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ウソで墓穴掘ったジョンソン英首相が辞任表明、与党・保守党は党首選へ 次の首相は?

木村正人在英国際ジャーナリスト
保守党党首辞任を決断したジョンソン英首相(写真:ロイター/アフロ)

■言い逃れのウソで墓穴を掘る

[ロンドン発]言い逃れのウソにウソを塗り重ね、強まる辞任要求に徹底抗戦していたボリス・ジョンソン英首相(与党・保守党党首)が7日、ついに党首辞任を表明した。重要閣僚の保健相、財務相ら保守党の政府関係者50人以上が辞任し、指名したばかりの新教育相も辞任、新財務相からも辞任を突きつけられ、恥知らずのジョンソン氏も万策尽きた。

ジョンソン氏は7日午後零時半から首相官邸前で「新党首、引いては新首相を選ぶべきだというのが保守党下院議員の意思だ。多くのアイデアやプロジェクトを見届けられなかったことは痛恨の極みだ。世界一素晴らしい仕事を自ら辞める悲しみを知ってほしい」と述べた。

「新党首を選ぶプロセスを今すぐ始めるべきであり、タイムテーブルは来週発表される。新党首が決まるまでの間、私が務める(ケアテイカーの)内閣を任命した」

テリーザ・メイ元首相が新党首に選ばれた時は前任のデービッド・キャメロン元首相の辞任表明から20日足らずしか要しておらず、メイ氏が党首を辞任すると表明した時は約2カ月後にジョンソン氏が新党首に選ばれている。

直接の引き金はクリス・ピンチャー院内副幹事長が6月30日に痴漢行為で辞任したスキャンダル。ピンチャー氏の性行為疑惑について以前から注意されていたにもかかわらず今年2月、院内副幹事長に任命。その責任を問われたジョンソン氏は「知らなかった」と言い逃れのウソをついた。これを信じて首相を弁護した閣僚も結果的にウソをつかされるハメに。

これがくすぶり続けてきた「ジョンソン下ろし」に最後の火を放った。

昨年5月の統一地方選で圧勝し「10年政権」の基盤を固めたジョンソン氏だったが、24歳も若い夫人に振り回され「金の壁紙」を使った首相官邸の高額改装費を政治献金者に肩代わりさせていた疑惑が発覚。元閣僚が報酬を受け取る見返りに業者に便宜を図っていた疑惑が明るみに出ると議員懲罰制度を急遽、変更しようとして謝罪に追い込まれた。

コロナ危機で接触制限が行われていたにもかかわらず、ジョンソン夫妻、リシ・スナク前財務相ら最大30人が20年6月19日、閣議室で開かれたジョンソン氏自身の誕生パーティーに参加。ジョンソン夫妻、スナク氏の3人は今年4月、罰金50ポンドを支払った。コロナ規制に違反したいわゆる「パーティー疑惑」で計83人に126件の罰金が科せられた。

ジョンソン氏は国民の信頼を失った。

■新財務相も「今すぐ辞めるべきだ」とツイート

ジョンソン氏の支持者だったナディーム・ザハウィ新財務相も7日朝「持続可能ではなく、悪化する一方だ。あなたにとって保守党にとって、そして最も重要なのはこの国にとって正しいことをし、今すぐ辞めるべきだ」とツイート。

ジョンソン氏は12日に予定していた経済に関する首相と財務相の共同演説を7日に前倒しする予定だった。

英メディアによると、ジョンソン氏は、保守党党首の信任投票を行う1922年委員会のグレアム・ブレイディー委員長と会談し、今年10月2~5日にバーミンガムで開かれる保守党年次大会までに新しい党首を選出できるよう党首辞任に同意したという。政権関係者が50人以上辞任する中、10月まで首相を続けるのは不可能と批判する声が噴出している。

先月6日、保守党下院議員(359議員)の15%以上から党首交代を求める書簡が提出され、ジョンソン党首に対する信任投票が行われた。信任が過半数の211票、不信任が4割超の148票だった。現行の規則では次の信任投票を実施できるのは1年後。しかし党首交代を求める書簡が過半数を超え、ブレイディー委員長がジョンソン氏に引導を渡したとみられる。

天性の直感力でジョンソン氏は欧州連合(EU)離脱を強行し、世界に先駆け新型コロナウイルス・パンデミックのワクチン集団接種を成功させ、ロシア軍のウクライナ侵攻ではウクライナへの武器供与を主導し、ウラジミール・プーチン露大統領の傀儡政権樹立の野望を打ち砕いた。その半面、常識と誠実さに欠け、言い逃れのウソを塗り重ね、墓穴を掘った。

■本命はリシ・スナク前財務相

イギリスはコロナ危機・復興でエネルギー価格が高騰、年間インフレ率は40年ぶりの9.1%に達した。生活費の高騰に加えて、EU離脱によるヒト・モノ・カネの寸断、国内経済の地域格差の是正など「わが国は底知れない困難に直面している」(スナク前財務相の首相宛の辞任書簡)。

次の首相選びはイギリスの未来を大きく左右する。保守党寄りの英高級紙デーリー・テレグラフは次期首相のオッズを次のように予想する。筆者はスナク前財務相が本命とみる。

リシ・スナク前財務相5倍

ペニー・モーダント貿易政策担当相 5倍

ベン・ウォレス国防相7.5倍

サジド・ジャビド前保健相7.5倍

リズ・トラス外相8倍

ジェレミー・ハント元保健相・外相8.5倍

ナディーム・ザハウィ新財務相10倍

トム・トゥーゲンドハット下院外交委員長10倍

ドミニク・ラーブ副首相兼司法相13倍

マイケル・ゴーブ前レベリング・アップ(平準化)相21倍

スエラ・ブラヴァーマン法務長官26倍

スティーブ・ベイカー氏(EU強硬離脱派の筆頭格)41倍

プリティ・パテル内相41倍

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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