北欧フィンランドの極右 フィン人党とは? ムーミンの国で今何が起きているのか
北欧各国といえば、「幸福な国」、「ママや働く女性に優しい国」などとして世界調査で頻繁にトップを占める。
2015年、欧州で難民申請者が大量に移動し、欧米での極右(右翼ポピュリスト)の勢いが国際ニュースで頻繁に見かけられるようになった。
優しい国のイメージが強い北欧。だが、「右翼ポピュリスト」政党(以下、記事では「極右」と統一)は、ノルウェー、スウェーデン、デンマークでは、すでに以前から何らかの形で国会の構図や政権に影響を与えている。
個人的に以前から気になっていたのが、「フィンランド版の極右は、スカンディナヴィア諸国3国に比べて、国際的に報道されないな」という不思議だった。昨年に私がスウェーデンに行ったときは、様々な国からの報道陣が、スウェーデン版極右の取材に来ていた。
4月14日に開催されたフィンランド総選挙を首都ヘルシンキで取材していたのだが、他国からの報道陣は少なかった。
フィンランド政治が、特定のテーマ以外であまり知られていない。考えられる理由が、学ぶのが特に難しいとされているフィンランド語だ。そういう意味で、良いニュースばかりが国外へ伝わるフィンランドは、ほかの北欧より得をしているのかもしれない。
SNSや人々の感情をあおる言動、支持者が既存報道機関を嫌う傾向があることから、極右のリサーチでは現地言語ができたほうがいい。
私はフィンランド語を最近学び始めたばかりで、現地資料のリサーチには限界がある。それでも、まずはこの4年に1度の機会しかない総選挙を、できる限り見てみようと思った。
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「フィン人党」は「真のフィンランド人」政党という訳もできる。
「真のフィンランド人って、何?」という話を始めたらきりがないので、ここでは置いておこう。
2011年の総選挙で第3党、2015年の総選挙では第2党と、現地では大きな支持率を得ている。
総選挙当日は、現地の人と選挙中継をテレビで見ていた。在住するアメリカ人が、フィン人党を「フィンランド版ドナルド・トランプみたいな政党」と例えていた。
北欧各国で極右が以前から力を増加してきた背景には、北欧独自の寛容な福祉制度がある。北欧に住むことに憧れる人は日本にもいるだろう。一方で、移民背景のある人々は、納税率が必ずしも高いわけではなく、特に難民の背景があると、医療や福祉制度により頼ることもある。「甘えるな」。各国の極右は、厳しい言葉を最も極端な手法で発する。
実のところ、移民や難民に厳しめの政策をするのは、中道右派・中道左派は関係なく、どこの政党でも似ている。政策と言論を切り分け、冷静に、政策だけを見ると、あまり大きな違いはない。だが、人々の感情を極端にあおる表現で、各国の極右は新聞やテレビでよりヘッドラインを飾ることとなる。
2015年に初めて与党入りしたフィン人党だが、2017年に党内で分裂が起きる。分裂の結果、新政党「青の改革」が政府に残り、ユッシ・ハッラ=アホ党首の「フィン人党」は野党に戻った。
今回の選挙では、「青の革命」党は0議席という結果に終わり、「フィン人党」は39議席。
第一党の社会民主党は40議席
第二党のフィン人党は39議席
第三党の国民連合党は38議席
与党第一党だった中央党が大敗したことで、各党の議席は伸びた。中道左派の社会民主党が中心となって、今後の協議が進むとみられる。
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ヘルシンキ中心部の広場に行くと、各政党がスタンドを設けていた。
「日本人ですか!日本の移民政策は素晴らしい。私たちは日本を尊敬しています」。
そう党員たちに言われる。これは、ノルウェーでもスウェーデンでも言われることだ。各国の極右は難民をほとんど受け入れない日本を、素晴らしい見本だと思っている(日本で難民認定手続きで在留が認められた人は65人:法務省)
ヘルシンキ議会議員であるマリ・ランタネン氏(フィン人党)は、今年の総選挙に出馬する。
「私たちはEUと移民に批判的な政党です。フィンランド人が幸せな生活を続けていけるように活動をしています」。
「フィンランドでの問題は、多くの難民申請者が長期間ずっと滞在していることです。私たちはこの数を少しだけ減らしたい」と、国民の安全を心配しているた。
「夜は安心して歩けないと、市民は私たちになんとかしてくれと訴えてきます。難民申請者は自由に外を歩き回っており、一部の社会問題を作っている原因です。北欧では、女性や子どもたちには好きな服を着てほしい」と、宗教が理由での被り物には否定的だと語る。
