「報奨金はお母さんの治療費に…」高飛び込み女子の金メダリスト、中国の14歳、全紅嬋の凄絶人生
ここ数日、中国で大きな注目を集めている東京五輪の金メダリストがいる。高飛び込み女子の全紅嬋(ぜん・こうせん)選手、14歳だ。
8月5日、高飛び込みの決勝で審査員全員が満点をつける完璧な演技を2度も成功させ、ぶっちぎりの高評価で、見事に金メダルを獲得した。
金メダル獲得後、彼女の実家がメディアで映し出されたり、彼女や父親がメディアのインタビューに答えたりしたところが報道されると、一躍「時の人」となった。
一体、彼女の何が、それほど注目を集めたのか。
貧農の家庭に生まれた
「お母さんが病気なので、お金を稼いで、治療費を捻出したいんです…」
メダル獲得後のインタビューで全選手がこう語ると、中国中の人々が驚き、感動し、突如として、彼女の生い立ちが全国区でクローズアップされるようになった。
同時に、彼女の実家前に数百人もの人が訪れて、実家周辺は一時、騒然となった。
中国メディアの報道によると、全選手は2007年、広東省湛江(たんこう)市の農村に生まれた。広東省の中でも最貧困の村だという。両親は農民で、父親は果樹や野菜を栽培している。
一人っ子が大半の中国だが、彼女は5人きょうだいの3番目として生まれた。母親や祖母は重い病気で、とくに母親は2017年に交通事故にも遭遇。そのため、働き手は父親と出稼ぎに行っている長男だけで、家はますます貧しくなった。
実家前には大勢の人だかり
全選手には幼い頃からとびぬけた身体能力があった。その抜群の能力を見出されて、7歳のときに親元を離れ、湛江市の体育専門学校に特別入学した(特待生なので学費や生活費は無料)。その後、めきめきと頭角を現わし、広東省の飛び込みチームに入った。
2020年には全国の選手の中からトップ数名に選ばれるまでに成長。当初、東京オリンピックには年齢制限により出場できないはずだったが、開催が1年遅れたため、幸運にも出場することができて、今回の快挙に結びついた。
凄絶な努力と、たぐいまれなる才能で金メダルを獲得することができた全選手だが、農村の貧困家庭出身という彼女の身の上が報道されるやいなや、前述のように報道が過熱した。
メディアだけでなく野次馬も彼女の実家に殺到。遠方からインフルエンサー(中国語で網紅(ワンホン)という)までやってきて、自宅の玄関前で、中国で流行りの実況生中継まで行うほどのフィーバーぶりとなり、家族は夜も眠れないほどの事態になった。
「娘の栄誉を消費したくない」
金メダリストである彼女には、他の金メダリストたちと同様、もちろん国家や地方政府、企業などから報奨金が(ときには住宅、自動車などの現物支給も)支払われることになっている。
金額は、他選手の報奨金の報道を見るかぎり、おそらく日本円で計1億円ほどになるだろうと見られるが、この騒動により、早くも地元の水産会社が、第1号として報奨金の贈呈を名乗り出た。
20万元(約340万円)の現金と花束が贈られたのだが、なんと父親はそれを辞退したのだ。
メディアの取材に対し、父親は「私は娘の栄誉を消費したくない。静かに暮らしたい」と話し、花束だけを受け取ったという。
この話が再びメディアで報道されると、SNSなどでは「今どき、こんなに奇特な人がいるのか。娘も立派なら、父親もとても立派な人だ」と持ち上げる人や、「本心からいっているのか。娘は母親の治療費や、家族の生活費を捻出するために、ここまでがんばったのに」といぶかる人も……。
このようにして、わずか14歳の全選手は、高飛び込みの快挙だけでなく、プライベートな面でも注目を集めることになった。
遊園地にも行ったことがない
今回の騒動により、全選手の過去のインタビューや動画なども繰り返し再生されているが、中でも、多くの人々が驚かされたのは、全選手がメダル獲得前に、記者からの質問に答えた、こんなエピソードだった。
「お金が……ないんです……。だから、休日になると、友だちは遊びに行くけど、私はどこにも行きません(7歳から寮生活を送っているが、週末や夏休みなどには帰省することができた)。ずっと家にいます。
私は遊園地に行ったことがないんです。動物園にも一度も行ったことがありません。お人形遊びも、ほとんどした記憶がありません……」
母親も以前、「娘は5角(7~8円)の辛いスナック菓子が好き。娘の将来の夢はお菓子を好きなだけ食べられるように、小さな売店を開くこと」だと語っていた。
SNSでは「子どもらしい普通の生活を送ることができなかったんだね……。大変だったけれど、よくがんばったね。金メダルを取って報われたね」という反響があった。
その一方で、政府に対しては「金メダルを量産するために、ここまでするのか(基礎教育を飛ばして、四六時中、こんなに幼い子に厳しい訓練だけをさせていいのか)」といった声もあがっており、14歳の金メダリストを巡り、今も賛否両論が巻き起こっている。
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