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福島のFをフロンティアに 原発事故後の課題をニーズと捉え創業支援スタート

堀潤ジャーナリスト
福島県浜通りでの創業を希望する若手経営者たちの活躍が期待される

東日本大震災を機に、震災復興のための調査を行う団体として2011年に発足した一般社団法人RCF。「社会事業コーディネーター」として、復興や社会課題解決を目指す事業の立案から、関係者間の調整までを担ってきた。

あの日から6年半。今、福島で若い起業家を育成する取り組みが始まろうとしている。

新たに始動した「FVC(フロンティア・ベンチャー・コミュニティ)」は、避難指示解除に伴う帰還が始まったものの、子育て層が避難を続けるなど、他県に先んじて少子高齢化や過疎化といった日本の社会課題に直面している福島被災12市町村(※1)での、新たな事業に挑戦する創業希望者を支援する取り組みだ。

26日午前より参加者達が早速浪江町や南相馬市を訪ねた(撮影:一般社団法人RCF)
26日午前より参加者達が早速浪江町や南相馬市を訪ねた(撮影:一般社団法人RCF)

(※1)東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴い避難指示等の対象となった福島県の被災12市町村(田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村及び飯舘村)

今日(26日)から二日間の日程で、参加者たちは浪江町や南相馬市を巡り、津波や原発事故からの復興を模索し奮闘する現場で地元の商店主やNPO法人の代表者らと交流を行う。

先月都内で開かれた説明会には100名を超える応募が。説明は福島から半谷栄寿さん
先月都内で開かれた説明会には100名を超える応募が。説明は福島から半谷栄寿さん

現地案内人は、半谷栄寿さん(一般社団法人あすびと福島代表理事/南相馬復興アグリ株式会社代表取締役)。半谷さんは2010年まで東京電力の執行役員を務めていました。原子力事故への責任と地元復興への想いを胸に、福島で先駆的な活動を続けている。

「私たちの力だけでは、この地域の本当の意味の復興は難しい。国も頑張ってくれて、除染はかなり進んでいます。いろんなご意見はありますけど、賠償も行われています。しかし、地元の私たちが知ったことは、除染と賠償では残念ですけど地域は戻らない。結局は人、アイデア、ビジネス、そして生業を作っていく必要があります。官民問わず必要なのは『人』だという共通認識を持っております。このフロンティアベンチャーコミュニティが立ち上がっているのもまさに切実な人への訴えです。」と、半谷さんは話している。

FVCのFは福島ではなく、あえてフロンティア(開拓地)とした。この活動を通じて世界に撃って出られる新産業の発信拠点をつくっていきたいという。NPOやNGOの活動を支援するメディア「GARDEN」では被災地域で活動を続けて来たRCF代表の藤沢烈さんに、あらためてFVCを立ち上げたその狙いと戦略を聞いた。

■東日本大震災から6年 動き出した福島沿岸部の時計

堀)

震災から6年以上経過して、「気にはなるんだけど詳細は知らない」という方もいると思うんですけど。烈さんたちが取り組んでいる現場は現在どういう状況なのでしょうか?

藤沢)

福島の取り組みをしているんですけど、福島にとってこの2017年というのは大きな転換期で。3月末から4月にかけて、原発事故で戻れなかった地域がかなり戻れるようになってきました。宮城や岩手は戻れる状況が前からあったのですが、(福島は)止まっていた時計がようやく動き出した大事な一年になっています。

RCF代表藤沢さんは一橋大学卒業後、マッキンゼーを経て独立。復興庁政策調査官も。
RCF代表藤沢さんは一橋大学卒業後、マッキンゼーを経て独立。復興庁政策調査官も。

堀)

動き出したというのは、具体的に何が動き出しているんでしょうか?

藤沢)

これまでは、許可があれば一時的に、「準備宿泊」として泊まっていました。しかし、だいぶ広い形で戻って「住む」ことができるようになったということです。「戻っていいのか」、「戻れないのか」、迷われている方が多かったんですけど、「移住される方は移住する」、「戻る方は戻る」というふうにだんだん決め始めているというのは、大きな変化ですね。

堀)

僕、浜通りでやる気のある若手の県内外の人と一緒になったことがあって。復興というよりかは、元あるものよりも新しいものを作っていこうという機運が出ているなと感じました。現状、地元としては実際いかがですか?

