高校サッカー、それぞれのリスタート(日本高校選抜候補)
かつてない喜びを味わった者、あと一歩の悔しさを味わった者、目指した舞台に届かなかった者。それぞれが、新たな道を進み始めている。
5万人が集った国立競技場で全国高校サッカー選手権の決勝戦を終えた11日後、1月20日から2つの高校選抜チームの活動が行われた。1つは、間もなく高校卒業を迎える3年生が主体の「日本高校選抜候補」。もう1つは、2023年度の高校サッカーシーンをけん引する現2年生以下の選手で構成される「U-17日本高校選抜候補」だ。
前者は海外遠征、後者は国内大会に臨むメンバーの選考が行われる。ともに静岡県の御殿場市で合宿を行い、それぞれが流通経済大学、日本体育大学と練習試合を行い、最終日の23日には高校選抜同士で対戦した。
・日本高校サッカー選抜候補メンバー(リンク先:JFA公式サイト)
・U-17日本高校サッカー選抜候補メンバー(リンク先:JFA公式サイト)
※日本高校選抜候補のうち、U-17世代の3名(FW西丸、DF碇、DF田辺)は人数調整のため日体大戦と高校選抜同士の対戦では、U-17日本高校選抜候補に編入した。
優勝した岡山学芸館のMF木村は、2得点で持ち味アピール
日本高校選抜候補には、高校選手権を優勝した岡山学芸館(岡山)から4人が選出された。決勝戦で2ゴールを挙げてヒーローになったMF木村匡吾(3年)は、流経大戦とU-17日本高校選抜戦で得点。持ち味である中盤からの飛び出しで結果を残した。「高原良明監督からは、こんなに多くの人数で行って誰も選考に残らないのはヤバイぞと。優しく言われたんですけど、本音だろうなと思いました。自分なりには、全部出し切りました。得点という結果が出てアピールすることはできたかなと嬉しい気持ちです」と優勝チームのプライドを持って臨んだ合宿の手応えを語った。
流経大戦では、選手権決勝で対戦した東山(京都)のMF真田蓮司(3年)とダブルボランチを組んでプレー。高いレベルで戦ったからこそ認め合う部分もあり、気持ちよくプレーできたという。「海外は行ったことがない。経験するチャンスを与えてもらっている。行きたい気持ちは強い。大学でも1年からトップチームの試合に絡めるように、4年間をやり切ってプロを目指したい」と次の舞台にかける強い意気込みを示した。
準優勝の東山DF新谷、オウンゴールのショック払拭して前向きに挑戦
4000を超える参加校で選手権優勝を味わったのは、もちろん1校のみ。他チームの選手は、夢に届かなかった悔しい経験を糧に、次のステップアップを見据えている。準優勝だった東山のDF新谷陸斗(3年)も、その一人だ。決勝戦では、相手のクロスをインターセプトしたプレーがオウンゴールとなるショッキングな場面があったが「仲間が落ち着いてやったらいいと声をかけてくれたおかげで、普段の自分を取り戻せたし、その後のプレーは悪くなかった」と冷静に振り返った。
思い出す度に悔しさは蘇るが、次へ進もうと切り替える力強さが必要だ。今回の合宿中にオウンゴールの話題が出ると「国立でゴールを決めてみたかったんや」と強気の冗談で切り返してみせたという。今回の合宿では、センターバックだけでなくサイドバックでもプレーし、大学生にも負けない守備力と、攻撃の組み立てで特長をアピール。「戦ったら、面倒くさい相手ばかり。そんな選手を仲間としてどう生かすか。仲間のおかげで自分の良さを出せた部分もあるので、感謝したい。高いレベルで要求し合えているし、良いチームになれる。選考に残ってさらに成長につなげたい」と、少し前までライバルだった選手たちとの切磋琢磨で前向きな姿勢を見せていた。
