高校サッカー、2世代の選抜活動に見える「刺激の連鎖」(U-17日本高校選抜)
刺激が、さらなる刺激を生んでいく。1月20日から4日間、日本高校サッカー選抜の選考合宿が行われた。高校選抜候補は、2チーム編成。1つは、間もなく高校卒業を迎える3年生が主体の「日本高校選抜候補」。もう1つは、2023年度の高校サッカーシーンをけん引する現2年生以下の選手で構成される「U-17日本高校選抜候補」だ。
第101回全国高校サッカー選手権は、優勝した岡山学芸館(岡山)と準優勝となった東山(京都)が1月9日に国立競技場で決勝戦を行った。5万人もの観衆が押し寄せる中で日本一を争う舞台は、高校サッカー部に所属する選手の憧れだ。現2年生以下で構成されるU-17日本高校選抜候補は、第102回大会を目指す世代。次期ヒーロー候補が集い、互いを刺激した。
・日本高校サッカー選抜候補メンバー(リンク先:JFA公式サイト)
・U-17日本高校サッカー選抜候補メンバー(リンク先:JFA公式サイト)
※日本高校選抜候補のうち、U-17世代の3名(FW西丸、DF碇、DF田辺)は人数調整のため日体大戦と高校選抜同士の対戦では、U-17日本高校選抜候補に編入した。
上手い選手だらけの環境が与える「楽しさ」と「悔しさ」
高いレベルの集まりにワクワクしていたのは、岡山学芸館のMF田口裕真(2年)。「楽しいです、周りが上手いので。付いていくのがやっとなんですけど、欲しいところにパスが来るし、ターンをしろとかメッセージ性を感じます。選手権でホンマに人生が変わったというか。自分でも、ここに来れるわけないと思っていました」と笑顔を見せた。選手権でも見せたタイミング抜群の飛び出しは、同世代の選抜チームの中でも生きていた。上手い選手と一緒にプレーすると、自身の長所を引き出してもらえる。その楽しさは、誰もが感じているものだった。
しかし、ハイレベルな環境で味わうのは、楽しさだけではない。挫折に近い悔しさを感じた選手もいた。米子北(鳥取)のDF梶磨佐志(2年)だ。際立って動きが悪い印象はなかったが、日本体育大学との練習試合後に話を聞くと「何もできないですね……。今までと全然違うサッカーに適応できていないし、個々のレベルが高くて対応できていない。もっとやれるかなと思っていたが、全然やれずに悔しい」と浮かない表情で話した。過去に経験がないほどの無力感を覚えたという。本人は悔しいだろうが、選抜されていなければ味わうこともなかった貴重な経験だ。
2世代同時活動の刺激、1学年上に混ざって課題に直面
上には上がいる。問題は、それを感じて、どうするかだ。U-17世代の中でも神村学園(鹿児島)のFW西丸道人(2年)、大津(熊本)のDF碇明日麻、DF田辺幸久(ともに2年)の3人は、3年生主体の日本高校選抜候補に呼ばれた。DF田辺は、180センチのサイズにスピードと左足のキックと明確な武器を揃えた選手だが、1学年上の選抜候補の中では課題を痛感したという。合宿初日の紅白戦では、同じ大津で1年先輩のMF田原瑠衣(3年)とマッチアップ。「ボコボコにされちゃった」と苦笑いを浮かべた。「年上にもまれても負けないフィジカルを作らないといけない。まだ上でやれる武器がない。瞬発力を上げないと通用しない」と同学年で活躍することに満足せず、意識を高めていた。
U-17日本高校選抜候補は参加辞退者が出て人数が少なくなっていたため、田辺ら3人は合宿途中から同学年のU-17に編入。合流初日、日本体育大学との練習試合でFW西丸、中盤で起用されたDF碇がともに得点を挙げるなど、同世代の中では一段上のパフォーマンスを発揮。3人とも1学年上で活躍する自分をイメージして、進化を強く意識するようになったことは、大きな収穫だ。
活躍しても、その上を行くライバルから学ぶ物
そんな彼らに刺激を受ける選手もいる。碇とダブルボランチを組んでいた尚志(福島)のMF神田拓人(2年)は、鋭い予測を生かしてスムーズにボール奪取を繰り返していたが「守備中心のプレーになってしまうので、後ろのマークが足りていたらペナルティーエリアに侵入して得点できるボランチになりたい。碇君を見て、自分も点を決めたいと思いました」と理想の活躍を間近で見て、プレーの幅を広げる必要性を痛感していた。
選抜チームの活動は、日常にはない環境で刺激的だ。しかし、そこから何を学ぶかは、日ごろから成長するためのアンテナを張っているかどうかによって変わる。流通経済大学との練習試合でこぼれ球に鋭く反応してボレーシュートを突き刺した高川学園(山口)のFW山本吟侍(2年)は「1点取っただけ。守備も自分のところで取り切りたかったし、もっと決定力も上げたい」とどん欲だった。
楽しんでばかりもいられない。22年にU-16日本代表候補を経験。もう一度、代表に選ばれるためのステップアップとして選抜チームへの生き残りに闘志を燃やしていた。大きな体躯を生かしたポストプレーが印象的。速さがあるタイプではない。しかし、チームで行っている素走り系のフィジカルトレーニングでは、全部一番を目指すと決めてトライ中。スプリント担当コーチにトレーニング動画を送って助言を求めるなど改善を目指し続けている。
山本が代表候補の活動でレベルアップに必要な物を感じ取ったのと同じように、今回のU-17日本高校選抜候補の活動が、参加した選手各々に何を与え、どのような変化を及ぼすのかは、23年シーズンの高校サッカーシーンを見ていく上での楽しみの一つとなる。
ミーティングでの行動も手本に
3年生から2年生へ、2年生から1年生へとつながる刺激を受けるのは、ピッチ上でのパフォーマンスだけではない。國學院久我山(東京)のMF近藤侑璃(1年)は、上級生の力強く厳しいプレッシャーに得意のパスワークを封じられて課題を感じたと話していたが、ピッチ外での姿勢でも刺激を受けていた。
「みんな、目標が高くて具体的。高校卒業までにどうなるとか、明確な目標を持っていて、自分は、まだまだだと思いました。U-18とU-17の合同のミーティングがあって、U-17の選手はあまり挙手できなかったけど、芝田玲君(青森山田・2年)は挙手をして自分から意見を言う場面もあった。明確な目標をいつも持っているのだと思ったし、言うメンタルも必要。お手本になりました」(近藤)
各地域で、すでに都道府県の新人大会などが行われており、高校選抜候補には入れなかった選手もそれぞれに牙を研いでいる。1つ上の学年から、あるいは同学年のライバルから感じ取った強い刺激を、どう生かしていくのか。そして、誰が23年シーズンの高校サッカーで活躍を見せるのか。100年以上も続き、多くの日本代表選手を輩出した高校サッカー界の主人公は、刺激の連鎖から生まれている。