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空気を気にし過ぎた結果、「彼女を傷つけた、僕の優しい一言」

河合薫健康社会学者(Ph.D)
著者:ashraful kadir

朝日新聞が、「場の空気」気づかう20代」との見出しで、20代3000人と30代以上2500人を対象に行った世論調査結果を、先日報じた。

(以下抜粋)

・友達と話す時「場の空気を気にする」と9割が答え、そのうち「大いに気にする」は30%。これは40~50代の20%台、60代以上の10%未満を上回る数字だった。

・友人関係で精神的に傷つくことが「大いに不安だ」と答えた20代は6割を超え、「大いに不安」が17%、「ある程度不安だ」は47%だった。

・傷つくのが「大いに不安だ」と答えた人では、「場の空気を『大いに気にする』」と57%が答えていた。

つまり、かなり乱暴にまとめると、いまどきの若い世代は「傷つくのが怖いから、やたらと空気を気にする」という、自己保身の強い傾向が示されたのである。

確かに学生たちと接していると、「おいおい! そこまで気にしちゃうわけ?」という驚きを超え、気の毒にさえ思ってしまうことは多い。

空気を気にするあまり、言いたいことも言えず、傷つくのが恐いから、表面的な付き合いしかできず、とにもかくにもややこしい。

でも、空気を読むことは、いい人間関係の構築には必要ないと言っても、過言ではない。

空気を気にしても、傷つくときは傷つく。自分では空気をよんで接した“つもり“が、相手には“刃“となっているときがある。空気を読んで人と接するには、それなりの“ソーシャルスキル“が必要なのだ。

そこで、今回は「彼女を傷つけた、僕のやさしい一言」というテーマで、書きます。

まずは頭の体操から。

以下の、「○○○○」に一言入れて、A子とB男の会話を成立させてみよう。ただし、女性には言ってはいけない、つまりは「………」がネガティブな感情になりそうな、危険な一言を考えてみてください。

A子「おはようございます」

B男「おう、おはよう。○○○○ね」

A子「………」

さて、アナタが考えた、危険な一言は、何?

年配の方であれば、「女性に対して失礼な一言といえば、年齢でしょ?」と考えたかもしれない(多少古典的な回答ではあるが)。

でも、

「おはようございます」

「おう、おはよう。キミいくつだっけ?」

なんて会話の流れはちょっとヘン。百歩譲って、会話が全く成立したとしても、この流れで不機嫌になる女性は滅多にいない。頭の中が「???」だらけになり、気の利いた女性なら、

「お年玉でもくれるんですか?」

なんて突っ込みを入れて、不機嫌になるどころか失笑する。

従って、「年齢を聞く」はボツだ。

では、意図せず女性を傷つけてしまう危険な一言とは、いったい何?

模範(と言えないかもしれないが)解答は次の通り。

A子「おはようございます」

B男「おう、おはよう。疲れてるみたいだけど、大丈夫?」

A子「………」

「なんで???」と、今度はアナタの頭の中が「???」だらけになっていることだろう。だが、「疲れてる」という一言ほど女性を傷つける言葉はない。特に40代以上には、地雷ワードだ。

「疲れてるみたいだけど、大丈夫?」という一言は、

「眼の下にくまできてない?」

「お肌荒れてない?」

「髪の毛ボサボサじゃない?」

と同義。

「え? 私そんなにダメな感じなの?」と超ブルーになり、その数秒後には、

「え? 疲れてるってどういうこと。私、絶好調なんですけど」と、怒りがわく。

「なんで、そんなことイチイチ指摘するわけ? あんたに言われたくないわよ」とストレスを感じ、「セクハラされた!」と大問題になる可能性だってある。

相手を気遣ってかけた言葉が、相手をネガティブな気分させ、セクハラ呼ばわれされたんじゃ元も子もない。

―ポジティブな感情は、人間の知性を磨き、身体能力を培い、危機に面した時には勇気を奮い起こさせる。ポジティブな気分でいる時は、いつも以上に他者をいとおしみ、友情や愛情やお互いの絆もさらに強固になる。そして、新しい考えや教えを受け入れる柔軟性が持てる ̄。

これは心理学者フレデリクソンの言葉である。

人間はひとたびネガティブな感情に陥ると、些細なことに不安を感じ、イライラして八つ当たりし、仕事の効率も低下する。一方、ポジティブな感情は個人にとっても、周囲との関係性をプラスに引っ張る上でも、人間に必要な感情であることをフレデリクソンは、様々な実証研究で明らかにし、その重要性を指摘したのだ。

なので、せっかく一言をかけるなら、相手をポジティブな方向に引っ張る「魔法の言葉」にしたほうがいい。そこで、松山バレエ団の創設者で日中国交正常化に尽力した故・清水正夫氏(2008年に他界)の話を紹介する。

私は清水氏が創設した松山バレエ団の一般のレッスンクラスに通っているのだが、ある時初めて清水氏にバレエ団の入り口でお会いし、「おはようございます」と挨拶をした。すると、

「おはよう。……おっ、きれいになったな」

と、ニコニコしながらおっしゃった。

その時私は清水氏と初対面。「誰かと間違えているのかな?」とためらいながらも、笑顔でその場を去った。

ところがその後もお目にかかるたびに「おはよう。おっ、きれいになったなぁ」と、嬉しそうに繰り返す。しかも、私以外の人にも同じようにおっしゃっていたのだ。

「ボケちゃったの?」などと失礼なことも考えないわけではないが、「きれいになったなぁ」とニコニコ言われると、不思議とウキウキし、うれしくなる。

特に疲れている時に言われると、「ウソ! こんなボロボロなのに?」と思いながらも、元気目盛りがグッと高まる。たとえお世辞でも、単なる社交辞令の一言であっても、ちょこっとだけうれしくなる。

残業ながら清水氏は、数年前に他界されてしまったのだが、ふと会いたくなることがある。

「きれいになったな」とニコニコ言って欲しいーー。心が弱っているとき、あの一言が恋しくなるのである。

もちろん相手の心配する一言に、救われることもあるのだが、「大丈夫?」って言葉が万能とも限らない。

むしろ「あえて気がつかないでいてほしい」と思うこともあるわけで。極論かもしれないけれども、若いときは下手に空気など読まずに、もっとぶつかりあって生きた方がいいと思うのだ。

空気を読めずに余計なひと言をこぼした苦い経験が人間を成長させ、 傷つき、傷つけ会うことで本当の優しさを持てるようになる。

空気ではなく、相手に真摯に向き合う勇気を大切にしたいものである。

健康社会学者(Ph.D)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。 新刊『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか』話題沸騰中(https://amzn.asia/d/6ypJ2bt)。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究、執筆メディア活動。働く人々のインタビューをフィールドワークとして、その数は900人超。ベストセラー「他人をバカにしたがる男たち」「コロナショックと昭和おじさん社会」「残念な職場」「THE HOPE 50歳はどこへ消えたー半径3メートルの幸福論」等多数。

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