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セリエAで5カ月無得点、ミランのレオンは「普通」の選手なのか? エムバペと比較するレジェンドも

中村大晃カルチョ・ライター
3月1日、セリエAローマ戦でのミランFWラファエウ・レオン(写真:ロイター/アフロ)

圧倒的な身体能力と才能は、誰もが認めるところだろう。ただ、真の超一流ではないとの声もある。

名門ミランの10番を背負うエース、ラファエウ・レオンのことだ。

4月6日のセリエA第31節レッチェ戦で、レオンはダメ押しとなる3点目をあげた。3月30日の第30節フィオレンティーナ戦に続く2試合連続ゴールだ。

4位と勝ち点10差のミランは、残り7試合で来季のチャンピオンズリーグ出場権獲得は濃厚となっている。目標達成に向けて前進を続けつつ、チームが同時に目指すのはヨーロッパリーグ(EL)での戴冠だ。ミランはELで優勝したことがない。

タイトル獲得に向け、ミラン陣営とサポーターは、レオンが勢いを保つことを願っているだろう。まずは4月11日の準々決勝ファーストレグ、同じイタリアのローマとの一戦でも活躍が期待される。

■約150億円の価値を持つミランの顔

24歳のポルトガル代表がミランの支柱のひとりであることは言うまでもない。

セリエAでは加入から2年連続で6得点をあげると、2021-22シーズンに11得点・10アシストでスクデット獲得(リーグ優勝)に貢献。昨季も15得点・10アシストをマークし、2年連続の“ダブルダブル”を達成した。

今季開幕前には、契約を2028年まで延長し、背番号を伝統の10番に変更した。かつて本田圭佑が纏った際も言われたが、重圧が小さくないナンバーだ。クラブの期待の裏返しと言えるだろう。ズラタン・イブラヒモビッチが引退したなか、責任を負うことへの本人の意欲もうかがえる。

実際、『Transfermarkt』での市場価値は9000万ユーロ(約148億5000万円)。チーム断トツの数字だ。契約解除金(バイアウト)は1億7000万ユーロ超(約280億5000万円)とも言われる。

※1ユーロ=165円換算

■イタリアで長期ノーゴールは低評価?

そんなレオンを批判したのが、ミランのOBでもある元イタリア代表のアントニオ・カッサーノだ。

国営テレビ『Rai』の番組に出演したカッサーノは、以前からのレオンに対する厳しい見方は変わっていないと断言。マーカス・ラッシュフォード(マンチェスター・ユナイテッド)、クビチャ・クバラツヘリア(ナポリ)、フィル・フォデン(マンチェスター・シティ)など、他のウィンガーを例にあげ、レオンは同等の活躍を見せていないと指摘した。

カッサーノはレオンが前述の市場価値に見合う選手ではないとも主張している。「フィジカルの力がある普通の選手でしかない」とまで述べた。それほど批判的なのはなぜだろうか。

理由のひとつは安定感にあるようだ。今季のレオンはセリエAで6得点をあげている。だが、9月に3試合連続でゴールを決めてから、2月末のアタランタ戦まで無得点だった。

カッサーノは「イタリアのリーグにクオリティーやインテンシティー、リズムがないことを忘れちゃいけない」と強調。そのリーグで長期にわたって得点がなかったと批判している。

「それで2回すごいプレーをしたら、『強い選手だ。価値がある』と騒ぐのさ。自分が現役だった10~15年前なら、彼は6位や7位を争うチームでもプレーできなかっただろう」

カッサーノの歯に衣着せぬ物言いは、一部で好評を博している。一方で、その見解を疑問視するファンも少なくない。レオンはSNSでピエロの絵文字を使って“反論”した。

■稀代の名手たちが称賛

実際、レオンに大きな賛辞を寄せたレジェンドたちもいる。

ローマとのEL準決勝ではパウロ・ディバラとの「10番対決」が注目だ。『La Gazzetta dello Sport』紙は4月9日、セリエAでこれまで10番を背負ってきた数々のレジェンドたちに、レオンとディバラのどちらを評価するか意見を求めた。

そのなかで、ジャンカルロ・アントニョーニ、ファン・セバスティアン・ベロンといったかつての名手たちは、レオンを選ぶと答えている。

アントニョーニはレオンのような選手は「世界にわずか、キリアン・エムバペしかいないんじゃないか」と称賛。ベロンは「カウンターで飛び出したときに止めるには銃弾が必要」とたたえた。

「今のミランには彼を支える堅実さがあると思う。実際、レオンは好調時のインスピレーションを取り戻した。今季は非保持時への参加が増したと思う。守備に戻るのが少ないままなのは認めなければいけないがね。だが、ボールを持てばどんな瞬間でも完璧なプレーをつくり出すことができる」

明言を避けたり、ディバラを選んだレジェンドもいる。だが、レオンへの賛辞は変わらない。

パルマ時代の同僚ファウスティーノ・アスプリージャを思い出すというトマス・ブロリンは、「対戦したら相手ディフェンダーは祈るしかできない」と話した。

ジャンフランコ・ゾラは推進力と技術、身体能力の組み合わせをたたえ、好調ならレオンは「文字通りに破壊的、止められるディフェンダーはいない」と評価。継続性や決定力の向上が課題としつつ、「なんというクオリティー、なんという選手か」と絶賛している。

ジュゼッペ・シニョーリも成長の余地が大きいとし、「リーグ戦で平均10~15得点超を安定させられたら、世界レベルのフォワードになるだろう」と、さらなる飛躍に期待を寄せた。

高額な契約解除金や年俸、市場価値に見合う選手なのか、議論が尽きることはない。だが、類まれな能力を持つ稀有な存在なのは確かだ。レオンのプレーを見ていたいという人は多いだろう。

ディバラとレオンの選択を求められたアントニョーニは、最後にこう述べている。

「選ぶより、ずっと彼らを見ていたい。そして、イタリアのリーグにいてほしい」

同感だ。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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