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安倍元首相が銃撃され死亡。そのときSNSでは・・・大事件とSNSのリスク

原田隆之筑波大学教授
(写真:つのだよしお/アフロ)

SNS時代の犯罪

 安倍晋三元総理が銃撃され死亡したというニュースが日本中を駆け回った。この許しがたい暴挙に誰もが怒りに震え、悲しみに打ちひしがれている。まずは心からの哀悼の意を表したい。

 昼前に銃撃の一報が速報で出されてから、テレビニュースはもちろんのこと、ネットニュースやSNSはこの事件の話題で持ち切りになった。

 なかでも、ツイッターなどのSNSでは、現場にいた人たちが撮影した動画や画像が相次いで投稿され、それが瞬く間に次々と拡散されていった。大きなニュースが起きると、いつもこのような光景が繰り返される。これはもはや回避できない現代的な現象であるが、やはりそこに数々のリスクを感じてしまう。

生々しい動画や画像

 第1に、あまりにもショッキングな場面が、そうした場面に不慣れな人たちに無加工のまま提供されることのリスクである。大きな銃声、人々の叫び声、揉み合う警察官と容疑者、流血し横たわる被害者の姿、懸命に心臓マッサージをする人の姿。実際の銃撃場面と見られる動画すらいくつもアップされている。

 SNSにアップされた画像や動画を何の心の準備もなく見てしまって、心理的なショックを受ける人は少なくないだろう。

 第2に、凶器と見られる「自作の銃」のようなものを鮮明に映した画像もあった。これを見て、SNSでは早くもマニアの人々が詳細な「解説」をしている。「ホームセンターで揃う材料ばかりだ」などというコメントも見られた。

 これらを見て、直ちに真似をして自作しようという人はそういないかもしれないが、インターネット上にはこれ以外にも凶器の製造法など、危険な情報がたくさん溢れている。こうした情報が、模倣犯の出現などにつながるリスクは少なくない。

 第3に、まだ捜査も始まっていない段階から、容疑者を細かく特定したり、有罪であることを決めつけて断罪したりするような動きも相変わらず活発である。今回の暴挙は決して許されることではないが、白昼堂々衆目のなかでなされた現行犯であるからといって、行き過ぎたプライバシーの曝露やネットリンチは控えるべきである。

事件をエンターテインメントとして消費する人々

 第4に、繰り返してショッキングな場面が拡散され、それに対してわれわれが無感覚になってしまう危険もある。すると、現実の事件が、あたかもエンターテインメントのように消費される懸念につながる。

 新聞やテレビでしかニュースに接することができなかった時代、われわれは情報の隙間を想像力や共感性で埋めて、被害者やその家族などに対して思いを馳せてきた。しかし、SNSの時代になって、あたかも自分が事件を目前で目撃しているかのようにオンタイムで動画や画像が差し出されると、われわれはそれが「起きていることのすべて」であると思い込み、想像力を働かせることをやめてしまう。

 しかし、その動画や画像は起こったことのすべてではない。あくまでも現実の一部を「切り取ったもの」に過ぎない。それだけでわかったつもりになって理解しようとするのは危険である。

 さらに、競うようにショキングな情報を集めては、それを公開することで自らの承認欲求を満たそうとしているような人々もいる。今回も、元総理と親しいと言われていたジャーナリストが、正式な発表のずっと前に「元総理が死亡した」とSNSでコメントし、それが瞬く間に拡散された。これなどは、非常に不見識であるとの誹りを免れないだろう。

 第5に、SNSはデマの温床ともなりやすい。大きな事件事故のあと、さまざまなデマがSNSなどで流されることを、これまでもわれわれは経験してきた。現に、今回の事件の直後から、「外国人の仕業である」「自作自演である」などの醜悪なデマが流されている。

 われわれは、健全な情報リテラシーをもってデマを見分け、それと対峙する必要がある。

今後の事件の分析

 現時点では断片的な情報しかわからず、事件の背景や動機などはよくわかっていない。断片的な情報から推測される点については、ほかのところで少し述べたので、ここでは差し控えるが、今後捜査が進んだ段階で改めて分析をしてみたい。

 それとともに、SNSの時代になって、事件報道のあり方や事件が人々に与える影響などが大きく変わっていくことが予想される。上に述べたようなリスクを警戒しつつ、賢くSNSと付き合っていくとともに、リスク対策についても検討していく必要があるだろう。

筑波大学教授

筑波大学教授,東京大学客員教授。博士(保健学)。専門は, 臨床心理学,犯罪心理学,精神保健学。法務省,国連薬物・犯罪事務所(UNODC)勤務を経て,現職。エビデンスに基づく依存症の臨床と理解,犯罪や社会問題の分析と治療がテーマです。疑似科学や根拠のない言説を排して,犯罪,依存症,社会問題などさまざまな社会的「事件」に対する科学的な理解を目指します。主な著書に「あなたもきっと依存症」(文春新書)「子どもを虐待から守る科学」(金剛出版)「痴漢外来:性犯罪と闘う科学」「サイコパスの真実」「入門 犯罪心理学」(いずれもちくま新書),「心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門」(金剛出版)。

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