最多7人選出の前橋育英勢、MF小池も退場の悔しさ乗り越えて意欲
敗れてなお強し。インターハイを優勝して選手権でも優勝候補に挙がっていた前橋育英はベスト8で敗れたが、日本高校選抜候補には最多7人が選出され、個々がクオリティーの高さを見せつけた。流経大戦では、FW山本颯太(3年)、日体大戦とU-17日本高校選抜候補戦では、FW高足善(3年)が得点。多くの仲間から絶賛されるMF徳永涼(3年)は、試合中のコーチングに留まらず、FW陣には個別に声をかけ、一緒に試合に出たらどういうボールを欲しいか聞き出していたという。
MF小池直矢(3年)は、選手権の準々決勝で退場処分を受け、責任を感じる敗戦に嗚咽が止まらず会場を後にしたが、気持ちを切り替えて高校選抜の活動に参加。「(前橋育英は)後半に強いチームだったので、11人いれば点を取って勝てたと思う。(選手権は)自分のせいで負けてしまったと思っています。でも、大学でも全国大会はあるし、プロや代表で結果を残せればと、もう気持ちは切り替えました。国際レベルで何が通用するかしないか、サッカー人生における課題を出すために、ドイツへ遠征する18人に選ばれたい」と語り、次なる舞台へ気持ちを切り替え、精力的にボールを追いかけた。
帝京長岡の廣井は、プロの誘いを断って大学へ
今回の日本高校選抜候補には、選手権の全国大会に届かなかった選手も参加している。帝京長岡(新潟)のMF廣井蘭人(3年)は、1年次に全国4強入りに貢献して注目されてきたが、最高学年を迎えた22年度は、県大会準決勝で敗退。悔しさが大きく、全国大会の情報は遮断。1試合も見なかったという。
昨季のU-17日本高校選抜で一緒にプレーした仲間との再会を喜びながらも「全国大会に出ていた選手よりモチベーションは高く持っているつもり。楽しみながらも自分の武器を前面に出そうと思っていました」とドリブルやパスで相手を崩す攻撃を発揮。中盤の中央、サイドのどちらでもプレーできる強みも示した。
プロからも声がかかったが、進路は大学を選択。「守備の強度など足りないところだらけ。嫌な部分にも取り組み、鍛錬を続けてプロの世界に飛び込みたい」と多くの即戦力プロを輩出している大学サッカー界でのさらなる成長を誓った。
昨日の敵は今日の友、高い意識で互いを刺激
クラブユースからでも高校からでも、あるいは大学からでも日本代表で活躍する選手が出てくる。広い裾野と高い競争力は、日本の育成の源だ。高卒でプロに進む選手は、すでにチームのキャンプなどが始まっており、高校選抜の活動には参加していない。しかし、大学へ進む選手も負けるつもりはなく、高い意欲で同じ舞台への挑戦を見据えている。青森山田(青森)のDF多久島良紀(3年)は「レベルの高い合宿で、個人のレベルアップには最高の場。みんなに負けないように対人の強さ、ヘディング、ロングフィードといった持ち味をアピールしたい」とハイレベルな競争に闘志を燃やしていた。
國學院久我山(東京)のFW塩貝健人(3年)は「試合後のシュート練習を見ていたら前橋育英のMF根津元輝(3年)が上手かったので、後で練習方法とか蹴り方を聞いてみたい。高校選抜は、プロ志向が強い。徳永は、ピッチ外のコミュニケーションとか、四六時中サッカーのことを考えているなと思いました」とサッカーに対する姿勢の面でも刺激を受けていた。昨日の敵は、今日の友。高校選手権という大舞台の頂点を争った選手たちは、夢舞台の後も互いを刺激し合って、さらなる成長を目指している。その中から日本代表へ飛躍する選手が出てくる可能性は、十分にある。
練習試合「日本高校サッカー選抜候補vsU-17日本高校サッカー選抜候補」
(リンク先:高校サッカー公式YouTubeチャンネル)