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さあ、都市対抗野球開幕。出場チームのちょっといい話10/三菱重工神戸・高砂

楊順行スポーツライター
2011年当時の守安。三菱重工神戸・高砂は19日、JR四国と初戦(写真/筆者)

 もし他チームの選手を一人獲得できるとしたら、だれ? 

 試みに、社会人チームの監督に聞くと、かなりの確率で返ってくる答えが「守安玲緒」だ。三菱重工神戸・高砂の、太い太い大黒柱。準優勝した昨年の都市対抗。七十七銀行との1回戦は、7回途中まで初回の1失点のみの11三振。鷺宮製作所との準々決勝は、二塁も踏ませぬ2安打完封。大阪ガスとの決勝も、敗れはしたが7回まで無失点に抑えていた。今年の都市対抗近畿2次予選でも、初戦と第1代表決定戦を1失点完投。安定感は類がない。

 球速は、140キロに達するかどうか。だが伸びのあるストレートはファウルでカウントを稼げるし、フォークやスライダーで打たせて取る術は大崩れしない。「先発を任せれば、ほぼ完投してくれる」大エースだからこそ、各チームの監督が垂涎なのだ。ただ、社会人2年目の2011年当時は、150キロに迫る速球派としてプロ注目だった。当時の取材を、思い出してみた。

大学時代から「ミスター完投」

 富士大4年時に、大学選手権で準優勝。その時点で、投手転向わずか5年目だったという。

「(愛知・菊華)高校2年までは、ショートだったんです。投手転向を勧められたんですが、ショートが楽しくて……。でもバッティングに自信がなくて、上で続けたいのなら投手、といわれて決断しました」

 大学では、徹底的に絞られた。400メートル走を10本、長距離走、トレーニング……その成果か、1年春からリーグ戦で勝ち星を挙げると、4年春は6勝無敗。すごいのは大学選手権で、準決勝で創価大を完封するなど全5試合で4完投勝利。当時から「いくら投げても大丈夫」というミスター完投だったのだ。

 社会人野球は高校時代から観戦経験があり、「華があるなと思っていました」。その舞台に飛び込んでも、1年目から主戦として活躍した。以来、今季が10年目。都市対抗では、10年連続出場の表彰を受けることになる。

 だが、鉄腕・守安頼みからの脱却もチームの課題だ。春季キャンプの時点で富光男監督は、

「去年の予選突破には山田和也、佐藤大誠の両投手も貢献した。さらに左腕・尾松義生も急成長し、高橋涼平、伊吹裕次郎も短いイニングなら任せられる」

 と、1試合をときに4、5人で継投する構想を話してくれた。2年連続近畿の第1代表のため、今年の2次予選は3試合と少なかったが、そのうち1試合に先発した尾松は、7回途中までパナソニックに1失点と好投している。昨年の都市対抗は「思いもよらん準優勝で……」と富監督は語るが、こう続けた。「半面、やってきたことは間違いじゃないと確信しましたね。決勝の負けが心底悔しいと思えるほど、力はついた」。

 打線もしぶとい。一番の根来祥汰はチーム2位の打率.417をマークし、コーチ兼任の四番・津野祐貴、同じくコーチ兼任で昨年の社会人ベストナインの五番・那賀裕司らが還すのが得点パターンだ。新主将の捕手・森山誠も八番ながら、打率.385をマークしており、穴はない。森山は昨年の準優勝を、

「人数も少なく、決して強くはないチームですが、全員が一致団結すれば、強豪にも通用すると感じたシーズンでした。あきらめなければ、なにかが起きることも実感しましたね」

 昨年の近畿第1代表決定戦は、9回2死走者なしまで1点のビハインドだった。そこから代打のヒット、後続の四球から、左前に渋く落とす逆転打を放ったのが森山だ。「汚い二塁打でしたが(笑)、あの試合はだれ一人あきらめていなかった。必死につないだ全員の思いが、乗り移った一打だと思います」。この勝利は社内でも奇跡と言われ、チームは都市対抗準優勝までたどり着くのだ。ただ、と森山は言う。

「準優勝は自信になったとしても、どの年よりも負けは悔しいし、補強選手のおかげとはいわれたくない。今年は自分たちの力で前回を上回り、頂点からの景色を見てみたいと思います」。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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