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私的興味の夏の甲子園!(9) 風間球打をチーム一丸で攻略した明徳・馬淵監督からのエール

楊順行スポーツライター
2019年夏の決勝から。早くこういう日が戻ってほしいですねぇ(写真:アフロ)

「単なる待球だとすいすい行かれる。甘い球はしっかり打ち、ボールになる低めの変化球は絶対振るな。そして追い込まれたらファウルを打て」

 明徳義塾(高知)・馬淵史郎監督が、明桜(秋田)の157キロ右腕・風間球打攻略のために徹底した指示だ。地方大会の決勝で、ドラ1候補・森木大智のいる高知を破ったときもおそらく同じだったろう。ファウルを稼いで球数を投げさせればしめたものだ。

 だが風間は、真上から投げ下ろす183センチの角度がある。「マシンもピッチャーも、50センチ高いところから投げさせた。付け焼き刃でなんとかなるもんじゃないけど、あごをあげない打ち方のイメージはできたかも」と馬淵監督は言う。

 8回で124球を投げさせ、森木を降板させた高知の決勝同様、打線は風間にボディブローを与えていく。3人で攻撃を終わりなながら、初回には25球を投じさせた。しかも「クイックだとストライクが入らないし、けん制もうまくないように見えた」(馬淵監督)という風間に対して、失敗には終わったが盗塁も試みストレスをかけている。2回に1点先制されたが、3回は、岩城龍ノ介が追い込まれてからファウル3球と粘り、10球目を内野安打。さらに2安打で同点とする。この回の風間の29球のうちには、この日最速の152キロも含まれるが、

「ウチでは日ごろから150キロを打つ練習をしているし、追い込まれてからもしっかりとファウルしていたように、選手たちはそれほど速さは感じなかったようです。速く感じると、どうしても振り出しが早くなるんですよ。ですが、速さを感じなければその分ボールを長く見られる。それがボールになる変化球の見きわめにつながったんでしょうね」

 と馬淵監督。超高校級はいなくても、チームとして徹底したこれらが結果的に、6回2失点ながら風間になんと139球(まじめに投球数をカウントしていない僕などは、にわかには信じられなかった)を投げさせ、明桜に7回からの継投を強いることになる。そこから6点を追加した明徳が、プランどおりの試合運びで2016年以来のベスト8に進出した。

山本由伸もそうでしょう?

「ストレートだけでは甲子園で勝てないと学びました」

 とは、敗れた風間だ。4回まで無安打に抑えながらノーゲームとなった帯広農(北北海道)との仕切り直しは、10三振を奪って2失点完投。明徳戦でも6回まで8三振と、大器の片鱗は見せた。気になるのは、素人目には突っ立ち気味に見えるフォームだが、ある社会人チームで元プロ経験者のコーチからこんなふうに聞いたことがある。

「あれは、いいんですよ。たとえば、東京オリンピック金メダルの投の柱・山本由伸(オリックス)だってそういう感じでしょう? 古くは元阪急の山口高志さん。体は小さいけど、左足で止めたエネルギーを上体に伝えるから、あれだけの速い球が投げられたんです」

"流しのブルペンキャッチャー" こと安倍昌彦さんによると、

「最高球速の報道ばかりが目立ちますが、変化球で緩急をつけられますし、ストレートを使わずに三振も奪える。決して球速だけで押す、力まかせのタイプではないですね」

 そう、球速一辺倒ではなく、クレバーな投球をするというのは、記者会見でのしっかりした受け答えからも感じたことだ。

「高校生で150キロを投げられるのはすごいこと。将来、頑張ってもらいたいですね」

 馬淵監督から風間へのエールである。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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