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なぜ北海道の「喫煙率」は奈良県より10ポイントも高いのか

石田雅彦科学ジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

日テレ系の人気長寿テレビ番組に『秘密のケンミンSHOW』(略称「ケンミンショー」:2007年10月放送開始)がある。「お国柄」とか「県民性」などと言われるように、都道府県には各地でそれぞれ特色があり「喫煙率」でもその傾向は強い。

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都道府県別の喫煙率では、最も高い北海道と最も低い奈良県では10ポイント以上の差がある。また、奈良県はこの間で喫煙率を12ポイント減らしている。ちなみに、2010年と2013年で上位3位の喫煙率が上がっている。この上昇は他県でもみられるが、上昇した県の健康担当に聞いても「理由がよくわからない」という答えばかりだった。筆者は2010年のタバコ価格値上げ(セブンスターが300円から440円など)の反動と考える。2001年から2013年の厚生労働省「国民生活基礎調査」より。

喫煙率は「東高西低」

都道府県別に喫煙率の高い低いを色分けしてみると、北日本・東日本で赤色が濃い(喫煙率高め)。中部から近畿、西日本では大阪府、高知県、福岡県などでやや高いがおおむね喫煙率は低くなっている。

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都道府県別で喫煙率によって色分けしてみた。赤色の暖色が濃いほど喫煙率が高く、緑色で寒色が濃いほど喫煙率が低い。ここにも「東高西低」の傾向がみてとれる。2013年の「国民生活基礎調査」より。

筆者は最近よくタバコ問題の記事を書いているが、調べていていつも不思議に思うのは「なぜ都道府県でこんなに喫煙率に差があるのだろう」ということだ。特に北海道と青森県などの喫煙率が高くなっている。

総合的な取り組みが奏功した奈良県

喫煙率の低い奈良県の行政担当者の方の話によれば、県の保健所に窓口を設置し、禁煙サポートを積極的にやっている、とのことだった。

また、奈良県には「禁煙マラソン」で有名な日本禁煙科学会の理事長、高橋裕子(奈良女子大教授、京都大学大学院医学研究科特任教授)氏がいる。奈良県庁のホームページには、禁煙マラソンに奈良県在住者在勤者が無料で登録できる窓口もある(事業所参加以外の一般参加者は一口1万円かかる)。

教育機関でのタバコ教育、禁煙リーフレットの配布、保健ボランティアの禁煙への取り組み、禁煙支援登録薬局での地域連携なども奈良県の禁煙支援では特徴なことだと言う。さらに、古い貴重な木造建造物が多いため、奈良市、大和高田市、大和郡山市、橿原市、生駒市などポイ捨て禁止条例や路上喫煙防止条例のある自治体も県内に多い。

どうやら、こうした県内での総合的な禁煙への取り組みが低い喫煙率につながっているらしい。ちなみに奈良県の荒井正吾知事も非喫煙者だ。

北海道と青森の高喫煙率の謎

北海道の保健福祉部地域保健課に電話してみたが「道の喫煙率が高い理由を分析できていない」との答えが返ってきた。全国比較すれば肥満の傾向が高かったりするが、歩行数や頻度が全国平均よりやや低い程度で特別に変わったところはないようだ。

北海道でも受動喫煙防止などの「たばこ対策」に取り組み、未成年者への教育や禁煙支援、「おいしい空気の施設推進事業」として禁煙分煙施設の推進、母子保健事業などでの啓蒙などを強化している。高橋はるみ知事は女性知事としてタバコ対策に積極的なようだが、なかなか成果が上がらないのが実情らしい。ちなみに高橋知事は非喫煙だ。

筆者自身も北海道生まれだが、物心つくころには離れ、道内には身よりもいない。

そこで北海道出身や在住の知人にメールで聞いてみると「娯楽が少なくやることがないからストレス解消にタバコでも吸うしかない」とか「歴史が浅い開拓民の土地だから保守的ではなく、地縁血縁的なしがらみが薄い。喫煙についても同様な理由で寛容なのではないか」などという返事が返ってきた。