撮影:井上香澄(GARDEN)
撮影:井上香澄(GARDEN)

藤沢)

すごくやはり目立っているのが、あの地域に住む若い人たちがとっても元気で。外の人は予想もしないかもしれないけど、とても明るくこの地域を盛り上げようとしているのがとっても印象的ですね。

堀)

具体的にはどんな動きが出ていますか?

藤沢)

福島の沿岸だと、南相馬市が原発で避難していた地域の中だと一番人口が多かったんです。「小高地区」が原発から20キロ圏内に入っていたので避難を余儀なくされていたんですけど、それが戻れるようになって。この地域に、今年から高校がスタートしたりと、若い人も集まって来ていて。その中で注目したいのが、「小高ワーカーズベース」。和田智行さんという方がリーダー(代表取締役)です。小高地域では、戻る人は少しずつ増えて来ているけど、スーパーがなかったり、クリーニング屋さんがなかったり、いろんなサービスが足りてないんですよね。そこを一個一個増やそうとする動きです。

堀)

どのように人を巻き込んでいるような取り組みになっているんですか?

藤沢)

もともと和田さんって、東京で情報通信の会社の経営者でもあったんですけど、小高地区の出身で、震災後に戻られました。彼らもUターンしている身として、外にいる人がどれだけ入るかということをとても大切にしているので、僕らのような外から入って関わろうとしている人に対してとてもオープンなんです。僕らも和田さんと提携・連携しています。

堀)

それは嬉しいですよね。僕も小高は震災直後に入りましたけど、ここからどうやって復興するんだろうかと。商店街はネズミとか害虫にまみれてしまって。でも、おじいちゃんおばあちゃんたちが一生懸命花を植えていたりとか、この街を絶やしてはいけないんだと。だから本当に、「きたー」という感じで。

藤沢)

そうですよね。ここからようやくスタート。電車も浪江まで通りようになりました。現地の皆さんの嬉しさも僕らに伝わって来ます。

■福島は「フロンティア」 日本、そして世界のモデルとなる街を作る

堀)

でも、こうした福島の現状を何も知らない人は、「え、そんな起業とかの動きがあるの?そんなことをできるの?」と感じる方もいるかもしれませんね。どういう情報を発信していきたいですか?

藤沢)

和田さんが「フロンティア(未開拓の領域)」って言葉を言うんですよね。「南相馬のこの地域は大変な状況になったけれど、実は今新しい街づくりがスタートしていて、これから発展するんだ」と。これを聞いて「本当にそうなの?」と思う人もいると思うんです。でも、高校もできたり、人口も今は1000人くらいですが、これが2、3年で3000人、5000人と増えて行く予想もあります。大変なところを支えたいという方にも来ていただきたいのですが、事業をやったり新しいことをやる上でもチャンスがある場所。もっと言うと、高齢化も進む大変な中で、こう言う時代だからこそ必要な街がこの場所で作られていくと思うんです。中国だってこれから高齢化が進むわけで。僕は夢としては、東北で新しい街ができて、それが日本だったり海外にもそれが参考になっていくようにと。福島は世界からも応援されている街ですから、世界に対して何かお返しできるといいですね。

堀)

そう言う意味でいうと、今回烈さんたちがRCFで仕掛けている新しいイノベーション、「新しいサービスを浜通りから各地から発信していこう」という取り組みはなかなか期待できますね。

藤沢)

和田さんの「フロンティア」という言葉を使わせてもらって、「フロンティア・ベンチャー・コミュニティ(FVC)」をスタートしてます。この「F」は、「フロンティア」の「F」でもあるけど、「福島」の「F」もかけている。「福島・ベンチャー・コミュニティ」にしなかったのは、「福島」という言葉だとなかなか正しく正確に伝わらないところもあるし、関心を持てる人が広がらないなと思ったからです。「福島」でもあるけれど「フロンティア」なんだと。「フロンティアで何か事を起こして、地域から新しいモデルを作ろう」という思いを持つ人に来て欲しいということで「FVC」という取り組みをスタートしています。新しい動きを起こしたい方に全国から集まってもらって。でも、何百人もではないんです。まず10人ですね。10人くらいの人に福島に来てもらって、何か新しいことを起こしてもらうことが今の福島にとって本当に大事なことなので、そういう繋がりを僕らとしては作っていきたいですね。

堀)

「FVC」を始めて、実際にどんな取り組みがすでに生まれていて、今後どういう分野が期待できそうですか?

