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大坂なおみ選手 全米オープン優勝~「国籍」とは何であるのか

竹内豊行政書士
大坂なおみ選手は、昨年日本国籍を選択しました。「国籍」とは何か考えてみます。(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

女子テニスの9月14日付WTA世界ランキングが公式サイトで発表され、全米オープンで2018年以来2年ぶり2度目の優勝を果たして四大大会3勝目をあげた大坂なおみ選手は、前回から6つ上げて3位へ浮上しました。

大坂なおみ選手は1997年10月16日生まれの大阪府大阪市出身。日本人の母親とハイチ系アメリカ人の父親を持つバイレイシャル(両親の人種がそれぞれ異なること)です。3歳の時にニューヨーク、アメリカに移り、現在、フロリダを拠点に活動しています。

大坂なおみ選手は、出生の時に母が日本人であるので日本国籍を取得しました(国籍法第2条)

国籍法第2条(出生による国籍の取得)

子は、次の場合には、日本国民とする。

一 出生の時に父又は母が日本国民であるとき。

二 出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であつたとき。

三 日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき。

また、父がアメリカ人なので、米国籍の取得に関する法律により出生時にアメリカ国籍も取得しました。

このように、大坂なおみ選手は、出生時に、日本と米国の2つの国籍を取得しました(二重国籍)

日本の国籍と外国の国籍を有する人(重国籍者)は、一定の期限までにいずれかの国籍を選択する必要があります(国籍法14条1項)。  

国籍法14条1項(国籍の選択)

外国の国籍を有する日本国民は、外国及び日本の国籍を有することとなつた時が20歳に達する以前であるときは22歳に達するまでに、その時が20歳に達した後であるときはその時から2年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならない。

そのため、大坂なおみ選手は、日本国国籍を取得するために、22歳に達する2019年10月に、日本国籍を選択する手続きを行い日本国籍を取得しました。そして、その結果、米国国籍を離脱しました。

このような、バックグラウンドもあり、大坂なおみ選手は、幼いころから、人が自分を「何者か」ということに判断しかねていることを感じていたようです。大坂なおみ選手は、このことを次のように語っています。

私の名前は大坂なおみです。物心がついたころから、人は私を「何者か」と判断するのに困っていました。実際の私は、1つの説明で当てはまる存在ではありませんが、人はすぐに私をラベル付けしたがります。

 日本人? アメリカ人? ハイチ人? 黒人? アジア人? 言ってみれば、私はこれらすべてです。私は日本の大阪で、ハイチ人の父と日本人の母の間に生まれました。私は娘であり、妹であり、誰かの友だちであり、誰かのガールフレンドなのです。アジア人であり黒人であり、女性なのです。たまたまテニスが得意だったということを除けば、他の人と変わらぬ22歳です。私は自分自身をただ、「私=大坂なおみ」として受けとめています。

出典:大坂なおみがつづる、人種差別根絶への決心。「行動する必要性を感じた」

今回の大坂なおみ選手の全米オープンの優勝は、「7枚のマスク」に象徴されるように「人種」についても強いメッセージを発信しました。そこで、今回は、人種に関連するものとして、「国籍」について考えてみたいと思います。

国籍の意義

現在、各国は、「自国の構成要素をなす人」(=内国人)と「そうでない人」(=外国人)を区別し、種々の点で、両者について異なった取り扱いをしています。この区別の基準となるのが国籍です。国籍は、人と特定の国家を法的に結びつけるものであり、人は国籍によって特定の国家に所属し、その国家の構成員となります。したがって、国籍とは、個人が特定の国家の構成員であることを意味します

国籍の機能

国籍にはおもに次の2つの機能があります。

外交的保護の権利

国家は外国にある国民に関して、外交的保護の権利を有します。すなわち、外国に在留する国民が、不法・不当な取扱いを受け、その身体や財産を侵害され、損害を受けた場合に、その者の本国は、在留国に対して、一定の要件のもとに、適当な救済を与えるよう要求することができます。

パスポートに、次の文言が記されているのは、この外交的保護の権利の現れです。

日本国民である本旅券の所持人を通路故障なく旅行させ、かつ、同人に必要な保護救済を与えられるよう、関係の諸官に要請する。

日本国外務大臣

自国国民受け入れ義務

次に、国家は、他国の領域に在留することを許されない自国国民を自国領域に受け入れる義務があります。いかなる国家も、国際法上、外国人の自国領域内における在留をつねに認める義務はなく、一定の外国人は、なんらかの理由により国外追放されることがあります。その場合、追放者の本国は、追放者を受け入れる国際法上の義務があるとされています。

このように、国籍とは、「人が特定の国の構成員であるための資格」をいいます。しかし、国籍が時として、全米オープンで大坂なおみ選手が抗議した人種と同様に「差別」というマイナスのベクトルに向かうことも残念ながら否定できません。

国籍は「差別」ではなく「区別」であることは忘れてはいけないことではないでしょうか。

参考

プロテニスプレイヤー 大坂なおみ公式サイト

法務省ホームページ

『国籍法』(有斐閣)江川英文・山田鐐一・早田芳郎 著

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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