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就活相談9・平凡学生でアピールできることがない!

石渡嶺司大学ジャーナリスト

平凡学生で誇れるものが何もない……

質問:私には誇れるものがないです。すごい学生でも何でもない存在で就活が不安なんです……。

回答:村上春樹の小説『羊をめぐる冒険』で、主人公が「僕は失って困るものが殆どない」と話すシーンがあります。これを聞いたキレ者の政治家秘書が「誰にでも失いたくないもののひとつやふたつはあるんだ。(中略)我々はそういったものを探し出すことにかけてはプロなんだ」と返すシーンがあります。

あなたや他の学生がこの質問をするたびに、このシーンを思い出します。というのも「失って困るもの」「失いたくないもの」を「アピール材料」「学生時代に頑張ったこと」に置き換えると大体の学生に当てはまるからです。

私はこれまで学生1000人以上と接してきました。その多くは、

「私(僕)には、アピールできるものが何もなくて」

と話します。

そういわない学生も含めて、エントリーシートを読むとそのほとんどがマイナス2万点。私が採用担当者なら「まあ、落とすよな」というネタのオンパレードです。

で、私はそれを正直に学生に伝えたうえで(大体は、明日世界が終わります的な顔になります)、

「余計な修辞とかいいから、どういう学生時代だったか、とかさ。ふつうに話してみてよ」

と聞いてみます。

するとどうでしょうか?

なんと、学生のうち99.9%はアピールできるネタがありました。

よほど引きこもりに近い状態の学生であれば、「そりゃあ、ないよね」となりますが、ほとんどゼロ。

ここで調子に乗って、

「いや、俺も村上春樹の小説に出てもおかしくないくらいのキレ者だしさあ」

とか、話すあたりがTwitter炎上の所以です。

種明かしをすると、学生の話を10分、いや5分でも黙って聞くことができれば、私に限らず、大体の社会人は学生のいい部分を見つけ出すことができます。

大学キャリアセンター職員でも、採用担当者でも、カウンセラーでも、学生と接する社会人はほとんど同じ思いをしています。まあ、我が子や身内を謙遜から否定的に見てしまう親はちょっと難しいかもしれません。

なぜ、「大したことない」と思い込むほとんどの学生に、社会人がいい部分を見つけられるか、その理由は3つあります。

1点目は「学生の自己肯定感が極端に低い」。

内閣府の「平成25年度 我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」によると、

「私は、自分自身に満足している」

の問いに対して、日本は「そう思う」が45.8%(「どちらかといえばそう思う」を含む)。これは調査7か国中、最下位(次に低い韓国でも71.5%、最高はアメリカの86.0%)。日本の学生が自己肯定感をあまり持っていないことがこうした調査でも明らかになっています。

2点目は「すごい学生イコール就活有利説がそもそもウソ」。

すごい学生でないと内定が取りにくい企業は大企業のごく一部などに確かに存在します。

就活マニュアル本などを読むと、すごい学生ばかりが登場していて、多くの平凡学生はがっかりしてしまいます。

しかし、多くの企業は大企業を含めて、平凡な学生は平凡なりにちゃんと評価します。

3点目は「万人に好かれることなど不可能」。

すごい学生だろうが、平凡な学生だろうが、人当たりのいい学生だろうが、嫌いな人は間違いなくいます。もちろん、万人に好かれることが

理想ではありますが、その理想を追求しようとしても無理があります。

万人に好かれることを諦める、ということは、就活においてはどんな学生であっても、相当数の企業から落とされる可能性があることを覚悟する、ということです。

この落とされる、という点を覚悟しないまま、

「いや、多くの企業に選考で有利になる方法があるはず」

と、あれこれ考えても、就活では役に立ちません。

まして、社会人と話をしないまま、

「自分はどうせダメな学生だし」

と思い込んだままではうまく行くわけなどないわけで。

以上、3点の理由で学生は自分を否定したままになってしまいます。これがこじれてしまうと、早いうちに就活から離脱して、ニート・無職路線まっしぐら、ということになりかねません。

繰り返しますが、ほとんどの学生はいい部分がどこかはあります。そのためには、1社でも多くのセミナー・インターンシップに参加する、多少嫌なことを言われてもキャリアセンターに行ってみる、1社でも多くの選考に参加する…、このように就活に打ち込めば、次の展開が見えてきます。

理工系一筋だからアピールできない

質問:理工学部の大学3年生です。これまで勉強一筋でサークルとかアルバイトとか大してやっていないです。今からでも何かやった方がいいですか?

回答:勉強一筋、いいじゃないですか。理工系の学生に多いですね。勉強をずっとやってきたことも、十分アピール材料になります。

しかし、ほとんどの就活マニュアル本は著者も対象読者も文系学部出身。付言すれば、私が書いている就活ルポも、私を含めほとんどの著者が文系学部出身です。

就活マニュアル本に話を戻すと、著者の方は「文系だけでなく理工系にも当てはまる」と主張されるでしょう。まあ、客観的に言って、文系学部生のみしか対象にしていません(文系学部生だって参考になるかどうか怪しいと思いますがそれはさておき)。

こうしたマニュアル本を理工系学生が参考にしようとすると、サークルやアルバイトなど大してやっていない活動を無理にアピールしようとします。

大したことをやっていないのに無理にアピールしようとして自滅、というのが実によくあるパターン。理工系学生で実験・実習など勉強を中心とした学生生活を送ってきたのであれば、勉強をアピールした方が就職しやすいです。これは技術職採用だけでなく、学部・専攻とは無関係の業界・企業での総合職採用でも同じ。

地道に勉強してきたのであればそれでいいじゃないか、と考えて内定を出す企業はあります。

こういう話、これまで適当なお薦め本がなくて、困っていたのですが『理系のためのキャリアデザイン 戦略的就活術』(増沢隆太、丸善出版)という本が2014年に刊行されました。著者は東京工業大の特任教授(キャリア担当)。理工系学生のキャリア・就活を学部卒・総合職からオーバードクターまで様々なパターン別に解説している就活本です。マニュアル本ではないのですが、ルポでもない、という不思議な本で、お値段は2000円(税別)とやや高め。それでも、理工系学生が就活の不安を吹き飛ばす、という点ではお薦めできます。

暗い性格だけど大丈夫?

質問:僕は性格が暗くて、冗談もうまく言えません。就活がうまく行くかどうか、不安ですが、どうすればいいでしょうか?

回答:まあ、確かに暗いね(苦笑)。いや、冗談です。

ご質問は、就活をうまく進めるためには、ということかな?

それはあなたがあなた自身の誤解を解くことです。

誤解とは、「暗い性格イコール就活で不利」ということ。性格が暗い、冗談もうまく言えない、というのと、コミュニケーション力が低い、就活で不利になる、というのは全部重なるわけではありません。

暗い性格だったとしても、自分のことを相手に伝えようとする姿勢を見せれば、採用担当者は「ちょっと暗いけど、コミュニケーション力はふつうにあるからいいじゃないか」と考えますよ。

※『300円就活 準備編』(角川書店 電子書籍)より引用

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計33冊・66万部。 2024年7月に『夢も金もない高校生が知ると得する進路ガイド』を刊行予定。

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