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国家公務員の採用方法もグレードアップされるべきだ

鈴木崇弘政策研究アーティスト、PHP総研特任フェロー
国家公務員に必要とされる知見やスキルも大きく変わってきている(写真:イメージマート)

 日本経済新聞の私見卓見に「省庁は時代に合った採用急げ」という小論を寄稿した。

 同論では、近年国家公務員に関するマイナスイメージがあることやその制度や採用の改善を試みているようだが、国内外の社会の大きな変貌に十分に対応できていないことを受けて、長時間労働の是正や人事・給与制度の見直しを進める前提で、その大変貌に対応できる人材の採用において、次のような改善点を提案した。

・女性を中心とした多様な人材のさらなる採用

・中途採用や民間からの出戻り組の採用などの採用チャネルの多様化

・文系中心の採用を改め、理系出身の人材のより多数の採用

・事務官・技官の区分をなくすこと

・データ収集や分析のできる知見や経験のある人材の採用

国家公務員もより多様性のある人材が重要になってきている
国家公務員もより多様性のある人材が重要になってきている提供:イメージマート

 そして同論では論じていないが、日本における学歴の問題に関する採用条件の変更が必要であろう。

 日本では、学歴というと、大学入試の偏差値という単一の価値観に基づく大学のランキングがあり、そのランキングで上位の大学の卒業生であることが高学歴というイメージが強い。だが、海外では、ランキングは大学そのものの研究や教育レベルなどに基づくもので、さまざまな価値や評価基準でランク付けされ、複数のランキングが存在し、単純に単一的にランク付けされているわけではない。また学歴という場合、どの大学を卒業したかということだけでなく、大学院修了や博士号の学位があるかどうかが重要なのである。

学歴の意味も大きく変わってきている
学歴の意味も大きく変わってきている提供:イメージマート

 日本は、近年では、国際的に見た場合に、大学の学部卒(学卒)の割合でさえも必ずしも高くなく(注1)、まして大学院卒の割合は、理系はある程度高いが、全体として国際的にもかなり低い水準で、特に博士号取得者の割合は減少傾向にある。つまり、国際的に見て必ずしも高学歴な社会ではなくなってきているのである。

 他方で、海外では、公務員や教員などの専門的な職業では、修士号以上の学歴は不可欠なことが多い。また国連機関に勤務する国際公務員になるには修士以上の大学院修了は必須条件である。このように国際社会はすでに、高学歴社会化しており、正に学位社会になってきているのである。

 そしてさらに大学院教育で重要な点がある。大学院では、専門職大学院では必ずしも必要ではないが、その多くは何等かのアカデミックな論文(主に修士論文や博士論文)の執筆が修了要件になっている。

 その論文作成においては、問題や課題などの設定および分析、仮説の設定、さらに問題解決の提案の作成の経験やトレーニングを受けることになる。それらの経験などは、日本の現状に即した政策案等を作成する上での基礎になるはずであり、上述したような今そして今後において必要となる国家公務員(地方公務員にも適用できるだろう)に必要な知見やスキルである。その意味で、国家公務員、特に将来中央政府の幹部になることが想定されている総合職の採用では、大学院等の卒業資格がある者に限定すべきだといえるだろう。

 小論や本記事では、そのポイントを明確かつ分かりやすくするために、国家公務員の採用に論点を絞っているが、日本社会の今後の可能性やイノベーションを高めるには、労働市場において「多様性」と「(人的)流動性」を高める必要があるであろう。

雇用や労働の在り方も変化してきている
雇用や労働の在り方も変化してきている提供:イメージマート

 その意味で、社会全体はすぐに変えられないので、まずは中央政府が、日本の組織のやり方や環境を変えていくために、まずは採用において先陣を切るべきだ。

 日本が、今後において可能性を生み、よりイノベーティブな社会になっていくには、社会における「多様性」と「人的流動性」がキーワードだと考えられるが、そのためには、中央政府は、雇用の仕組みでも先陣を切り、基本的に終身雇用制をやめて本格的なリボルビングが実現していいけるように進めていくべきだ(注3)。

(注1)OECDなどのデータによれば、2017年時点で、大学進学率は、オーストラリアが94.49%で第一位、ベルギー80.55%、OECD平均57.9%で、日本は49.49%で平均以下となっているのである。

(注2)OECDなどのデータによれば、人口100万人当たりの博士号取得者数は、文系・理系に関わらず、日本は、米国、ドイツ、フランス、英国や韓国より低く、2008年と2018年を比較すると減少傾向にあるのである。

(注3)米国では政府のリボルビングが行われているイメージが強いが、米国でも政府や組織において長期間あるいは終身的に雇用されている人材が多々いることも知っておくべきだ。日本では、政治的任用というと民間人が政府に入ってすぐ活躍できているイメージがあり、民間人を入れることで政府が改善されすぐに機能するかのようなイメージが喧伝されることがある。しかしながら、これは誤ったイメージでありミスリーディングな情報である。政治的任用で政府に入り活躍されている人材は、若い時から政府と民間の間を行き来して、政府内でも仕事を経験し、そこでの人的ネットワークを含めた知見を有している者である。さらに米国政府でも、すべてが政治的任用の人材だけで成り立っているわけではなく、政治的任用に適している部署もあるが、終身雇用に近い人材がその役割を担っている部署もあるのだ。要は、政府組織において、政治的任用人材の活用とのバランスや組み合わせの工夫がなされているということができるだろう。

政策研究アーティスト、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。新医療領域実装研究会理事等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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