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『芋たこなんきん』が15年以上を経て再放送された理由

田幸和歌子エンタメライター/編集者
画像提供/NHK

今、BSプレミアムで再放送中のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『芋たこなんきん』(2006年度下半期)が、再評価されている。

これは、田辺聖子の半生と数々のエッセイ集をベースとし、当時朝ドラ史上最年長ヒロインだった藤山直美が主演を務めた作品である。視聴率は芳しくなかったが、朝ドラを長年視聴し続けてきたファンからは高い評価を得ており、再放送もDVD化もされていないことを嘆く声はかねて多かった。

大きな出来事は起こらないものの、会話劇を主体とし、「日常」の積み重ねを丁寧に描く作風は、むしろ現代的だ。それに、藤山直美×國村隼を中心とした名優たちの芝居をしっかり観られるという魅力も、朝ドラを脚本や演出・芝居でしっかり観る人が多い今のほうが、伝わりやすい気がする。

しかも、戦争の描き方には考えさせられることが多く、生活苦でホームレス状態の人が多数生まれた状況、医療費を支払えないために病気を悪化させてしまう人が多かった状況など、2022年の日本に非常に近い光景も見られる。

実際、2006年当時は観たことがなく、今回初めて『芋たこなんきん』を観て夢中になっている人も多く、BS再放送にもかかわらず、SNSトレンドに『芋たこなんきん』関連のワードが挙がることもしばしばあるほどの盛り上がりだ。

それにしても、再放送もDVD化もこれまで行われてこなかった『芋たこなんきん』を、なぜ今、再放送することになったのか。

NHKメディア総局メディア編成センター チーフ・リードの土屋勝裕氏に聞いた。

ちなみに土屋氏は、NHK総合で夕方に再放送されている松嶋菜々子主演の朝ドラ『ひまわり』(1996年度上半期)で初演出を務め、昭和の音楽史を代表する作曲家・古関裕而と妻・金子をモデルとした窪田正孝×二階堂ふみ出演の朝ドラ『エール』で制作統括を務めた方でもある。

朝ドラの「再放送枠」はどう決まるのか

写真:イメージマート

「朝ドラの再放送をどの作品にするかは、編成ドラマジャンル担当者と再放送の権利処理や映像を用意する再放送班で決めています。歴代の朝ドラ作品の中で、再放送した作品・再放送していない作品をまとめたリストがあって、なかには近年何度も放送しているような作品もありますが、これまで1度も再放送していなかった作品はどれかをまず確認し、その中で視聴率はどうだったのか、作品の舞台となるご当地はどこか、現在放送中の朝ドラと俳優や脚本家のかぶりがないかなどを総合的に見て、ピックアップしていきます」(土屋勝裕氏 以下同)

そうした中で、例外はあるものの、BS再放送と総合の再放送の組み合わせも鑑みて、BSの放送は時代的に古いもの、NHK総合の再放送は比較的新しいもの、という選び方をすることが多いと言う。ちなみに、出演者のトラブルなどで再放送できない理由が明確にある作品のみ、不可の理由がリストに記されているが、その他の交渉の経緯などは明文化されていない。

「もちろん『再放送してほしい』という声がNHKあてにたくさん届いているものを選ぶこともあります。『芋たこなんきん』は実際、これまで再放送されたことがないから、DVD化もされていないから、名作だと聞くからなどの理由で、ぜひ再放送してほしいという声がたくさん届いていたと、BSプレミアムの担当者から聞いています」

そもそもこれまでなぜ再放送もDVD化もされていなかったのだろうか。

「これはあくまで噂レベルなのですが、作品はその時代その時代のもので、作られた時代に観てほしいということに主演の藤山直美さんがこだわられたところがあったと。藤山さんは舞台の方ですから、役者側も作り手も、今出しているものがタイムリーに見てもらいたい作品であり、役者の姿であって、再放送すれば、それはもう生のお芝居じゃなくなってしまう。時代も変わっていくのだから、再放送は別にやらなくても良いんじゃないかという意味合いで、なんとなく再放送が難しい作品として引き継ぎされてきました」

『芋たこなんきん』再放送の反響に「待ってました!」の声続出

通常、再放送の作品を決める際、編成側から再放送したい作品に関する打診をし、それを受け、先述の「再放送班」がヒロインをはじめ、メインの役者の事務所に許可をとり、使用料の手続きをする作業が必要になるという。これは非常に手間のかかる作業で、その過程でも見送りになる作品も当然ながら存在する。

改めて今回、再放送が難しいと思われていた『芋たこなんきん』を選んだ理由とは?

「再放送の希望の声が多かったことや、面白かった記憶が強いこと、ヒロインが藤山直美さんだということなどですね。実際、再放送をしてみると、反響は上々ですし、『待ってました!』という声がかなり多いです」

今後、朝ドラ再放送枠の作品について、リクエストを募る可能性は?と聞くと、こんな回答があった。

「もちろん視聴者の皆さんのご希望にはできるだけ応えていきたいと思いますが、アンケートをとると、意外と新しい作品に偏りがちなんですよ。記憶に新しいモノを挙げる方が多いようで。そうしたご希望も踏まえ、時代性やご当地、テーマ、キャスト、脚本家など、様々な要素から総合的に検討していきたいと思います」

(田幸和歌子)

エンタメライター/編集者

1973年長野県生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌・web等で俳優・脚本家・プロデューサーなどのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。エンタメ記事は毎日2本程度執筆。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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