「私たちはすべての外国人が嫌だと言っているわけではありません。税金を払い、合法滞在であれば、喜んで受け入れます」。
「10年前に比べて、フィンランドでは移民問題をより話しにくくなったなと、私は感じています」。
彼女の言葉を聞いて、すぐに「差別的だ」と批判する人は北欧では多いだろう。だが、実はどこの政党も似たようなことは言う。それでも新聞の見出しを飾るのは、極右が放つ言葉だ。
一方で、極右だけがやりそうなことといえば、例えばこのフィン人党の公式動画だ。
今まで北欧の極右政党が作る様々なイラスト、写真、ビデオを見てきたが、これはその中でも極端だ。いろいろと突っ込むのがもう面倒なのだが、「この人たちには、社会や未来がこういう風に見えているのか」と思った。
コメント欄をみると、「フィンランドは、スウェーデンのようにはならないぞ」と書いている人もいる。ノルウェーやデンマークでもそうだが、「スウェーデンの移民政策は失敗例だ」と、極右はよく宣伝に利用する。
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後日、あたらめて広場に戻ってみる。
フィン人党のスタンドには大勢の人々が駆けつけていた。なぜなら、そこにユッシ・ハッラ=アホ党首が来ていたからだ。
支持者にとって、彼は英雄だ。
記念撮影をしようと、サインをもらおうと、「がんばってください、応援しています」と声をかけようと、彼らは集まっていた。
このような独特の熱気は、極右政党がつくることのできるものともいえる。
この日は快晴だったため、ひとりひとりと話す党首の体調を気遣って、飲み物を持ってきて差し出す市民もいた。
「ちょっと、すみません」。人々の中をくぐりながら、もし与党となったらどうするか、党首に簡単なコメントをお願いした。
「選挙後がどうなるかは、まだ誰にもわかりません。複雑な状況ですからね」と、ユッシ・ハッラ=アホ党首は答える。
「スウェーデン、ノルウェー、デンマークでも我々のような政党は成功を収めています。私たちの政党が特に際立っているわけではないと思いますよ」。
「フィンランドでもほかの欧州他国でも、ほかの政党たちにとって、移民議論はしにくいようです。以前に比べて、移民について、批判的な方向性で議論することは、やっと主流になってきました」。
「多くのフィンランド人は、国の未来に不安を感じています。通りを歩いている時の身の安全、移民の第三世代が市民の財政に与えるであろう影響を、心配しているのです」。
そう話した後、サインをもらいたい市民たちが党首をさらに取り囲んだ。遠くからみると、その光景は、芸能人に群がるファンとの交流の場のようだった。「ノルウェーでもスウェーデンでも、変わらないな」と思った。
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14日、総選挙当日。市内の小学校で行われていた投票会場を訪れた。
オーティ・クイットゥネンさん、オシュクレイン・ネムスさんは、投票を終えて、学校内でコーヒーを飲んでいた。
「今年の選挙は今までと少し違ったと思います。首相のいた中央党は政権で失敗し、フィン人党は影響力を増してきました。緊張している年ですね。この後も、協議がどうなるか分からないし」とクイットゥネンさんは話す。
「なぜ、フィン人党があれほど人気なのか、理解できない」と、現地での取材中には眉をひそめる人ばかりに出合った。極右を嫌う人が首都に多いのは、ノルウェーでもスウェーデンでも同じだ。
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各国の極右が与党入りしなくとも、極右はその国で成功しているともいえる。極右の議席数が増えれば、国会の構図は変わる。極右の支持者を取り込もうと、他党が移民政策において右傾化し、極端な言論を始めたら、極右の思い通りのシナリオだ。
とはいえ、今年の選挙の構図結果の変化は、選挙前に内閣が総辞職したことが関係している。
政権の目標であった社会保険システムの改革が不成功に終わったためだ。そのため、今回の選挙で、ユハ・シピラ元首相が率いる中央党は、18議席も失い、市民から大きな叱責を受けた。
次回の選挙までに、中央党はある程度立て直すだろう。中央党が議席数を取り戻せば、他党の議席数は下がる。フィンランド議会の構図は、4年後にまた大きく変わりそうだ。
Photo&Text: Asaki Abumi