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いよいよF1新車発表。「大幅に速くなる」ルール改正はF1人気復活の起爆剤となるか?

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
2017年用のピレリタイヤでテストしたフェラーリ【写真:PIRELLI】

王者ニコ・ロズベルグの突然の引退、最下位チーム「マノー」の消滅、ボッタスのメルセデス移籍、フェリペ・マッサの引退撤回など様々なニュースが踊ったシーズンオフが終わり、いよいよ2017年シーズンの「F1世界選手権」開幕に向けて、新時代のF1が姿を現そうとしている。

「PU(パワーユニット)」と呼ばれるエネルギー回生システムを採用してハイブリッド化して以来、F1は「音に迫力がなくなった」「メルセデスの独走で退屈」「ルール改正で迷走」など様々なマイナス要素を世界中のファンがSNSに書き込むようになり、最高峰という価値のイメージが著しく崩れてしまった。特に日本国内では追い打ちをかけるように、日本人ドライバーの不在、期待を背負って参戦した「マクラーレン・ホンダ」の不振、無料テレビ放送の消滅など、F1を身近に感じるツールや要素が次々に削がれていってしまった。

世界的にも人気が低迷している「世界最高峰のモータースポーツ」=フォーミュラ・ワン(F1世界選手権)だが、今シーズンはその様相が大きく変わる。F1は今、変革の時を迎えている。

5秒速くする新ルールになる

2017年、F1が人気復活のために提示するソリューションは大幅な車両規定の変更だ。「ラップタイムを5秒速くする」をテーマにした新規定で、マシンの大胆な変化が見られることになるはずだ。

普段、F1をフォローしていない人にしてみれば「F1は速くなって当たり前」かもしれない。だが、現実にはこの20年以上もの長きに渡り、F1は「平均速度を抑える」ためのルール変更が時によって施されてきた。これは1994年にアイルトン・セナとローランド・ラッツェンバーガーがサンマリノGPで相次いで事故死して以来、安全性に対する教訓から行われてきたものだ。

たった2台のF1カーを年間20戦走らせるために約700億円もの投資が行われ、表に出てくる50人ほどのチーム員だけに留まらず、500人以上の優秀な従業員がバックグラウンドで働いている現代のF1では、様々なコンピューター解析によって日進月歩でマシンを進化させ、速さを増していく。それはレース=競争であるから当然の原理だ。

タイヤが単一のブランド一括供給(現在はピレリ)となって以降は、強烈なラップタイムの向上は無くなったが、ルールの解釈に抜け目を見つけ出し、独自のソリューションで速さを増しては、その抜け目が明確に禁止されるという「いたちごっこ」がF1では当たり前である。それが何と、「一気に速くしてしまおう」という、今までにないルール変更が施されるのが今シーズンだ。

具体的にはタイヤの幅が広くなり、車幅もウイングの大きさも拡大される。路面を捉えるグリップ力、車を押さえつける力(ダウンフォース)が増し、コーナーを駆け抜けるスピードを向上させようとするものだ。なぜ、F1は急にここまで速さを増すことにこだわったのか?

(動画:PIRELLIによる2017年用タイヤと新規定の解説(英語))

大人しい見た目が一気にアグレッシブに

かつて、日本で子供達が「F1マシン」に強烈な憧れを持った時代があった。太いタイヤ大きなウイングペタペタの車高。まさに地上に吸い付いて走る究極のクルマに見えた。F1マシンの写真が乗った筆箱などの文房具を使っていた方が40代〜50代の男性にはたくさん居ることだろう。これは1980年代、今から30年以上前の話である。

1980年代のF1マシン(ルノー)
1980年代のF1マシン(ルノー)

まず、見た目にも「アグレッシブなルックスのF1」を復活させようというのが今回の変更の狙いだ。ただ、80年代のF1マシンのようなルックスには到底ならない。なぜなら、現代では空気力学の解析が高度に進み、F1マシンは効率よく空気を流すスリムなボディになっているからだ。

2016年のF1マシン(ルノー)【写真:TypeS】
2016年のF1マシン(ルノー)【写真:TypeS】

近年のF1はタイヤが一括供給となりタイヤの競争が消滅した。そして、動力のPUもメルセデス、フェラーリ、ルノー、ホンダの4メーカーが争っているものの、シーズン中の開発、変更が著しく制限され、変更には決勝スタート位置の降格などペナルティが課されることに。年間使用基数も制限されているため、かつてのように新しいバージョンを投入して巻き返しを図ることは難しくなっていた(今季からはトークン制度が廃止され、大幅なバージョンアップも可能)。

車体をチーム独自で作ることが義務付けられるF1チーム(コンストラクター=車両製造社)が進歩させられる部分は車体のデザイン。レースごとサーキットごとに異なるデザインの空力パーツを持ち込み、効率良く風を流し、下向きの力(ダウンフォース)をより多く得るための努力を各チームが行う。そのため、F1マシンに装着されるウイングなどの空力パーツは鳥などの動物を彷彿とさせる複雑な曲線を描くものになっている(当然、コンピューター上で効果が実証されたもの)。

