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卓球選手のスポーツマンシップ 女子団体準々決勝「日本vs台湾」での気高く美しい光景

伊藤条太卓球コラムニスト
伊藤美誠(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

東京五輪2020卓球女子団体準々決勝、日本vs台湾が行われ、3-0のストレートで日本が準決勝進出を決めた。

この試合の中で、卓球選手のスポーツマンシップを再確認させてくれた場面があった。それは第2試合の伊藤美誠vs鄭怡静のエース対決だ。伊藤、鄭ともに闘志を剥き出しにし、得点をする度に卓球選手独特の「ショー」「ショエイ」「ショレイ」などの声を上げた。

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ところがこの試合中、得点したのに声を出さない場面があった。それは第1ゲーム1-1、第3ゲーム8-5で、それぞれ鄭と伊藤がサービスミスをした場面だ。選手はもちろん、ベンチも揃って沈黙し、カッツポーズすらしなかったのである。

「相手がサービスミスをしたときには喜ばない」

これが卓球界のマナーだからだ(ルールではないので守らなくても罰則はない)。その背景には、お互いに最高度に実力を出し合って技術を競い合い、見る者に感動を与えるのがスポーツなのだから、自分の技量と関係なく相手がミスをした(実際には関係がある場合も多いが)ことをことさらに喜ぶのはスポーツマンシップに反するという考え方がある。そうした理想に基づいて、このマナーは卓球界の少なくともトップ選手の間では定着している。

もちろん、勝負なのだから相手がサービスミスをしたら内心は嬉しいに決まっているし、卓球選手があらゆる面で優れたスポーツマンシップを身につけているという話でもまったくない。たまたま先人たちがこのマナーを習慣にしたために従っているだけだ。

相手のサービスミスにも喜ぶのが当たり前の他のスポーツから見れば、この卓球のマナーは奇妙かつ独りよがりに映るかもしれない。それでもかまわない。珍しいトリビアとして記憶に留めていただければよい。

しかし私は卓球に関わるものとして、このマナーを気高く美しいものと感じる。その精神をマナーという形にして残してくれた先人たちを心の底から誇りに思う。何かのきっかけで消えてしまうかもしれない脆いマナーではあるが、だからこそ大切に守り伝えて行きたい。

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卓球コラムニスト

1964年岩手県奥州市生まれ。中学1年から卓球を始め、高校時代に県ベスト8という微妙な戦績を残す。大学時代に卓球ネクラブームの逆風の中「これでもか」というほど卓球に打ち込む。東北大学工学部修士課程修了後、一般企業にて商品設計に従事するも、徐々に卓球への情熱が余り始め、なぜか卓球本の収集を始める。それがきっかけで2004年より専門誌『卓球王国』でコラムの執筆を開始。2018年からフリーとなり、執筆、講演活動に勤しむ。著書『ようこそ卓球地獄へ』『卓球語辞典』他。NHK、日本テレビ、TBS等メディア出演多数。

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