デモだけでは政治家は動かない!?「ロビイング(政策提言活動)」とは何か?(後半)
私は政治や選挙をテーマにいろいろ記事を書いています。しかし、私たち市民が政治に関わるうえでデモや選挙だけではなく「ロビイング」も密接に関わってきます。ただ、「ロビイング」や、「ロビイスト」という言葉自体をほとんどの方たちが知らないと思いますので、今回はジャーナリストの大塚玲子さんと一緒に「ロビイング」について説明していきます。
前半の記事はこちらから。
政治家に対して直接モノが言える有権者になろう!「ロビイング(政策提言活動)」とは何か?(前半)
政治の世界にもいろいろなルールが
大塚 そもそも、明智さんはどうしてロビイストになろうと思ったのですか?
明智 「マイノリティや弱者の声は、誰が聞いてくれるんだろう?」と考えたときに、自分たち当事者や市民が声を挙げていかないと、誰も聞いてくれないなと思うようになりました。
最初のきっかけは東京HIV訴訟の原告である川田龍平さんが2007年の参議院選挙に立候補したときに選挙の手伝いしたことでした。私は選対本部でマニフェスト作成に関わりました。そこで、私は「性的マイノリティ」のことも川田さんのマニフェストに盛り込みました。
川田さんが参議院選挙に当選した後は、川田さんの事務所が窓口となって国会の議員会館に出入りできるようになりました。他にも勉強会に呼んでくれたり、他の議員を紹介してくれたりして、いろいろな政党の国会議員との繋がりができました。
その頃に「国際連帯税を推進する市民の会」というNGOに出会いました。「国際連帯税」というのは貧困や飢餓などで困っている海外の人たちを援助する財源を確保するための税金を新しく創設しようというものです。たとえば航空券に課税して、その税金でアフリカなどを支援することを想定しています。このNGOで、ロビイングのやり方をいろいろと学ぶことができました。
実際にこのNGOの活動のなかで、超党派議連の勉強会に行ったり、要望書を出しに行ったりと議員立法までの過程を勉強することができました。
自民党はこうで共産党はこうでといった政党ごとの特色とか、各議員の人柄とか、「ここに話を通さないとヤバイ」という注意ポイント、官僚の人たちとのやりとりのコツなどについてわかりました。
とくに政治の世界では「仁義を切る」と言われていますが、政党や議員をまわる順番も決まっていて、少しの手順を間違えただけで議員から「馬鹿にされた」と思われて話を聞いてもらえなくなることがよくあります。あと、「あの議員は嫌いだから一緒にやりたくない」とか駄々をこねられたりと。まあ、私たち市民にはそういう政治家の人間関係なんてわかりませんから、仲良くしている議員と連絡を取り合って確認したりといろいろ神経を使います。
大塚 いろいろ難しそうですね(汗)。その後、明智さんは自殺対策にも取り組んでいらっしゃいますが、これを始めたのはなぜですか?
明智 私はいじめが原因で10代のときに自殺未遂を経験しました。それも自分がLGBTであることに起因していたので、社会に出た後も自殺対策を何とかしたいという思いがあったのです。LGBTの自殺未遂率や自殺念慮は、一般と比べると大変高いのです。国際連帯税で学んだロビイングのやり方を、次はLGBTの施策に活用してみました。
LGBTの自殺対策や、いじめ対策に取り組む団体である「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を2010年に設立しました。ちょうど、このときは民主党政権でしたが、LGBTの人権問題に関心を持っている議員が協力してくれました。
私たちは2012年の「自殺総合対策大綱」の見直しで性的マイノリティも自殺対策の対象に含めてもらえるように働き掛けを行いました。そして、協力的な民主党の議員たちが中心となって「性的マイノリティ小委員会」という勉強会を立ち上げてくれました。そこから政権に対してLGBTの自殺対策に関する要望書を出してもらう、という流れで話しを進めていきました。
もっと「草の根ロビイスト」が増えれば日本社会は良くなるのでは
大塚 ロビイストは、それだけで生活できますか?
明智 私の場合は民間企業に勤めながら時間をつくってボランティアでロビイングしていました。平日の昼間に有給休暇を取得して国会議員の事務所に通いました。民間企業にいたときは私がLGBT当事者であることも、ボランティアでロビイングしていることも全くカミングアウトしていなかったので、けっこう気を遣いましたね。
フローレンスではロビイストでも給料が貰えるので嬉しかったです。あと、ロビイストが職業の一つとして認められている職場が日本にあったということも嬉しかったです。社会的な課題を解決するためにロビイストに対して給料を払えるNPOやソーシャルビジネスが、もっと増えると良いなと思っています。
ただ、働き方としてはNPOやソーシャルビジネスのロビイストとして働くのも良いですし、民間企業に勤務しながらボランティアでロビイストをするのも良いと思います。それは、個人のライフスタイルでやり易いやり方をして欲しいですね。
大塚 ロビイストって個人でできますか? やっぱりどこかの団体に所属する必要がありますか?
明智 国会議員や行政に要望書を渡すときは団体名で提出することになりますから、団体に所属する必要があります。私が「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げたのもロビイングを行うために必要だったからです。ですから、自分で団体を立ち上げるとか、どこかの団体に所属する必要があります。
大塚 今後はどんな目標を持っていますか?
明智 もっと「草の根ロビイスト」が出てくるようにしなければと思っています。これからの日本社会を支えていくためには政治家や官僚に頼りっぱなしでは絶対にもちません。それに国会だけではなく、自治体や地方議会に対してもロビイングしていくことによってそれぞれの地域における課題も解決していくことができます。
いろいろな人や団体が、それぞれの課題を解決するためにロビイングをしていく必要があります。今のままでは、全然足りません。「ソーシャルビジネスやNPOと、ロビイング」というものを、きちんと両立させることによって、社会を変えられる団体や人材が増えていきます。
また、当事者自身がロビイングを行うのはとても厳しいのです。私がLGBT当事者であることをカミングアウトすることも辛かったです。いつも相手からどんな酷いことを言われるかといつも怯えていました。実際に議員から差別的な言動をされたこともあります。また、自殺未遂の体験をいろいろな国会議員や官僚たちに話してまわるのも本当に辛い作業でした。
もしこれが障がい者や、子どもだったら国会議員や官僚たち相手にロビイングしてまわるのは更に困難になるでしょう。そのような意味でも当事者を支援してくれるソーシャルビジネスやNPOが当事者の代弁機能としてロビイングしてくれれば課題の解決も可能となるのではないでしょうか。
大塚 ああ、そうですよね!そういった意味でLGBTは、マイノリティのなかではまだ多少、声をあげやすいほうなのかもしれません。
明智 あとは有権者が政治に関わる機会が選挙で投票するだけではなく、自分の意見や要望を政治家に対して伝えることが当たり前になる社会に変えていきたいです。職業としてのロビイストまではいかなくても、市民の立場で政治家に対して直接モノが言える環境を作っていきたいと考えています。
大塚 わたしも、日本人の「お上にお任せ」状態をなくすことが一番だいじだと思います。変わっていけるといいですね!
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ジャーナリスト、フリーライター・編集者
大塚玲子
【ブログ】
東洋経済オンライン連載「善意が生んだ不思議組織 PTAのナゾ」
【プロフィール】
フリーライター&書籍編集者。著書は『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』。都内の編集プロダクションや出版社に勤めたのち、妊娠を機に退社、フリーに。1971年生まれ、東京女子大学文理学部社会学科卒業。