土壌汚染の専門家が「怒って辞めていく」、東京都の築地市場移転問題の深刻さ
12月11日、築地市場の移転問題はいま、どうなっているのかを久しぶりに取材しようと、東京高裁で係争中の第1回口頭弁論を傍聴しに行った。
築地市場といえば、魚河岸の代表。しかし、東京都が移転先に決めた江東区豊洲の新市場予定地は、ガス製造工場跡地だったことから、発がん性物質のベンゼンなどによる土壌や地下水への汚染の実態が、次々に明るみになっていった問題だ。
私は2004年頃から、この市場移転問題を取材してきた。見下したような目線で強引に移転を進める都に対し、築地の仲卸業者らは怒っていた。
2006年10月には、仲卸業者らが中心になって初めての移転反対デモへと発展。「食の安心・安全」への高まる世論の懸念にも押され、翌年、当時の石原慎太郎都知事は、新市場予定地の土壌汚染対策等に関する専門家会議を設置せざるを得なくなった。
そして、新たな汚染が発覚するたびに、都は移転計画の延期を余儀なくされていく。
震災が起きた2011年3月11日、私はまさに、築地移転予算の可否で注目される与野党逆転下の都議会にいた。それ以来、被災地の取材にかかりっきりになってしまったが、もし震災が起きなかったら、築地市場移転問題をずっと追い続けていたことだろう。
この問題を巡って、今も3つの訴訟が起こされている。
私が昨日、傍聴した裁判は、2010年1月に朝日新聞が1面スクープした「汚染処理費用は都だけが負担。東京ガスに負担義務はない」という報道を知り、都民や仲卸業者らが「都知事らは重大な汚染の残存を知っていながら、土壌汚染を考慮しない高い価格で土地を購入し、都に損害を与えた」と訴えているものだ。
ところが、傍聴した2006年購入分については、1審で「(購入を知り得た日時からの)請求期限が切れている」と“時効”で門前払いされたことから、今回の控訴審でも本質の問題に入れず、「入り口論」でのやりとりが続いている。
そして、土壌汚染の専門家は1人もいなくなった…
興味深かったのは、裁判後、これまでずっと専門家会議などを傍聴してきたという仲卸業者の感想。
「専門家会議で土壌汚染の専門家だった平田健正座長も、最後は東京都に怒って辞めていった。以来、土壌汚染の専門家は皆、都の主張に疑問を抱いて従わない。だから都は、困ることがあると、技術会議を召集して次々に決定している。重大な政策決定のお墨付きを与えているにもかかわらず、技術会議に土壌汚染の専門家は1人もいないんです」
結論に向かって事を急かせるあまり、何か大切なものが置き去りにされているように思う。命につながる安心、安全にかかわることなら、皆が納得できるように話し合わなければいけないのではないか。
何もやましいことがないのなら、土壌汚染の専門家にも当事者にも入ってもらい、すべてを公開にして何時間でも対話できれば、皆の未来はより良いものになるはずである。
原告側の弁護士は昨日、訴訟の見通しについて、こう推測した。
「いずれが勝ったとしても上告して最高裁の判断。そこから地裁に戻ってやっと本質に入れる。先はまだまだ長いです」
築地市場移転問題は、まだ終わりそうにない。