氷川きよしさんは所属事務所によるKiinaの商標登録を阻止できるのか?
「《独立阻止か》“限界突破”氷川きよしの所属事務所が新芸名”Kiina”の商標登録を出願していた”音楽活動休止中に…”」というニュースがありました。氷川きよしさんの新芸名(Kiina)を所属事務所が商標登録出願していたという話です。
所属タレントの芸名をマネージメント事務所が商標登録出願するのは当たり前ですが、今回の件については、氷川きよしさんが現事務所から独立するのではと考えられていることから、事務所側が独立を阻止するために(少なくとも新芸名の使用を禁止するために)商標登録出願したのではと冒頭の記事は推測しています。私は芸能関係の専門家ではないのでこの見方についてはコメントしませんが、過去において、芸能事務所が所属タレントの独立を阻止するために商標登録する事件は結構ありました。加護亜依さんや(だいぶ古いですが)加勢大周さんなどが思い浮かびます。能年玲奈さんのケースを思い浮かべる人もいると思いますが、あの事件は商標登録は関係なく、単に旧事務所の”お気持ち”に配慮して(本名であるにもかかわらず)能年玲奈を使用せず”のん”を使用することになったということのようです(関連過去記事)。
さて、今回のケースではKiina(商願2023-059092)とKIINA(商願2023-059093)の2件が2023年5月17日に出願されています。まだ審査待ち状態です(審査が始まるのは11月頃になると思います)。指定商品・役務は、化粧品、眼鏡、身飾品、鞄類、被服、おもちゃ、飲料、音楽の演奏等々、広範囲です。ちなみに、KiinaとKIINAのように小文字・大文字違いは商標権行使においても類似範囲ですし、不使用取消に対する使用の主張においても同一とみなされますので、両方出願する意味はほとんどありません。今回は本人出願ですが、弁理士が代理人に入っていればこういう出願はもったいなくてしなかったと思います。
仮に氷川きよしさんが現事務所から独立したいと考えているとして、これらの出願の登録を阻止することはできるのでしょうか?商標法に以下の規定があります。
この規定により、特許庁の審査官がKiina(KIINA)が著名な芸名であると考えれば、氷川きよしさん本人の承諾書を提出せよという拒絶理由通知が出ます。要はこの出願が登録されるかどうかは、氷川きよしさんのその時点での意思次第ということになります。Googleで”Kiina 氷川きよし”で検索すると650万件ほどヒットしますので、著名な芸名とみなされない可能性は低いとは思いますが、念のために前もって審査官に情報提供しておいてもよいかもしれません。
なお、万一登録されてしまっても、日本の商標審査では音楽のアーティスト名は商標的使用ではないとされていますので、芸名を商標登録してもその芸名を使った歌手活動を禁止することはできない可能性はあります。ただ、この話をしだすとめちゃくちゃ長くなるので必要に応じて別記事にします。