アップルとグーグル、モバイル技術を自動車へ ただし、自動車大手はダッシュボード死守の構え
米アップルは3月10日、モバイル基本ソフト(OS)の新版「iOS 7.1」をリリースした。
この新版では、アイフォーン(iPhone)やアイパッド(iPad)のホーム画面がクラッシュする問題を修正したほか、ユーザーインターフェースの改良を行った。
また音声アシスタントの「シリ(Siri)」や指紋認証の「タッチID(Touch ID)」などの機能も向上させている。
だが、アップルがこの新版の目玉機能としているのは、アイフォーンと連携する車載システム「カープレイ(CarPlay)」だ。
世界の大手自動車メーカーと提携
カープレイは、大手自動車メーカーが今年発売する新モデルで、アイフォーンをコネクターでつなぐと、ハンドル上のボタンを押して「シリ」を起動させたり、ダッシュボードのスクリーンをタッチしてアイフォーンのアプリを利用したりできるようになる。
これに先立つ3月3日に、アップルはカープレイを正式発表した。
その時アップルが公表した提携自動車メーカーは、イタリアのフェラーリ、ドイツのメルセデス・ベンツとBMWグループ、米フォード・モーター、米ゼネラル・モーターズ(GM)、スウェーデンのボルボ、英ジャガー・ランドローバー、フランスのプジョーシトロエングループ、韓国の現代自動車など。
日本のメーカーでは、トヨタ自動車、ホンダ、日産自動車、三菱自動車、富士重工業、スズキがカープレイを採用するとアップルは発表している。
興味深いのはこの発表が行われた後、インターネット上で「アップルによるダッシュボードの乗っ取りが始まった」と口々に言われたこと。
また米グーグルは今年1月、同社のモバイルOS「アンドロイド(Android)」を自動車に搭載することを目的とした企業連合を、ドイツ・フォルクスワーゲン(VW)傘下のアウディやGM、ホンダ、現代自動車などと結成した。
こうしたことからアップルとグーグルの2社は今後、ダッシュボードを狙って、熾烈な戦いを繰り広げると報じられた。
カープレイの用途は限定的?
だが、その一方で、自動車メーカー各社は車載情報システムを、重要な収益源や、ブランド力向上の戦略と捉えており、アップルなどのIT企業に明け渡すはずがないとも言われている。
例えば、現在スイスのジュネーブで行われているモーターショーでデモを見たという米シーネットの記者は、アップルのカープレイについて、これまでにもあった、携帯音楽プレーヤー「アイポッド(iPod)」と自動車の連携を、少し進歩させただけと伝えている。
カープレイでは、ダッシュボードのスクリーンにアイフォーンのアプリのアイコンが表示されるが、現在利用できるのは、電話、テキストメッセージ、音楽、地図のアプリに限定される。
これまでもアイポッドやアイフォーンをUSBケーブルで車載オーディオにつなぎ、ダッシュボードのタッチスクリーンで、アーティストやアルバム、ジャンルごとに音楽を表示し、再生することができた。カープレイはこの仕組みとあまり変わらないとシーネットの記者は指摘している。
車載情報ネットワークの主導権は我が社にあり
米ウォールストリート・ジャーナルによると、自動車メーカーは、それぞれに自社の車載情報システムを開発しており、独自のコンシェルジュサービスを提供している。
BMWには「Connected Drive」、メルセデスベンツには「MBrace」、GMには「onStar」があり、これらには、バッテリー、オイル、燃料タンクのモニタリング機能、ナビゲーションサービス、レストラン・ホテルの予約サービスなどがある。
自動車各社はこうしたサービスを提供することで料金収入を得たり、顧客満足度の向上に役立てたりできる。アップルやグーグルとの提携は、包括的なサービスの一環にすぎず、車載情報ネットワークの主導権を握るのはあくまで自社だと各社は考えているという。
ドライバーの各種操作から得られる「ビッグデータ」について、現時点でこれを直接的に収益に結びつける方法は見いだせていない。だがビッグデータは技術の進歩とともに、大化けする可能性がある。自動車大手は、そのための研究開発も行っているとウォールストリート・ジャーナルは伝えている。
(JBpress:2014年3月12日号に掲載)