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梅毒性脱毛症の臨床的特徴と診断のポイント - 皮膚科医が解説

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

【梅毒性脱毛症とは?その疫学と病態】

梅毒性脱毛症は、梅毒の二期症状の1つで、頭皮や眉毛などの毛が抜ける非瘢痕性脱毛(はんこんせいだつもう)症です。梅毒は性感染症の1つで、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)という細菌の感染によって起こります。梅毒性脱毛症は比較的まれな症状で、二期梅毒患者の2.9~22.2%に見られるとされています。

近年、梅毒の報告数は世界的に増加傾向にあり、それに伴って梅毒性脱毛症の症例数も増えていると考えられます。特に、HIV感染者や男性同性愛者では梅毒の罹患率が高く、注意が必要です。今回の研究でも、梅毒性脱毛症患者の約50%がHIV陽性でした。

梅毒性脱毛症の正確な発症機序はまだ分かっていませんが、毛包周囲へのT. pallidumの直接浸潤や、T. pallidumに対する免疫反応が関与していると考えられています。毛包の炎症により毛周期が乱れ、脱毛が起こると推測されています。早期発見と適切な治療が大切な皮膚疾患の1つと言えるでしょう。

【特徴的な脱毛パターンとトリコスコピー所見】

梅毒性脱毛症には、蝕(しょく)状脱毛、びまん性脱毛、混合型脱毛の3つのパターンがあります。蝕状脱毛は不規則な境界を持つ脱毛斑で、「ガ」や「蛾(が)」に喰われたような独特の脱毛パターンを示します。頭皮の後頭部や頭頂部に好発します。一方、びまん性脱毛は全体的に毛が薄くなる症状で、蝕状脱毛ほど目立ちません。混合型は両者が混在するパターンです。また、眉毛の脱毛を伴うこともあります。

トリコスコピー(頭皮の拡大鏡検査)では、短い再生毛、毛包あたりの毛髪数の減少、黒点、黄色点などが見られます。再生毛は細く短い産毛様の毛で、脱毛からの回復過程を反映しています。また、毛包の炎症を反映して、頭皮の発赤や血管拡張を認めることもあります。

ただし、これらのトリコスコピー所見は他の脱毛症、例えば円形脱毛症、男性型脱毛症、抜毛癖などでも見られるため、鑑別が難しい場合もあります。興味深いことに、梅毒性脱毛症では円形脱毛症に特徴的な感嘆符毛は見られないとのことです。感嘆符毛の有無が、両者の鑑別点になるかもしれません。

【治療と予後 - 早期発見の重要性】

梅毒性脱毛症の治療は、ペニシリンGやドキシサイクリンなどの抗菌薬投与が基本です。今回の研究では、患者の約80%がペニシリンG筋注、約20%がドキシサイクリン内服で治療され、全例で発毛が得られました。多くの患者で、脱毛発症から6カ月以内に発毛が得られるようです。

ただし、診断が遅れると治療も遅れ、回復までに時間がかかってしまうため、早期発見が肝要です。また、梅毒は感染力が強く、神経梅毒など重大な合併症を引き起こす可能性もあります。今回の患者の約17%に神経梅毒が見られました。

脱毛症状に加えて、皮疹(丘疹や紅斑)、手掌・足底の角化性丘疹、扁平コンジローマなどの梅毒特有の皮膚症状があれば、より診断しやすいと思います。ただし、約13%の患者では脱毛のみが症状でした。原因不明の脱毛症が見られたら、念のため梅毒の可能性も考慮し、血液検査を行うのが賢明かもしれません。疑わしい症状があれば、早めに皮膚科を受診することをおすすめします。

以上、タイの研究グループによる梅毒性脱毛症に関する最新の知見をまとめました。この研究は、これまでで最多の23例の梅毒性脱毛症患者を対象に、疫学的特徴、臨床的特徴、トリコスコピー所見、治療経過などを詳細に検討したものです。また、過去の文献のシステマティックレビューも行い、トリコスコピーの有用性と限界を考察しています。

梅毒は近年再び増加傾向にあり、脱毛症状のみを呈する症例も少なくないため、見逃さないことが大切です。皮膚にできものができたり、原因不明の脱毛があったりしたら、早めに皮膚科を受診しましょう。「ある病気」と決めつけずに、様々な可能性を考えて診療することが肝心だと思います。皮膚科医のみならず、一般の方にも広く知って頂きたい重要な知識だと考えます。

参考文献:

Pomsoong C, et al. Epidemiological, Clinical, and Trichoscopic Features of Syphilitic Alopecia: A Retrospective Analysis and Systematic Review. Front Med (Lausanne). 2022 May 2;9:890206. doi: 10.3389/fmed.2022.890206.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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