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北朝鮮問題をめぐって、G20米中露日韓の温度差

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
G20首脳会議 独ハンブルクで開催(写真:ロイター/アフロ)

習近平を褒め殺していたトランプが「中国の努力」に疑念を持ち始め、習近平はプーチンと足並みを揃えている。日米韓首脳会談はあっても、文在寅は北との対話を放棄していない。G20における各国の思惑を考察する。

◆中露は「双暫停」を要求

中国の習近平国家主席はドイツ、ハンブルグでのG20首脳会議に参加する前に、7月4日、モスクワでロシアのプーチン大統領と会談を行なった。会談後、共同声明を出し、北朝鮮が弾道ミサイルを発射したことについては国連安全保障理事会の決議に違反するものであり受け入れられないと非難しながらも、中国が主張してきた「双暫停(そうざんてい)」を実行することを米朝に要求した。

「双暫停」とは「北朝鮮は核・ミサイル開発を暫定的に停止(凍結)し、米韓は合同軍事演習を暫定的に停止して、対話のテーブルに着く」というものである。「米朝双方が暫定的に軍事行動を停止する」という意味から来ている言葉だ。

この「双暫停」案は、4月6日と7日にアメリカで米中首脳会談が開催される前に中国側が提案していたもので、首脳会談後の「米中蜜月」期間においては前面には出していなかった。その期間は、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版である「環球時報」が5月4日に「中朝友好互助条約――中国は堅持していくべきなか?」という社説を載せたことからも分かるように、かなりアメリカに歩み寄った形を取っていた。

中朝友好互助条約は第二項に「参戦条項」があることから、「中朝軍事条約」と呼ぶことが多い。つまり「いざとなったら、中朝軍事同盟を破棄してもいいんだぞ」という逼迫したところまで来ていたのである。

そこに変化が起き始めたのは、5月14日の朝、北朝鮮がミサイルを発射したからだ。

習近平にとっても最高の晴れの舞台となる、初めての一帯一路国際協力フォーラムサミットが北京で開催される初日を選んで、習近平の顔に思い切り泥を塗った。その詳細は5月14日付の本コラム「習近平の顔に泥!――北朝鮮ミサイル、どの国への挑戦なのか?」で詳述したので、ここではくり返さないが、もっと大きな分岐点は米韓首脳会談だった。

◆米韓首脳会談で文在寅大統領は米国に屈服

6月30日、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領はワシントンでトランプ大統領と会談を行なった。その前日の29日午後、米財務省は突然、中国の遼寧省にある丹東銀行を「マネーロンダリングの疑いがある」としてアメリカとの取引を禁じるという制裁に出た。丹東銀行など小さな地方銀行なので、中国自身にとっては大きな影響はない。

アメリカでは中朝貿易の70%が丹東銀行を通して行われているとして制裁対象にしたようだが、実はこれは5月1日付けコラム「中国は北にどこまで経済制裁をするか?」で書いた、いわゆる「辺境貿易」に使われているにすぎず、中国にはそう大きな痛手にはなっていない。しかし韓国にとっては「大きな威嚇」に映ったにちがいない。

それはまるで、拙著『習近平vs.トランプ  世界を制するのは誰だ』(7月19日発売)で「ビッグ・ディール(大口取引)第二弾」と位置付けたシリア攻撃を彷彿とさせる。トランプは4月6日、フロリダの豪邸で習近平と「世界一おいしいチョコレートケーキ」を食べながら、「いま実はシリアに59発、ミサイル攻撃した」と述べてから翌日の実務的な会談に臨んだ。これは、「このように簡単に北朝鮮を軍事攻撃することができるんだよ」というシグナルであると習近平を威嚇しながら、にこやかに交渉を進めていくトランプ流のディール(取引)のやり方だ。

結果、文在寅は、習近平には「環境評価をするためTHAADの新たな配備は延期する」と、事実上の「中断宣言」をしておきながら(参照:「韓国を飲み込んだ中国――THAAD追加配備中断」)、トランプには「THAAD配備に関する米韓合意を覆すつもりはない」と誓い、二つの顔を使い分けたのである。

怒ったのは習近平。

◆G20前に初めての中韓首脳会談

7月4日にモスクワでプーチンと会談した習近平は、その足でドイツのハンブルグで開催されるG20首脳会議に参加するため、先ずはドイツのベルリンに向かった。5日にドイツのメルケル首相と歓談し、サッカーを観戦したりベルリン動物園パンダ館の開館式に出席したりなどして満面の笑みを披露したあと、文在寅と会談した。

