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【落合博満の視点vol.14】野球を始めたばかりの小学生に教えたい3つのこと

横尾弘一野球ジャーナリスト
競技人口の減少が叫ばれる野球において、小学生に教えたいことを落合博満が提案する。

 落合博満がトークショーなどで質疑応答をすると、小学生チームの指導者から様々な質問が投げかけられる。落合自身は、小学生には技術的な指導を細かくせず、楽しく野球に取り組むことをまず経験させ、その楽しさの中で基礎体力をアップさせたほうがいいと考えている。

 ただ、日本の野球界におけるピラミッドの裾野を支えているのが小学生であるがゆえ、チームに子供を預ける親の本音は「このチームに入れたら、中学でもレギュラーになれる選手に育ててくれるのか」や「このチームの指導者は、どれくらいの力があるのか」ということになるだろう。そうなると、小学生チームの指導者も公式戦で勝利にこだわるだろうし、その傾向は中学から高校、高校から大学や社会人と競技レベルが高くなるにつれて強くなるはずだ。

 そうして、熱心な指導者に教えられた選手が、ある程度のいい技術を身につけていくのと同時に、よくないクセも身体に染みついてしまうという現実もある。落合は、その大きな原因のひとつに「体力不足の段階で、無理に技術指導をしてしまうこと」を挙げ、小学生に教えておきたい3つのことを提案する。

 社会人やプロでも野球を続けていくために不可欠なのは、技術と同時に強い身体である。第一線から退く理由が、厳しい競争に淘汰されたのではなく、大きなケガや故障では、野球人生に大きな後悔が残り、その後の人生にも影響しかねない。そうならないためには、簡単には壊れない身体作りが必要になる。

 プロで若い選手を鍛える際にも、いくらしごいても故障しない選手はやりやすく、そんな選手が大成する確率も極めて高いと言われる。強い身体の土台は正しい食生活であり、子供たちが好んで食べる肉類に加え、野菜をはじめ豆類、海草類、キノコ類などもバランスよく食べることが大切だ。落合は「最近は、栄養素などのバランスを数値化しているが、何よりもできるだけ時間をかけ、腹いっぱい食べるという習慣をつけてほしい」と説く。そして、「食事を上手く摂れない選手は、野球も上手くなれないということを、指導者や親が子供たちに教えてもらいたい」と言う。

一人遊びやチームプレーが野球への関心も高める

 2つ目は、野球は一人でも練習できるということ。サッカーの競技人口が伸びた際、「サッカーは小さな場所さえあれば、リフティングなどの練習ができる。それに比べて野球は、ある程度の広さの場所と人数が必要になる」と言われたことがある。それを「大きな誤解」だと指摘する落合は、「私たちの少年時代は、三角ベースのような遊びから野球に入っていったが、一人でのボール遊びも盛んだった」と振り返る。

「就寝前に布団に寝そべり、ゴムボールを天井に向かって投げる。右利きなら右手で投げたボールを左手で捕るという動作を繰り返すことが、何よりもボールをリリースする際の指先の感覚、正しいヒジの使い方といった要素を覚えることに役立った」

 練習には、自分がやりたいと思ったことに取り組むのが最も身につきやすいという側面もあるので、一人遊びは技術を習得する基本の基本にもなっていく。指導者が、一人の時間にもボールと戯れること、その楽しさを教えることも大切なのだ。

 そして、野球がチームスポーツであるという認識を強く持たせることが3つ目だ。技術指導はほどほどにして、チームとしての動きを徹底的に教え込む。野球は究極の個人技と言われるように、打つ、投げる、走るという要素は、選手が自分自身で磨くものだろう。しかし、能力の高い選手が集まっても、チームとして機能しなければ試合で勝利を得ることはできない。チーム力を高めるためには、チームプレーの理解と実行が必要になる。

「例を挙げれば、投手をしている子供には、一、二塁間方向にゴロを打たれたら、すぐに一塁ベースカバーに走ることを徹底する。長打コースに打たれてバックサードの指示が出たら、どこへカバーリングに走ればいいのかを教えるのも大切だ。チームプレーとは、ひとつのボールに対して9人の選手が動くものだということを教えれば、チームプレーの楽しさを実感できるし、野球という競技への関心も高まるだろう」

 また、そうやってチームプレーの動きをしっかり身につけた選手は、ひとつ上のレベルの野球でも、「彼は野球を知っている」と指導者が使いたくなる。野球は、チームスポーツの中でも屈指の頭脳的競技だととらえている落合は、「野球を始めたばかりの世代には、なるべく規制のない中で野球の素晴らしさを伝えてもらいたい」と結ぶ。

(写真提供/小学館グランドスラム)

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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