女性の喫煙率が高いのも北海道の特色だが「女性の喫煙にうるさくない」という意見もある。周囲の女性喫煙率が高いから、吸わないと「肩身が狭い」という意識も強いらしい。

また「3日も住めばみんな道産子」と言われるように、北海道人はあまり排他的ではない。一方、北海道は離婚率が高く、各年代で「一人暮らし」の割合が高いが、それも喫煙率と関係しているのだろうか。

青森県も喫煙率の高さに悩んでいる。県の健康福祉部に聞くと「喫煙率が高い理由はわからない」と北海道と同様の回答となった。ただ、未成年の喫煙率がやや高くそれが成人の喫煙率につながっているのでは、との予測はある程度しているようだ。

短命県であり、がんの発見が遅かったり、塩分過多の生活習慣だったりと青森県の特殊事情もある。担当者の感想としては「他県から来た方がよく『青森の人は喫煙者に寛容だ』と言うので、あまり他人の喫煙にとやかく言わない県民性もあるのかもしれない」とのことだった。

青森県では特に未成年者、若い世代に対する禁煙サポートに力を入れている。青森県人は「津軽のじょっぱり(強情)」と言われるように頑固だが、その努力が実を結べばやがて県全体の喫煙率が下がっていくのかも知れない。ちなみに三村申吾青森県知事もタバコを吸わない。

炭酸飲料の消費量は、北海道や青森などで高い。炭酸飲料の消費量は男女の小中学生の肥満率との関係が示唆されるが、こうした嗜好品消費傾向と喫煙率との間にも何か関係があるのかもしれない。

パチンコ屋と相関するか

男女ともに、がん死亡率と都道府県の喫煙率には正の相関がある。肺がんと膵がんの死亡率でいえば、北海道と青森で高く、女性の肺がんと膵がんの死亡率一位は北海道、男性は青森となっている。生活習慣では、睡眠時間の短さ、ビールなどのアルコール消費量の多さと喫煙率との間に正の相関がみられる。

パチンコなどの遊戯施設についてはどうだろう。北海道の知人は「道内にはパチンコ屋も多い」と言っていた。パチンコ台数は、宮崎県や鹿児島県が突出して多く、沖縄県が突出して少ない。

都道府県別の店舗数でみればパチンコ店と喫煙率の相関もありそうだが、人口比率でみるとなんとも言えない。単にグラフの比較では統計的な有意差などわかるはずもないが、パッとみた印象としては遊技施設と喫煙には何か相関がありそうな気もする。

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都道府県別の遊技場にある遊技台(パチンコ、いわゆる「パチスロ」回胴式遊技機など)の数と喫煙率の比較。遊技台数は各都道府県の人口千人当たりで割った。平均は39台。人口の多い都市圏では低くなるが、北海道や青森などの東北各県、高知、福岡などは平均よりも高い。ただ、喫煙率の低い県でも平均より台数が多い県がある。遊技台数は「全日本遊技事業協同組合連合会」調べ。2016(平成28年)12月31日現在。喫煙率は2013年の「国民生活基礎調査」より。

結局、喫煙率の地域格差の「謎」で言えば、特に高い地域での理由がわからないままだが、生活習慣や県民性が複雑に影響しているという予想が成り立つ。特に「他者の喫煙に対する寛容さ」は重要なキーワードだろう。

やはり「喫煙行動」には「マイナスのピア効果」など周囲の環境要因が深く関わっていると言える。逆に言えば、声高にタバコ対策を唱える社会は、ある種の寛容さが失われているのかもしれない。

喫煙率は「東高西低」と言われるが、福岡県や高知県では喫煙率が高い。都市化したり開放的な土地柄の中へ、周囲の保守的でコンサバな地域から喫煙者が流入するのだろうか。また、この両県は他者に対して寛容なのだろうか。いずれにせよ、この地域差が解明されれば、受動喫煙防止対策や禁煙サポートへの有力なヒントとなるのは間違いない。

※:2017/05/22:18:52:奈良県の事例を追加した。

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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