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【ボクシング】キース・サーマン対ダニー・ガルシアが米4大ネットワークの1つCBSで放送される事の意味

杉浦大介スポーツライター
Photo By Ed Diller/DiBella Entertainment

3月4日 ブルックリン バークレイズセンター

WBA、WBC世界ウェルター級タイトル戦

WBA王者

キース・サーマン(アメリカ/28歳/27勝(22KO)無敗1無効試合)

WBC王者

ダニー・ガルシア(アメリカ/28歳/33勝全勝(19KO))

正式発表が遅れた理由

ウェルター級注目の統一戦、サーマン対ガルシアは昨年10月の時点ですでに挙行が内定していた。11月にガルシアがサミュエル・バルガス(コロンビア)との前哨戦を7ラウンドTKOでクリアした時点で、バークレイズセンターでの開催がほぼ確定。しかし、キックオフ会見は先週(1月18日)まで行われなかった。

なぜかと言えば、この統一戦をどの局がテレビ中継するかがはっきりしなかったからである。

プレミアケーブル局のShowtimeか、あるいはその親会社であるCBSか。結局は会見当日にCBSが中継すると発表され、2017年上半期屈指の好カードはプライムタイムに地上波で放送されることになった。

「我がままを言えば、Showtimeで放送したい。その一方で、これだけ大きな試合で、ほとんど成功が保証されているのだから、可能な限り多くの視聴者に見られるべき。つまりCBSで放送されるべきだということだ」

バークレイズセンターのロビーで行われた会見で、Showtimeのスポーツ部のトップであるスティーブン・エスピノーザがそう語っていた。

ウェルター級にはマニー・パッキャオ(フィリピン)、ケル・ブルック(イギリス)、エロール・スペンス、ティモシー・ブラッドリー(アメリカ)といった強豪が揃っているだけに、“階級最強を決める一戦”とまでは言い切れない。例えそうだとしても、無敗のタイトルホルダー同士の直接対決に大きな価値があることに変わりはない。アメリカ4大ネットワークで放送され、Showtimeの3〜4倍の視聴者を集めるだろうことをまずは喜ぶべきに違いない。

限界を迎えたPPVビジネス

昨年5月2日のフロイド・メイウェザー(アメリカ)対パッキャオ戦以降、ボクシングPPV中継の数字はほぼ軒並み低調だ。クロスオーバーのスター不在、プレミアケーブル局の予算削減に端を発したPPV興行の乱発、違法ストリーミングの浸透などがその原因だろう。

もともとボクシング畑ではないアル・ヘイモンは突っ込みどころ満載の人物ではあるが、1つだけ言えるのは、このハーバード大出の秀才は、PPV、プレミアケーブル局に依存するボクシング興行のスタイルは維持できないと早々と気づいていたということ。ジリ貧のビジネスモデルを変えるべく、ヘイモンが取り組んだ一大プロジェクトが“プレミア・ボクシング・チャンピオンズ(PBC)”だった。

「ハイレベルのファイトを定期的に見せ、可能性をアピールした上で、大手テレビ局から高額の放映権料を引き出す。その資金を使い、NFLのように1つのリーグとしてボクシングを運営していく」

ゴールデンボーイ・プロモーションズとの訴訟の書類などを見る限り、ヘイモンのプランはそんなオーソドックスなものだったようだ。実際にPBCは発足当初から独立したリーグのように運営されてきただけに、この青写真は驚きではない。

業界の病源を見極め、解消するための資金、多くの有力選手も手にした。それにも関わらず、効果的な“手術(適切なマッチメーク)”を行えなかったことがヘイモンの問題点として挙げられてきた。

結果として、PBCの視聴率は低迷。すでに投資された資金の大半を使い果たしたとも伝えられている。そんなヘイモンとPBCにとって、2017年が極めて重要で、後がない1年になることは間違いない。

3年計画の最終年?

今年に入って、バドゥ・ジャック(スウェーデン)対ジェームス・デゲール(イギリス)、カール・フランプトン(イギリス)対レオ・サンタクルス(アメリカ)といったヘイモン傘下の好カードが組まれた。解せないのは、これらの試合が自前のPBCブランドではなく、視聴者の限られるShowtimeで放送されること。このレベルの強豪対決は巨額予算が必要だけに、PBCが放送できないのは彼らが資金難に直面している何よりの証拠と見るべきか。

そんな事情を考えれば、同じくShowtimeの資金で番組作りされるサーマン対ガルシアが、同系列の地上波CBSで放送されることになったのはヘイモンにとって渡りに船だった。今後、PBCが巨額投資をしてくれるTVパートナーを探すとすれば、最有力候補(ほとんど唯一の候補?)はやはりCBSということになるのだろう。

「CBSのプラットフォーム(で勝つことは)僕にとってとても重要だ。レベルの高い2つの階級を統一することも、現役屈指のファイターとしての僕のレガシーに大きく響く。3月4日には自分の力を世界に示すつもりだよ」

そう語ったガルシアは、昨年1月に地上波FOXで放送されたロバート・ゲレーロ(アメリカ)戦で平均視聴者約250万人を稼いだ実績がある。

また、サーマンが昨年6月25日に行ったショーン・ポーター(アメリカ)戦で、CBSは平均310万、瞬間最高で394万人の視聴者を惹きつけた。この2人が激突する今回の一戦では、プロモーションを上手に行えば、平均400万人の視聴者を集めることも不可能ではないはずである。

タイムバイで行われるPBCは3年計画ーーー。業界内で囁かれるそんな声が真実だとすれば、2017年こそが勝負に出るべき年。

大事な1年に弾みをつけるべく、サーマン対ガルシア戦は高視聴率を叩き出し、ボクシングの範疇を超えた話題を集められるかどうか。この一戦が地上波で放送され、成功することには、後々まで響きかねない重要な意味があるのである。

Photo By Ed Diller/DiBella Entertainment
Photo By Ed Diller/DiBella Entertainment
スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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