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2月が見頃の昆虫界のピンクレディーと言えば

天野和利時事通信社・昆虫記者
昆虫界のピンクレディーこと、ベニシジミのピンク型幼虫。手袋の上で撮影。

 2月になると、一部の虫好きたちが、草原に座り込み、雑草のギシギシやスイバの葉裏をのぞき込む怪しい光景が見られるようになる。彼らが捜しているのは、昆虫界のピンクレディーとも言われる(恐らく昆虫記者だけが勝手にそう呼んでいる)ベニシジミの幼虫のピンク型だ。

 今の若い人たちの中には、70~80年代に一世を風靡した女性2人組アイドル歌手「ピンクレディー」を知らない人が多いかもしれないが、今時の中高年にとってピンクレディーは、当時アイドル中のアイドルだったのだ。

 そんな思い出を持つ中高年の虫好きが幸運にも、ピンク色の縁取りがあったり、全身ピンクだったりするベニシジミの幼虫を見つけると、おみくじで大吉が出たような気分になり(ベニシジミの幼虫は全身緑色のものが多いので、ピンクはかなりラッキーなので)、思わず渚のシンドバッドやUFO(知らない若者も多いかも)を口ずさんでしまうのだ。

ギシギシの葉上のベニシジミ幼虫。ピンクの縁取りのものと、緑色のものが一緒にいた。
ギシギシの葉上のベニシジミ幼虫。ピンクの縁取りのものと、緑色のものが一緒にいた。

ベニシジミの幼虫の中には、全身がピンクっぽいのもいる。
ベニシジミの幼虫の中には、全身がピンクっぽいのもいる。

ベニシジミの幼虫を探す時の目印は、ステンドグラスのような薄い膜を残した食痕
ベニシジミの幼虫を探す時の目印は、ステンドグラスのような薄い膜を残した食痕

 成虫のベニシジミは非常に美麗な蝶だが、小さい上にあまりにも普通種過ぎて、一般に冷淡な扱いを受けている。春先から初冬まで、ほぼ一年中見られる蝶なので、幼虫も、必死に探せばほぼ1年中見つかるはずだ。それなのになぜ2月が見頃なのか。

 それは食草のギシギシなどを食べる虫が2月にはまだ少ないからだ。その頃の虫食いだらけのギシギシで一番目立つ虫は、丸々と太って、モリモリと葉を食べるベニシジミの幼虫なのだ。

 暖かくなってくると、ギシギシの葉にはコガタルリハムシの成虫や幼虫、ハグロハバチの幼虫(これも結構かわいい)などが圧倒的に多くなるので、虫食い跡のある葉をめくっても、ベニシジミ幼虫に出会う確率は極めて低くなる。

 つまり、「ここかと思えばまたまたあちら」(渚のシンドバッドの一節)とベニシジミ幼虫が見つかる季節が2月なのである。

葉の裏側の葉肉だけを削り取るように食べるベニシジミの若齢幼虫
葉の裏側の葉肉だけを削り取るように食べるベニシジミの若齢幼虫

 ピンクレディーは成虫になると、オレンジ色の柄が美しい蝶になる。春型のベニシジミ成虫は特にきれいなので、超普通種とバカにせずに、そのあでやかな姿を堪能してほしい。

春型のベニシジミ成虫は特に美しい。
春型のベニシジミ成虫は特に美しい。

(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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