【怒れ!保育園児たち】お散歩なくなる こども誰でも通園制度で起きること【現役保育士が訴え】
現役保育士&資格マニアです。
こども家庭庁が「こども誰でも通園制度」試行的事業の指針を取りまとめました。
「こども誰でも通園制度」が実施されると保育園では何が起こるのか、現役の保育士の立場から具体的に紹介します。
「こども誰でも通園制度の本格実施を見据えた試行的事業実施の在り方に関する検討会」では、制度の意義について議論していますが、制度を利用する保護者のメリットは大きく語られる一方、年間を通して通園している在園児への影響はほぼ無視されている点に注目です。
こども誰でも通園制度を運用するとこうなる
筆者の勤務園では、4月からの新年度に新卒保育士が誰も入職しないことがほぼ決まっています。このような保育園は少なくありません。
現状の保育士数および現状の設備を維持しつつ、制度を運用するとどのように保育園が変わるのか、筆者の勤務園をサンプルに予測します。
保育士1人で1歳児10人を保育する?
子どもの人数に対して必要な保育士の人数を厚生労働省が定めています。例えば1歳児クラスでは子ども6人に対し保育士1人という具合です。
現在10人在籍・担任2人という1歳児クラスに、定員まで2人分余剰があるとして、誰でも通園制度利用の子どもを2人受け入れたとします。
そうなると2人の保育士のうち1人は制度利用の2人に付きっきりにならざるを得ず、もう一人で在園児10人を見ることになるでしょう。
見かけ上、12人の園児に2人の職員がいる計算になっていますが、配置は歪んでいますよね。
保育室の不足で行事の開催が危ぶまれる
職員不足や在園児への影響を考えて、誰でも通園制度利用の子どもを在園児と混ぜず、制度利用の子だけを一室に集め、異年齢の合同保育にすることで無理やり制度に対応する保育園も当然のようにあるでしょう。
その場合、制度利用の子だけを保育する部屋が一部屋必要になります。
厚生労働省が定める保育所の運営基準では乳児室や保育室などの設置は定めている一方、誰でも通園制度を運用するために利用できる部屋は考慮されていません。
現状でも、運動会や発表会の大道具や衣装などを置くスペース、職員が打ち合わせをするスペース、制作物を作るスペースなど、保育園運営に欠かせない空間についても運営基準では考慮されていない事実があります。
誰でも通園制度の運用により、保育室不足が加速することは明らかです。
誰でも通園制度利用の子どもに対して起こること
年間を通して毎日通園する在園児でも、入園当初は慣らし保育をします。
慣らし保育では、0-1歳だと例えば次のようなスケジュールで2週間近くかけて徐々に保育園の生活に溶け込めるようにします。
- 2日間 1.5時間過ごす
- 1日間 2時間過ごす
- 2日間 2.5時間過ごす
- 2日間 3時間過ごす(はじめての給食)
- 2日間 6時間過ごす(はじめての午睡)
- 2日間 7時間過ごす(はじめての午後おやつ)
慣れが早い子だと2歳児だと1週間程度、3歳児以上だと3日程度で慣らし保育を終えることがありますが、途中風邪をひいて休んだりとスケジュールどおりに進むことはまれです。
こども誰でも通園制度では月10時間までと利用時間が制限されていますが、毎月登園したとしても保育園でまともに過ごせるようになりません。
来ても泣きっぱなしで他の園児と混じって交流などできるわけがありません。
年間を通して保育園に来ている子は、毎日来ているからこそ保育園の生活に溶け込めているのです。
そんな不慣れな場所に来て給食が食べられるとも到底思えず、せいぜい2時間が子どもも限度であると強く思います。
在園児に対して起こること
こども誰でも通園制度で最もデメリットを受けるのが、年間を通して毎日登園している在園児であると考えます。
精神的に不安定に・怪我が増える可能性
新しい子が入ってきて浮き足立ってしまい、怪我が増える可能性があります。
普段保育園で落ち着いて過ごしている子も、そばに泣いている子がいるとつられ泣きをします。
また、こども誰でも通園制度では初回利用時などに親と共に登園できる「親子登園」が検討されていますが、在園児からすれば心を不安定にさせる要因でしかありません。
保育士との愛着関係・信頼関係を基に家庭とは異なる生活の場で頑張っているところに、制度利用のお友達が家庭生活を持ち込むことで「なぜ僕・私は親と一緒じゃないのだろう」と不安になります。
活動に制限 チャレンジがしにくく
職員が制度利用の子どもへの対処に工数を取られるため、在園児はお散歩やハサミを使う活動など特に手厚い見守りを要する活動が制限されます。
毎日通園している在園児は子どもたち同士、ケンカなどもありながら結束もしています。
お友達と手を繋いでの散歩や、運動会・発表会でも発揮する迫力あるレベルの高い演技は、日頃からの子どもたち同士の関係性があればこそです。
こども誰でも通園制度が運用されると集団行動に不慣れな子の方に活動内容を合わせることになるため、散歩の距離を短くしたり、演目のレベルを下げるなどせざるを得ません。
筆者個人的には、こども誰でも通園制度は在園児から見るとメリットと思える点が見当たりません。
まとめ
育児負担の軽減や孤立感の解消につながるなどとされるこども誰でも通園制度。
家庭保育の保護者にとってはありがたい制度ですが、制度を利用する子と在園児の双方にとってメリットよりデメリットの方が勝るようです。
中途半端な制度であるため、筆者個人としては、既存の保育園を利用して子育て支援を行うのではなく、ベビーシッターや子育て支援室の制度を拡張して支援を行うべきと考えています。