが、大統領選挙などにおける政治資金は1000億円程度にも達しています。その金額は、日本でのものよりも一桁程度多く、正に金による政治、金権政治が行われているのです。しかも、個人献金が非常に大きなシェアを占めているといわれています(注2)。このことは、別のいい方をすると、お金を通じた政治への参加が根付いていると考えることもできます。

国家によるお金、個人によるお金、あるいは団体によるお金。どちらがいいのか、どのぐらいのシェアの方がいいのかは、一概にいえません。社会や文化、時代によっても異なってくるでしょう。

しかしながら、いずれにしろ、日本においてもお金を通じての政治参加の問題をもっと積極的に考えてもいい時期に来ているのではないでしょうか。皆さんも、ぜひ考えてみてください。

(注1)つい最近も、猪瀬直樹東京都知事(当時)が不明朗なお金の問題で辞任しました。

(注2)アメリカのバラク・オバマが出馬した大統領選挙では、学生のような若い世代も、数ドルからの少額の政治献金を行い、オバマの支援をしたといわれています。

政策研究アーティスト、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。新医療領域実装研究会理事等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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