JRと東海道新幹線の放火事件。「八つ当たり中高年男」にならないために今からすべきこと
JR関連施設への連続放火事件の容疑者(42)が逮捕された。怖れや怒りよりも既視感を覚えた人は筆者だけではないはずだ。わずか2か月前、走行中の東海道新幹線内で焼身自殺をして乗客一人を巻き添えにした男(71)のことである。前者は自称ミュージシャンで武蔵野市東町3に住んでおり、流しの演歌歌手の経歴がある後者の住所は杉並区西荻北4だった。地図を見ればわかるが、2人は同じ町の住人だとわかる。
フリーライターの筆者は3年前まで彼らと同じくJR西荻窪駅周辺で暮らしていた。好きな仕事で身を立てることを志した文化系の人たちが全国各地から集まってくるこの町を、生まれ育った土地よりも好ましく思っている。だからこそ他人事ではない。忌むべき先輩たちを反面教師としなければならない。彼らはなぜ暴走したのか。我が身を振り返りながら考えると、男性が陥りがちな原因が見えてくる。
1、プライドが高すぎて現実の自分が見えなくなる
好きなことを追求し、自信を持ち続けることは大切だと思う。しかし、現実とも折り合わなければならない。ミュージシャンとしては生計を立てられなくても、音楽を教えたり楽器を販売したりする道に活路を見出すことはできなかったのか。
身の丈に合わせた生活も重要だ。欲望(ギャンブルや風俗など)や見栄(車は手放せない、後輩にはおごる、など)を抑え、掃除・洗濯・料理をこまめにすれば、贅沢はできなくても心身の健康は保つことができる。
2、経済的に困窮する
1が行き過ぎると、やがて経済的にも行き詰まる。しかし、原因がわかっていないので、「オレはまだこんなもんじゃない」「いずれスポットライトが当たる」「いまこんな状態なのはあいつのせいだ」などと思い込み、仕事や生活に対する傲慢かつ怠惰な姿勢は改められない。しまいには借金を重ねるようになり、社会的な信用も失う。
3、支えてくれる家族や友人がいない
筆者自身、5年前は1と2の状況にあった。鬱屈と不安の塊のようになり、前妻からは家を追い出されてしまった。逃げ戻って来た西荻窪で再起を図れたのは自分の力ではない。「借金は合計100万円までにしておけ。それを超えると首が回らなくなる」と実感を込めて諭してくれた先輩であり、「何でもやります。生意気言ってすみませんでした」と頭を下げたらすぐに仕事をくれた取引先であり、引っ越しを手伝ってくれてお金までくれた弟であり、壁が薄くて寒いアパートに自作カーテンやホットカーペットを入れてくれた友人たちのおかげだった。
自営業でも会社勤めでも、仕事や体調には波がある。不調になったときは、ジタバタしても無駄であり、心静かにやり過ごすしかない。重要なのは順調なときに上記の3点を意識しておくことだ。自分の弱さや才能のなさを認めつつ、いま与えられた場で全力を尽くす。ささやかな額でも貯金をし、収入の範囲内で楽しく暮らす。家族や友人には適度に連絡をし、朗らかに接して、必要なときはできるだけの助けをする。
40代にもなったら、少しずつでも恩返しをする側に回りたい。自らを律することすらできず、社会に対して八つ当たりテロをするような中高年にだけはなりたくない。そのために、比較的平穏な今からすべきことがいくつもある。