藤沢)

ドローンの技術を持っている方が、福島の沿岸の「今」をちゃんと後世に残そうと、ドローンを使った事業を福島沿岸で展開しようとしています。キャンプファイヤーの家入さんと提携させてもらって、一個一個の動きを全国のみんなにも支えてもらって事業を起こして行く、そういう流れが生まれつつありますね。

画像

堀)

ドローン、面白いですね。ドローンを使ってどんなことが生まれていきそうですか?

藤沢)

6年前の事故で、家をそのままに皆さん避難をされていて、その多くは取り壊されることになるのです。ドローンを使って地域全体を撮影する事で、「この地域にこの家を自分は構えていたんだ」ということを記録に残せる。多分、福島の災害というと、なんとなく「何人被害があった」という数だけが出てしまうんですけど、「一人一人の生活にちゃんと焦点を合わせて記録する」というのはとっても意味があるなと。今まさに、「戻る方は戻る」、「戻れない方は戻れない」と決めるタイミングでもあるので、ここで記録を取って、他の地域での生活を始めようとするという人たちにも必要なサービスになっているなと感じましたね。

堀)

そういうのは予想されてたんですか?

藤沢)

いや、全然ですね。福島の沿岸に通う人向けにサービスを起こそうとする動きが出てくるのかなと思ったんですけど、避難をしている方向けのサービスになったというのは嬉しい誤算ですね。

堀)

そういう方々が新しくサービスを立ち上げたりするのは基本的にクラウドファンディングベースなんですか?それとも、「出資」や「地元の人たちとの連携」などの方法もあるのですか?

藤沢)

クラウドファンディングは立ち上げのための一つの仕組みですが、他にもいろいろあります。例えば、一般社団法人MAKOTOさんとも連携をしています。MAKOTOさんは、福島銀行と組んで「福活ファンド」という投資ファンドを設立しました。「一回どこかの地域で事業をやっていたけど、うまくいかなかった人」向けに出資する仕組みです。「福島沿岸で事業をしていた方」もいるし、「他の地域で事業をしたけれど、この地域で再開したいという方」もいます。

堀)

面白いですね。

藤沢)

失敗した人専用。多分、「福活ファンド」の「福」は、「福島」の「福」をかけてると思うんですけど。「福島」も復活であり「本人」も復活と。僕らは、このようなものをご紹介したりしています。

■課題は「中の人」と「外の人」とのコミュニケーション

堀)

一方で、課題点はいかがでしょうか?小高では、外の人に対してオープンマインドだということでしたが、一方で、地元が割れてしまうというケースも少なくはないのではないでしょうか?「外からの力」と「内側の力」をうまく融合させていくために、どのようなことを乗り越えないといけないのか。烈さんたちの取り組みでは、その点をどう橋渡ししていますか?

藤沢)

そうなんですよね。福島の沿岸も震災前から強いコミュニティがありましたので、そこに加わってくというのはもちろん簡単じゃないと思うんですよね。ましてやあの地域は、賠償の問題も含め、地域の中の人同士でも非常に分断が起き続けた6年間でもありました。だからこそ「外の力」も大事だと思っていて。あの地域に住んでいた方や関わっていた方は、ある種のしがらみがありますが、これから外から入ろうとする人はしがらみがなくゼロからスタートすることができます。外からの方々がこの地域で何か新しく盛り上げていくという姿自体も、実は現地にもともといたみなさんにもいい刺激になるんじゃないかなと思っています。「中の人」が盛り上がるためにも、「外の人」が上手く入って新しいコミュニティができていくことを期待していますし、そのために僕らも頑張りたいなと思っていますね。

堀)

ちょうど今年の2月に烈さんたちが「FVC」のキックオフイベントとして開催された、福島・富岡町での起業家向けイベント「福島12市町村スタートアップセミナー〜ハマコン in 富岡〜」にお邪魔させていただきました。その時にいいなと思ったのは、ただプレゼンをするだけじゃなくて、地元の皆さんも外から来た皆さんと車座になって課題を話し合うワークショップの時間もあったじゃないですか。聞いていると、結構率直な声もあって。原発作業員向けのスナックを開設したいという女性に対して、地元でずっと飲食店をやって来たご主人が「いや、それは俺たちの商売とかち合うことになるんじゃないか。」とか。一方で、「新しい人が入ってくると、もう私の街じゃないように思う」という地元の女将さんの声もあったりとか。そういうのを融合させる場も一緒に作っているというのは、ポイントなんじゃないかなと思いました。そのあたりの草の根的な取り組みは大事にされているんですか?

