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関心が寄せられる宗教二世の存在。熱心な信者だった母の下で育った実体験と向き合い、映画に

水上賢治映画ライター
「ココロのバショ」のモテギワコ監督  筆者撮影

 安倍元首相襲撃事件をきっかけに浮上することになった、旧統一教会の問題。

 そこで一気にクローズアップされることになったのが宗教二世の存在だ。

 モテギワコ監督のデビュー作「ココロのバショ」は、そのいままさに注目を集めている宗教二世の女性が主人公。

 作品は、宗教二世として育った主人公ユメの内面の世界が描かれる。

 そういう意味で、実にタイムリーな作品になるが、決して旬のネタにとびついてできた映画ではない。

 そもそも本作が撮影されたのは2021年11月と安倍元首相の事件が起きるより前。

 そしてなによりモテギ監督自身の実体験が基になっている。

 なぜ、宗教二世だった自分と向き合い、それを映画で表現しようとしたのか?

 この物語に込めた思いとは?

 モテギ監督に訊く。(全七回)

「ココロのバショ」より
「ココロのバショ」より

多忙を極めた助監督としての日々。あるきっかけで東京から富山へ移住

 映画「ココロのバショ」の話に入る前に、まずモテギ監督の自身の話を。モテギ監督はこれまで東京で助監督として数多くの作品に携わってきた。

 しかし、2021年3月に富山に移住。本作は先で触れたように移住後の2021年11月に撮影されている。

 つまり、モテギ監督にとって2021年は大きく環境を変え、初監督作品を完成させたことになる。

 そのように至った経緯について、モテギ監督はこう明かす。

「移住を決めたきっかけは、富山県利賀村で行われている演劇祭に行ったことでした。

 2020年の8月に携わっていた作品がひと段落して、少し時間にゆとりができたとき、ある知り合いのディレクターさんに『こういう演劇祭があるんだけど、行ってみたら?』と薦められたんです。

 それまで助監督の仕事で、もう夜とか昼とかもわからないぐらい、すべてが仕事に忙殺されていました。

 心身共に疲れ果てていたので、少しお休みするのもいいかと思っていた時期に、そう声をかけられたので、行ってみたんです。

 そうしたら野外での公演で、夜だったんですけど美しい星空のもとで舞台で行われる。

 観劇後は、キャンプ場に泊まることになって。見上げれば一面の星空で、川のせせらぎや虫の鳴く声が聞こえてくる。

 ものすごく気持ちよくて、心が癒された。

 そのときすぐに『移住しよう』とは思わなかったんですけど、3~4回ぐらい富山の方に通って。

 そのときに出会った方とかとすごく親しくさせていただくようになって、『いいな、こういうところに住みたいな』という気持ちが沸々とわいてきました。

 それで、ほんとうに暮らすならば車がないと不便ということで。

 自分が免許をもっていないことにはたと気づいて、富山県の南砺(なんと)市にある南砺自動車学校で自動車免許をとることにしました。

 その教習所に通う期間ですけど、体験ハウスというのがあって。

 すっごいでっかい古民家なんですけど(笑)、そこに泊まって生活しながら教習所に通っていました。

 その間には、大雪の日も経験して、外にもでられないぐらい積もって大変だったんですけど、これはこれでいいなと思えて。

 それで気づけば2021年3月に南砺市に転入届けを出していました」

自分が考えている以上に、心が疲弊していた

 振り返ると、しばしの休息が必要だったのかもしれないと明かす。

「今思うと、自分が考えている以上に、心が疲弊していた気がします。

 とにかく助監督としての仕事をまっとうすることで精いっぱい。

 現場を終えて家に帰ると、もう抜け殻状態で(苦笑)、自分の作品作りみたいなことを考える心の余裕はありませんでした。

 明日はどう現場を回そうとか考えることはあっても、自分の作品を作ろうと意識が向くことはなかった。

 それぐらいキャパオーバーで、何も考えられないで、ただただ忙しい、仕事をつつがなく終えないとという状態だったと思います」

「ココロのバショ」より
「ココロのバショ」より

富山に移住して芽生えた、「作品を作ってみたい」意欲

 それが富山に移って変わったという。

「キャンプ場に行ったときに、ちょっと自分の中にあった感性が刺激されたといいますか。

 ちょっとクリエイティブなことをやってみたい気持ちが少し芽生えたんですよね。

 東京でもずっと意欲はあったんです。自分の作品を作ってみたい気持ちはあった。

 ただ、さきほど話したように、日々の仕事を優先させると、自分の創作にまで意識が回らないでいた。

 そういうことが続いていくうちに、自分の創作意欲みたいなものが封印されてしまったところがありました。

 それが富山という都会のようにギスギスしていない場所にいって、心に余裕ができたら、少しずつ作ってみたい気持ちが出てきました」

自分の前に、死んだばあちゃんが現れた??

 また、「変な人と思わないでください(苦笑)」と前置きした上で、こんなことも今回の作品を作るに至る上ではあったという。

「移住を決めて、まだ東京と富山を行ったり来たりしていた時期に、死んだばあちゃんと話をしたんですよ。

 こういうと、みなさん『???』だと思うんですけど(笑)。

 コロナ禍で、誰にも会えずに自身を内観してたからかもしれないんですけど、自分の前に、死んだばあちゃんが現れた。

 そのころ、ちょうど母との関係について考えていて、そのことでかなり悩んでいました。

 そこで、聞いたんです。『なんでわたしのお母さんってあんな感じなの』と。

 そうしたら、ばあちゃんが『あの子は、ああいう子だからね』と言った。

 ばあちゃんがそういったとき、わたしは『そうなんだ』とすごく腑に落ちるものがあって、ものすごく自分の気持ちが安心して、自然と涙が出てきて3時間ぐらい号泣したんですよ。大号泣してしまった。

 こういう経験だったので、その後もずっと頭から離れないでいました。

 そして、この体験が今回の『ココロのバショ』の作品作りのタネみたいなものになっています」

(※第二回に続く)

「ココロのバショ」メインビジュアル
「ココロのバショ」メインビジュアル

「ココロのバショ」

監督・脚本:モテギワコ

出演:葛堂里奈 岡元あつこ 大方斐紗子 小曽根叶乃 心月なつる

今井久美子 澁谷麻美 内田岳志

UPLINK吉祥寺にて公開中、以後、全国順次公開

場面写真及びメインビジュアルは(C)2022「ココロのバショ」製作委員会

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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