文在寅に対しては、突然、上から目線に切り替わり、文在寅が「北との会話」を重要視することは評価しながらも、結局トランプにはTHAAD配備を受け入れたことに対して、習近平は報復としての経済制裁をやめないことを示唆したのである。文在寅が習近平に報復措置を是正するよう求めたのに対し、習近平はそれを肯定しなかった。事実上、拒否した格好だ。

その意思決定は、4日の中露首脳会談ですでに確認されており、中露はTHAADに付随しているXレーダーによる探知機能が、自国の広範囲な領域の軍備配置を偵察することができるとして、韓国のTHAAD配備に反対している。

韓国のTHAAD配備は、米韓軍事度合同演習を含めた韓国におけるアメリカの軍事行動に属し、それに反対したものである。

4月26日付けのコラム「米が北を攻撃したときの中国の出方――環球時報を読み解く」に書いたように、4月22日付の「環球時報」は、「米軍による北朝鮮への限定的なピンポイント攻撃」は黙認するといった趣旨のことを書いていた。それがロシアと提携した途端、やや後退を見せたのは注目すべきだ。

◆日中首脳会談では

7月8日に日中首脳会談がG20開催中のハンブルグで行なわれた。韓国に対してさえ、一定程度の笑顔で接した習近平は、安倍首相には「笑ったら損」とばかりに、ニコリともしなかった。そして圧力強化を訴える安倍首相に対して、習近平は遠慮することなく「独自制裁に反対し、対話を重んじる」と主張。しかし少なくとも「朝鮮半島の非核化」に関しては一致した。

◆米中首脳会談では

日本時間の7月8日夜半に行なわれた米中首脳会談では、トランプ氏が北朝鮮に対する影響力を十分に行使していないという中国への不満を述べ、習近平は対話による解決を重視すべきとした模様だ。雰囲気はにこやかで、第一回目(4月6日、7日)の首脳会談により、「両国は素晴らしい関係を築けた」と互いを礼賛し合っている。

中国政府の通信社「新華社」によれば、習近平は「複雑な世界において、強力な米中関係こそが、安定に資する」と述べたとのことなので、米中両国の、というより「習近平とトランプ」の「個人的蜜月」は、まだ続いているとみていいだろう。

それでいながら習近平はプーチンとは組む。ここが肝心だ。

トランプもプーチンと、もっと「親密」にしたいが、何しろ国内にロシアゲート疑惑を抱えているので、「それとなく」という程度にしか近づけない。ただ、会談に入る前にふと接触した時の二人の顔には、隠しきれない喜びが現れていたと、筆者には映った。

◆中国の本音と着地点

まず明確に言えるのは、中国は北朝鮮が核保有国になることには絶対に反対だということだ。それを表明するために、習近平政権になってから中朝首脳会談を行っていない。中国からすれば、これほど大きな懲罰はないと言っても過言ではない。

なぜ反対かというと、もし北朝鮮が核を保有すれば、韓国が持ちたがる。そうすれば必ず日本も核を保有するようになるだろうと中国は警戒している。キッシンジャー元米国務長官は「日本は核を持とうと思えば、いつでも持てる」と、1971年以来、中国の指導者に注意を促し続けてきた。中国が最も嫌がるのは、日本が核を持つことだ。

そうでなくとも、北朝鮮自身が軍事大国になることは中国にとっては実に危険なことだと中国は思っている。

北朝鮮は旧ソ連が建国した国。1991年12月のソ連崩壊まで、北朝鮮は中ソ対立を利用して漁夫の利を得てきた。核・ミサイル技術も旧ソ連から学んでいる。ミサイルがいつかは北京に向かうだろうことも、中国は予知している。だから、ロシアとの緊密度を北朝鮮に見せつける必要があるのだ。

中露北の三カ国が組んでいるとみなすのは、大きな間違いである。

北朝鮮問題の根源は、1953年7月に結ばれた休戦協定を、米韓が破ってきたことにある。休戦協定では3カ月後に朝鮮半島から他国の軍隊は全て引き揚げると約束して署名したのに、アメリカと韓国は同時に(2カ月後に)米韓相互防衛条約(米韓軍事同盟)を締結して、「米軍は韓国に(無期限に)駐留する」という、完全に相反する条約にも署名した。

冒頭の「双暫定」は、「休戦協定を守れ」という中露の主張でもあると解釈していいだろう。日本人には見たくない事実だろうが、これは客観的事実なので、直視するしかない。着地点の模索は、この「客観的事実を正視する勇気を持つこと」からしか始まらないだろう。

一日でも延ばせば延ばすだけ北朝鮮の核・ミサイル技術は向上し、世界はその脅威のもとで暮らさなければならなくなる。それだけは絶対に避けたい。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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