今年2月に福島県富岡町で「浜魂(ハマコン)」と銘打つビジネスコンテストが開かれた
今年2月に福島県富岡町で「浜魂(ハマコン)」と銘打つビジネスコンテストが開かれた

藤沢)

はい、大事だと思ってます。宮城や岩手でも地域づくりを先行してやって来たんですけど。地域を見ていると、「外の人が上手くいい形で馴染んで入ってく地域」と、「なかなか外の人が入れない地域」で二分しているのが現実です。「新しい方が上手く馴染んで入ってくる地域」というのは、その後いろんな新しい動きが出て来ていて、「中の人」も活躍されているんですよね。福島の沿岸の地域は、福島にもともといた人だけだとなかなか発展しづらいところもあると思ってます。僕らの役割としては、外から入りたいという人をまず見つけて、その方々がいい形で馴染んで入っていくところのお手伝いをきちんとしたいなと。そのためにそういったワークショップが前提になると思いますね。

堀)

大事ですよね、対話してみないとわかんないですよね。

■「福島が新しい形で発展する」ことを信じる側に立っていたい

堀)

「FVC」でどんなイノベーションが起きるのを期待されていますか?

藤沢)

まだ日本人全体も、福島のあの沿岸地域が、まったく元の通りに戻ることはないにしても、持続できる形で残れるかというのを心底信じられてる人って必ずしも多くないと思うんですね。だけど、外から新しく入って、そこで新しい仕事をやって、「震災があった後に新たに入って何かを起こしている人もいるんだな」、「福島の沿岸ももしかしたら次の可能性あるんだな」と心底納得してもらえることがいちばんのイノベーションかなと思いますね。

堀)

ああそうか。意識の問題というか、未来を見る力というんでしょうか。

藤沢)

もしかしたら、まだ、「福島が新しい形で発展する」ということを信じきれていない人が、大きく日本人の意識を変えていくことになるかもしれない。そこはすごく可能性があるし、そこの一員になれる。

堀)

烈さんはどうして信じているんですか?

藤沢)

自分が論理的に信じているとかじゃなくて、自分はその、そこを信じている人の側に立ちたいという方が近いかもしれないですね。印象に残っていたのは、富岡の方に話を聞いて、本当に震災直後に一時帰還の時に何をされるかという話をした時に印象に残っているのは、「お墓を除染する」と。自分はこの地域で長く先祖代々暮らして来て自分お世代では終わらせたくないんだと。違う形で残していきたいんだと話されていて、そういう感覚なんだなと腑に落ちたんですよね。だから、「できる、できない」の前に、そういう思いを持っている人がいると。やっぱり福島は福島だけの問題じゃないと思いますし、日本人全体の問題として、福島を何とかしようとしてる人がかなり多くいらっしゃるわけですから、その側に立って一緒に信じたいなと。

撮影:井上香澄(GARDEN)
撮影:井上香澄(GARDEN)

FVC事務局では、今後10月、12月とツアーなども計画しておりその都度の参加募集を行っていく予定だ。福島に限らず、地域で新しいチャレンジをしてみたい人、福島の今に関心がある人にとっても新たな出会いの場になることは間違いがない。

FVC事務局が随時情報を発信しているFacebookページはこちらに。

https://www.facebook.com/fvc.fukushima12startup/?fref=ts

(取材・GARDEN Journalism編集部)

ジャーナリスト

NPO法人8bitNews代表理事/株式会社GARDEN代表。2001年NHK入局。「ニュースウォッチ9」リポーター、「Bizスポ」キャスター。2012年、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校で客員研究員。2013年、NHKを退局しNPO法人「8bitNews」代表に。2021年、株式会社「わたしをことばにする研究所」設立。現在、TOKYO MX「堀潤LIVE Junction」キャスター、ABEMA「AbemaPrime」コメンテーター。2019年4月より早稲田大学グローバル科学知融合研究所招聘研究員。2020年3月映画「わたしは分断を許さない」公開。

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