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ホロコースト生存者と死後も永遠にリアルタイムに対話ができる:米国シンシナティの博物館で

佐藤仁学術研究員・著述家
ナンシー&デビッド・ウルフホロコースト人道センター提供

 第二次大戦時にナチスドイツが600万人以上のユダヤ人を大量に虐殺したホロコーストだが、そのホロコーストを生き延びることができた生存者たちは、現在でも証言者として、博物館などで当時の様子を学生らに語っている。だが彼らも高齢化が進んでいき、生存者の数も年々減少している。

 技術の発達によって、ホロコースト生存者のインタビューと動く姿を撮影し、それらを3Dのホログラムで表現できるようになった。博物館を訪れた人たちと対話して、ホログラムが質問者の音声を認識して、音声で回答できる3Dの制作が進んでいる。「ホロコースト時代にはどのような生活をしていたの?」といった訪問者からの質問に、自然な会話であたかもホロコースト生存者本人のようにリアルタイムに質問に回答してくれる。1人のホロコースト生存者が5日間かけて25時間分のインタビューに回答しているので、多くの質問に回答することができる。

 ホロコースト時代にユダヤ人を救ったシンドラーを描いた映画「シンドラーのリスト」の映画監督のスティーブン・スピルバーグが設立した南カリフォルニア大学のショア財団が、ホログラム化や人工知能(AI)による自動回答の技術提供を行っており、「Dimensions in Testimony」と呼ばれるプロジェクトで、欧米で多くのホロコースト博物館で導入されている。

「ホロコーストから学んだことは、人類に対する優しさ」

 アメリカのシンシナティにあるナンシー&デビッド・ウルフホロコースト人道センターでも2021年2月5日からホロコースト生存者のホログラムが導入された。同センターでは2つのホログラムを展示する。同センターのCEOのサラ・ヴァイス氏は「ホログラムによって、ホロコースト生存者が亡くなられた後も永遠にホロコースト時代の証言を後世に語り継いでいけます。さらに目の前にあたかも本人がいるような雰囲気で会話をすることができ、ホロコースト生存者の個人的なストーリーを多くの人に聞いてもらうことができます」と語っていた。

 イリノイホロコースト教育博物館の館長でホロコースト生存者のフリッツィ・フリツシャル氏はこのプロジェクトで一番に証言を収録した人でもあり、今回のシンシナティでの導入の式典にも参加していた。アウシュビッツ絶滅収容所に収容されていた当時の経験を質問されて「私は空腹でした。とにかく寒かったです。証言を収録した時にアウシュビッツ絶滅収容所での経験を思い出しました。反ユダヤ主義やユダヤ人への民族憎悪が多くなると、再びあのような悪夢を思い出してしまいます」と語っていた。またホログラムになったフリツシャル氏は「ホロコーストから学んだ最大のことは何ですか?」との質問に「人類に対する優しさです」と語っていた。

▼ホログラムで登場したホロコースト生存者との会話

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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