非常に複雑な曲線形状を持つ2016年のF1マシン(ザウバー)のフロントウイング
非常に複雑な曲線形状を持つ2016年のF1マシン(ザウバー)のフロントウイング

ただ、前述の通り、コーナーを駆け抜ける速度の上昇を抑えるために、F1マシンは様々な部分で制限が加わり、全体的には「こじんまり」とした印象のマシンになっていた。そのルックスが今年から大幅に変わるのだ。

【2017年規定変更の抜粋】

前輪タイヤ幅:245mm → 305mm

後輪タイヤ幅:325mm → 405mm

タイヤ直径: 10mm拡大

フロントウイング全幅 1650mm → 1800mm

リヤウイング全幅 750mm → 900mm

リヤウイング高 950mm → 800mm(低くなる)

車体全幅(タイヤ含む) 1800mm → 2000mm

サイドポンツーン幅  1400mm → 最大1600mm

ダウンフォースを発生させるフロア(マシン下部)も拡大

最低重量 702kg → 722kg

ドライビングを難しくしようという狙い

世界で20人ほどしかいない「F1世界選手権」を戦うF1ドライバー達は世界トップレベルの速さとテクニックを持ち、ドライブが上手くて当然の人たちである。その部分は疑いようもない。

ただ、かつてのF1と比べてみると、近年のF1は正気の沙汰とは思えないほどの速さではない。F1日本グランプリの開催地「鈴鹿サーキット」を例に取ると、鈴鹿のコースレコード(最速ラップ記録)は2006年にミハエル・シューマッハ(当時フェラーリ)が予選で記録した1分28秒954で、なんと10年間も破られていない。ちなみに2016年の予選最速タイムはニコ・ロズベルグ(メルセデス)の1分30秒647である。

16年前、2001年のマシン。溝付きタイヤを使用。昨年のスピード領域に近い。
16年前、2001年のマシン。溝付きタイヤを使用。昨年のスピード領域に近い。

決勝レース中のタイムに関して最速記録はキミ・ライコネン(2005年/当時マクラーレン・メルセデス)が持つ、1分31秒540(平均時速228.4km/h)。それに対し、2016年はセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)の1分35秒118(平均時速219.8km/h)と約3.6秒も遅く、平均時速もかなり違う。10年前はレース中の給油が認められ、軽い車体でビュンビュン飛ばしていた時代。給油のない現在は違うドライビングスタイルが求められるが、それを理想では1周5秒速くして、神のみぞ知る領域に持って行こうとするのが今回の規定変更だ。

つまり、近年のドライバビリティ(運転しやすさ)の向上でドライバーがミスすることが少ない領域から、乗り手によって差が出る領域へ持っていくことで、レースに動きが起きるようにしようという狙いもある。コーナリングスピードの上昇は身体にかかるGフォースも大きくなるので、年齢を重ねたドライバー達はフィジカル面ではキツイ状況が生まれるかもしれない。

百戦錬磨のベテランたちは新時代をどう戦うか?【写真:PIRELLI】
百戦錬磨のベテランたちは新時代をどう戦うか?【写真:PIRELLI】

本当に面白くなるのか?安全性は?

生活の中で5秒というと非常に短い時間である。しかし、1000分の1秒を争うレースの世界では5秒速くなるということは、全く違うジャンルのマシンと考えてよい。サーキットの観客席で、速さの違いは誰もが目で見て分かる違いになる。

(動画:RedBull Racingによる2017年の規定変更解説(英語))

新規定によってレース中のバトルが今よりも多くなると期待したいが、そうもいかない。ウイングの大型化によって後方のマシンに浴びせられる乱気流が増し、後方のマシンの空力バランスが不安定になると予想される。そのため、多くの専門家がオーバーテイクの機会は増えないと考えている。それこそ最速ラップ記録を樹立していた10年ほど前、順位変動の大半は給油のためのピットストップで、コース上の追い抜きシーンは少なかった。

また、速さを増すことで安全面に対する懸念も増す。F1の安全性への研究は日々進んでおり、F1マシンは厳しいクラッシュテストをパスしなければいけない。そのためドライバーの安全性への配慮は最優先で取り組まれている。ただ、F1を開催するサーキットの中には伝統的なレイアウトの高速サーキットも多い。コーナリングスピードを増すF1にクラシックなサーキットが今後対応できるのか心配な部分もある。

とはいえ、2月末に登場する今季のニューマシンが開幕戦(オーストラリアGP)からどれだけのタイム短縮となるのか、現時点では想像の域を出ない話。今までにないレギュレーション(ルール)変更は「F1らしさ」を追求したもの。それと同時に「メルセデス」の独走を3年間も許したライバルチームは逆転のビッグチャンス到来のシーズンとなる。ルックスも大きく変化し、各チームそれぞれの解釈による個性的なニューマシンの登場を心待ちにしようではないか。

(動画:Mercedesによる2017年のPUに関する予告編)

F1の新車発表は2月20日から順次行われ、2月27日からいよいよスペインのカタルーニャサーキット(バルセロナ)でウインターテストが始まる。新世代F1マシンはF1を人気復活へと導けるだろうか?

【F1新車発表】

2/20 ザウバー :新車発表ページ

2/21 ルノー

2/22 フォースインディア :新車発表ページ

2/23 メルセデス

2/24 マクラーレン :公式サイト

2/24 フェラーリ

2/26 トロロッソ

2/26 レッドブル 

未定 ハース

未定 ウィリアムズ

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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