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【世界卓球】日本vs中国の戦いの歴史と、中国を土壇場まで追い詰めたことの意味

伊藤条太卓球コラムニスト
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

韓国・釜山で行われている世界卓球選手権大会で、日本女子が中国に対して歴史的な戦いを見せてくれた。卓球が進化していることを考えれば、昨夜の女子団体決勝は、疑いなく卓球史上最高の決勝戦だった。

敗れたとはいえ日本選手の戦いぶりは凄まじかった。第2試合で早田ひなが一度も勝ったことのない東京五輪金メダルの陳夢を3-1で破り、第3試合で平野美宇が中国の壁と言われる王芸迪をストレートで破った。そしてラストの第5試合で15歳、まだ中学3年生の張本美和が陳夢に食い下がった。第1ゲームをサービスエースの連発とフォアとバックの強打、完璧なブロックで取ったときには、歴史が変わる夜になると多くの卓球ファンが思ったことだろう。私もパソコンの前で速報を打つ指の震えが止まらなかった。

しかしそこからの陳夢が凄かった。派手なプレーはなく地道に張本のミスを誘い、しかも表情の変化が一切ない。明らかに劣勢なのにただの一度も表情を崩さなかった。本当に、本当に鋼のような意思の尊敬すべき金メダリストだ。

さらに凄かったのが、恐ろしいまでの強さを見せつけた世界ランキング1位の孫頴莎。早田にも張本にも付け入る隙をまったく与えずいずれも3-0。6ゲームで孫頴莎が失ったポイントは5、8、4、2、7、6で、9点を取らせることすらなかった。進化の最先端での世界最高峰のこの戦いで、さらに飛び抜けた強さを誇るこの凄まじさ。14億の中国人の中にただ1人、孫頴莎がいたおかげで日本は敗れた。

敗れたとはいえ日本の戦いは日本卓球史に残る快挙である。負けたのに「快挙」と表現することに違和感を覚える人もいるかもしれないが、これまでどれほど日本が中国に敗れてきたかを考えれば、これは快挙と言うのに相応しい。

2004年から前回2022年までの19年間の世界選手権9大会で、女子団体で日本が中国から勝ち点を挙げたのは、2004年の藤沼亜衣と梅村礼、2018年の伊藤美誠のたったの3人しかいない。おまけに2000年代後半の3大会では中国と対戦することさえなく、その前に他の国に敗れている。中国とやらせてすらもらえなかったのだ。

2004年ドーハ大会で中国から勝ち点を挙げた藤沼亜衣(左)と梅村礼 写真は2004年アテネ五輪
2004年ドーハ大会で中国から勝ち点を挙げた藤沼亜衣(左)と梅村礼 写真は2004年アテネ五輪写真:アフロスポーツ

2018年世界卓球で劉詩雯を破った伊藤美誠
2018年世界卓球で劉詩雯を破った伊藤美誠写真:ロイター/アフロ

世界選手権における日本女子と中国の対戦の歴史を見てみよう。人名は、中国から勝ち点を挙げた選手で、「/」はダブルスを表している。対戦記録がないのは、中国と当たる前に敗れたことを意味している(日本はこの間、すべての世界選手権に出場している)。

1971年 日本3-1中国 小和田敏子、大関行江、小和田敏子 

1973年 日本2-3中国 大関行江、大関行江/横田幸子

1975年 日本1-3中国 大関行江

1977年 日本0-3中国

1979年 日本0-3中国

1981年 日本0-3中国

1983年 日本0-3中国

1985年 -

1987年 日本1-3中国 星野美香/橘川美紀

1989年 -

1991年 -

1993年 -

1995年 日本0-3中国

1997年 日本1-3中国 岡崎恵子

2000年 -

2001年 日本0-3中国

2004年 日本2-3中国 梅村礼、藤沼亜衣

2006年 -

2008年 -

2010年 日本0-3中国

2012年 -

2014年 日本0-3中国

2016年 日本0-3中国

2018年 日本1-3中国 伊藤美誠

2024年 日本2-3中国 早田ひな、平野美宇

これほどの図抜けた強国がいては観戦の興味が薄れる側面もあるが、一方で、これほどの強さを維持し続けるための中国卓球界の叡智と、人間能力の限界を見せてくれる超人たちの姿には、勝敗や国を越えた敬意と感動を覚えざるを得ない。

今回、日本は敗れたが、それは中国を越える日までもうしばらく楽しめるということに他ならない。

目標は、それを達成するまでの過程こそが楽しいのだから。

卓球コラムニスト

1964年岩手県奥州市生まれ。中学1年から卓球を始め、高校時代に県ベスト8という微妙な戦績を残す。大学時代に卓球ネクラブームの逆風の中「これでもか」というほど卓球に打ち込む。東北大学工学部修士課程修了後、一般企業にて商品設計に従事するも、徐々に卓球への情熱が余り始め、なぜか卓球本の収集を始める。それがきっかけで2004年より専門誌『卓球王国』でコラムの執筆を開始。2018年からフリーとなり、執筆、講演活動に勤しむ。著書『ようこそ卓球地獄へ』『卓球語辞典』他。NHK、日本テレビ、TBS等メディア出演多数。

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