ジャパンセブンズ準優勝 帝京大学がわずかな準備でトップリーグ勢を苦しめたわけ【ラグビー雑記帳】
大会のキャプテンを務めた松田力也は、最後のゲームをこう悔やんだ。
「勝ちたいという気持ちが出すぎてしまった」
7月5日。東京は秩父宮ラグビー場。多様なカテゴリーのクラブが7人制ラグビーで頂点を競う「ジャパンセブンズ」があった。15人制では大学選手権6連覇中と学生界では敵なしの帝京大学ラグビー部は、予選プール上位陣によるカップトーナメントの決勝に挑む。ここまで無傷だった。
序盤、それまではごく限られていた落球を数多く重ねた。その原因を松田が分析すると、「気持ち」が悪影響を及ぼしたということになる。この日は陣頭指揮を齋藤信和コーチに任せた岩出雅之監督も、くだけた言い回しで問題点を指摘した。
「最後だけ、遊びがなかった」
国内最高峰トップリーグの名門である神戸製鋼に、逆転トライを奪われた。24-31。そのままノーサイド。6月までの15人制の関東大学春季大会では5戦とも完勝の指揮官は、「久しぶりに彼らの悔しがる顔を見た。本気で狙いに行った試合で負けた。文句なしの悔しさがあると思う」と前を向くのだった。
もっとも、大会を通しては高質だった。
3チームによる予選プールの2試合目。昨季のトップリーグの王者、パナソニックを38―12で制す。若手中心の編成だった相手を、ほぼほぼ黙らせていた。
象徴的なシーンは前半6分にあった。
帝京大学のランナーが敵陣右中間の深い位置まで突っ込むと、後ろの選手が「力也、寄れ!」。その場へ「力也」こと松田が「寄」った先ではちょうど、パナソニックの選手数名が接点付近の球を奪おうとしていた。
「寄れ!」のおかげで、松田は滑り込みセーフといった格好でボールを確保。声の出どころへパスをすると、用意された攻撃ラインが左大外まで展開する。ちょうど右側に人員を割いていたパナソニックを前に、左へ球を回したわけだ。最後は新人のブロディ・マクカランが、このゲームで3本目のトライを奪った。
目の前の状況を見てベストプレーを選ぶ判断力、その内容を皆と共有するコミュニケーション、正確に球を扱う技術。ボールゲームとしてのラグビーの遂行能力が、きっちりと示されたのである。
15人制は15対15で80分間のワンゲームを競うのに対して、7人制では7対7で14分間ないし20分間の試合を複数こなす。使うボールとフィールドは同じでも、両者はほぼ違う競技として扱われている。
この日出場した多くのチームは、さして7人制仕様の準備に時間をかけられずにいたようだ。帝京大学も同じで、選手の話を総合すると「全体練習後に(連携を)合わせたのが2、3回」である。
条件はほぼ同じ。そんななか学生が社会人相手に相応の結果を残した最大の理由は、結局、この日の出場メンバーの実務遂行力だろう。怪我やチーム事情でメンバー構成に苦心していたトップリーグ勢を向こうに、帝京大学は松田やマクカラン、主軸バックスの森谷圭介、エース候補の尾崎晟也、竹山晃暉など、15人制のレギュラー候補たちをリストアップさせていた。特に尾崎と竹山は、いずれも的確な位置取りと鋭利なランニングスキルを披露していた。
――なぜ、さほど準備をしていないなかで7人制のチームとして連動できたのでしょう。
「みんなが、(状況判断について)考えてくれるからです。チーム全員で、という意識を強く持てた」
松田がこう言えば、カップトーナメント準決勝で後半ロスタイムの同点トライ(直後に21-19とリコーを逆転)を決めた竹山もこの旨の言葉を添えた。
「前を見て、どこ(のスペース)が空いているかというコミュニケーションを取れていた。15人制でも、前を見てプレーしているので」
7人制だろうが15人制だろうが、ラグビーは球技で格闘技である。そして帝京大学は球技的側面でも格闘技的側面でも、「打倒トップリーグ勢」を目指す基準に置いている。岩出監督はいつか言った。「偶然勝つなんて、ありえないから。必然で勝てるように」。準備不足だったかも知れぬ大会で好成績を収めた背景には、その日常がある。