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北海道の価値、「北海道ブランド」をどう理解するかが問われる時です。

鳥塚亮大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長
今後去就が問われるJR北海道のローカル線

北海道の皆様、おめでとうございます。

若くてフレッシュな新知事が決まりました。

時を同じくしてJR北海道から「JR北海道グループの長期経営ビジョン」が発表されました。

これから、新しい時代に進んでいくことと考えますが、北海道庁もJR北海道も忘れてはいけないことがあると筆者は考えます。

「JR北海道グループ長期経営ビジョン」等について(4月9日付)

その忘れてはいけないこととは何か?

それはお客様の心理です。

お客様が何を求めているのかをないがしろにしてしまうと、北海道もJR北海道も将来は厳しいでしょう。

JR北海道は経営の危機にあって秒読み状態ですが、北海道庁も決して楽観視できる状況にはありません。

そういう時に、人間心理として陥りやすいのは、長期的展望など考える余裕がありませんから、とりあえず表面上を取り繕おうとすることです。

簡単に言えば数字の帳尻合わせであったり、当面の間に合わせの計画であったり。

いつのころからか日本人はそういう短絡的な「経営感覚」を身に付けてしまったように思います。

そして、それを当然のように常識化してしまっています。

私たちの先人たちは、明治の開国からの富国強兵政策をはじめ、「国家百年」という長期的展望に立ってさまざまな設備投資やインフラ投資をしてきましたが、それを受け継いだ私たちは、大局的見地に立つことをせず、当面の帳尻合わせのために先人たちが築き上げてきたものを、いとも簡単に捨ててしまいます。そして、それが一番顕著に表れているのが北海道のような気がします。

さて、忘れてはいけないことの本題に戻しましょう。

お客様の心理。

つまり、お客様が何を求めているのか、そしてどこに需要があるのかということですが、JR北海道にとってのお客様というのは誰でしょうか。

また、北海道庁にとってのお客様というのは誰でしょうか。

JR北海道は鉄道会社ですから通勤通学で利用する沿線住民や都市間の利用者がお客様です。

北海道庁にとってみたら各自治体や道民がお客様でしょう。

これは今利用している人たちですから、いわゆる顕在顧客です。

そして、北海道は人口も経済も右肩下がりですから、今利用している鉄道の利用者や地域住民という顕在顧客に対する対策やリップサービスをしていたのでは、長期的展望に立った場合には何も解決しません。

ではどうするか。

顕在顧客への対応策はもちろんですが、顕在顧客だけでなく、潜在顧客の掘り起こしも同時に行わなければなりません。

潜在顧客というのは、これからお客様になっていただく人たちです。

筆者がいすみ鉄道で実践してきたのはまさしくこの潜在顧客の掘り起こしで、今いる地域住民や高校生は今後右肩下がりでどんどん数が減っていきます。それでは存在そのものが危うくなりますから、当時の潜在顧客である「地域外からの観光客」を増やすことで、地域需要の右肩下がりの部分を補おうという考えでした。

でも、当時(今から10年前)は菜の花と桜の季節でもいすみ鉄道は誰も観光客など乗っていませんでしたので、筆者が観光客を呼びたいと言ったら地元の皆様から「観光客なんか来るわけないだろう。こんなところに。」と言われました。

そりゃそうですよね。

潜在需要というのは目に見えていないのですから、「何処にいるんだ?」という話で終わってしまいます。

同じように筆者が室蘭本線の追分で観光列車を走らせようと申し上げましたら、北海道の人たちは皆さん「何でそんなところでやるんだ。オホーツクとか宗谷とか、もっといいところがあるだろう。」と言われましたが、つまり、潜在需要ですからご理解いただけないのです。

一般論で言えば、「自分たちが住んでいる地域の良さは、自分たちには気がつかない。」ということです。

でも、北海道って、ものすごく有利なポジションにあると思います。

例えばこれ、皆さんはどう思われますか?

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台湾のコンビニの棚に陳列されている菓子パンです。

北海道って書いてあるでしょう。

「北海道から直送した牛乳を使っています。」

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牛乳は台湾でも普通に売られていますから、別に北海道から直送する必要もないでしょう。

不思議だったので台湾人の友達に聞いたんです。

なぜ、北海道って書いてあるのかと。

そうしたらその台湾人の友人が、「だって、北海道って書いてあると美味しそうでしょう。」と言いました。

「へ~、そういうもんなんだ。」

そう思って町を歩いているといろいろなものを目にします。

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台湾南部の田舎町、台東市のショッピングモールの中で見かけたレストランの看板です。

火鍋屋と呼ばれる鍋料理を食べさせるお店です。

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よく見るとあちらこちらに北海道、北海道って書いてあります。

「北海道牛出没」なんて、このデザインどこかで見たような気もします。

日本人が見ると笑っちゃいますが、台湾の人にとって見たら真剣そのもの。

「だって、北海道って書いてあると美味しそうでしょう!」

商売をする側も、その商品を購入する側も、皆そう信じているんです。

そしてそれが北海道ブランドなのです。

おそらく北海道庁やホクレンの人たちが戦略的に考えて行動した結果ではないでしょう。

彼らからしてみたら、たまたま偶然にこうなっているのかもしれませんが、ブランドというのはありがたいものです。

なぜなら、ブランドというのは信仰のようなものですから、たとえ高額であっても「信じている」人はお金に糸目をつけずに購入する。

そういう人たちを信者顧客と呼びますが、北海道ブランドというのはそういうもので、つまりは最強のブランドなのです。

そして、当の北海道の人たちは、こういうことになっているということが、ほとんどの人が理解していないんですね。

潜在需要どころか、筆者から見ればすでに顕在需要だと考えているところがご理解いただけていないのです。

釧網本線の茅沼駅でカメラを構える外国人観光客。(撮影:大熊一精氏)
釧網本線の茅沼駅でカメラを構える外国人観光客。(撮影:大熊一精氏)

筆者が委員を務めた北海道庁主催の観光列車検討会議で1月末に走らせた外国人客向けのモニターツアーの時の1コマです。

茅沼駅に停車した列車から降りて外国人観光客の皆様方が一定にカメラを向けるその先は。

雪原に沈む夕陽とタンチョウ(撮影:大熊一精氏)
雪原に沈む夕陽とタンチョウ(撮影:大熊一精氏)

夕陽と丹頂鶴。

ちょうどピッタリのタイミングで皆様大喜びでした。

でも、たったこれだけのことです。

真冬の夕暮れの無人駅。

だいたいふだんは30秒停車の茅沼駅に、なぜ10分以上も団体貸切列車を停止させるのか。

鉄道会社も地域住民もおそらくご理解いただけないと思います。

北海道の人なら見落してしまうかもしれませんが、ブランドというのはこういうものだと思います。

そして、その北海道ブランドを演出する最強のツールが鉄道なのです。

そう、北海道は既に良い位置につけているのです。

一生懸命観光客を招こう、地域産品を売り込もうと努力している地域がたくさんある中で、1歩どころか10歩以上もリードしている。

このような可能性に満ちた北海道の今後を、しっかり舵取りできるのか。

新知事とJR北海道には、目先の数字の帳尻合わせではなく、将来的な国益をしっかり見据えて頑張っていただきたいと思います。

北海道の明るい未来を願ってやみません。

※写真はおことわりがあるものを除き筆者撮影

大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長、2024年6月、大井川鐵道社長。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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