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柳楽優弥が語った中学受験・家族・仕事・師匠との出会い

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
(写真:アフロ)

TBS金曜ドラマ「ライオンの隠れ家」に主演する柳楽優弥さん。自閉スペクトラム症の弟やライオンと名乗る男の子とのやり取りが温かく、リアルだと話題になっている。3年前、筆者は人気漫画「二月の勝者」のドラマ化でスーパー塾講師を演じた柳楽さんにインタビューした。講談社 FRaUWEBに公開した記事を再構成し、一児の父である柳楽さんの体験談や受験・家族・仕事についてのエピソードを紹介する。

スーパー塾講師が周囲を成長させる

 ドラマ「二月の勝者-絶対合格の教室-」が日本テレビ系にて2021年10月16日から放送された。業界最大手の中学受験塾から、業績不審の中堅塾に校長として迎えられるスーパー塾講師・黒木蔵人が主人公の同名漫画(高瀬志帆、小学館週刊ビッグコミックスピリッツ)が原作だ。

 ドラマでは、過熱する中学受験をテーマに、受験家庭の抱える問題・社会課題も描かれた。柳楽さんは中学受験に直面する11歳のときに、是枝裕和監督の『誰も知らない』で初めて演技の世界に入り、カンヌ国際映画祭の男優賞を受賞した。そして今では1児の父でもある。

 筆者は以前、中学受験の取材を担当した。その記事が、高瀬志帆さんのムック『中学受験をしようかなと思ったら読むマンガ』に掲載されたのをきっかけに『二月の勝者』を知り、愛読している。東京では4人に1人が経験する中学受験の厳しさに驚くと共に、キャラの立った登場人物と、社会問題に切り込みながらも子供たちへの愛情が感じられるストーリーに引き込まれた。

 ドラマで柳楽優弥さんが演じる、スーパー塾講師の黒木蔵人は、こんな過激な言葉を連発する。

「中学受験は課金ゲーム」

「親はスポンサー」

「塾はサービス業、子供の将来を売る場所」

「子供を合格に導くのは、父親の経済力と母親の狂気」

 新任講師の佐倉(井上真央さん)は、上司の黒木に圧倒される。一方で「全員を志望校に合格させる」とも言う黒木。柳楽さんは、この強烈なキャラクターをどのようにとらえているのだろうか。

 「ぼくが演じる黒木先生は、最強なのか、最悪なのか、強烈なセリフを連呼します。原作を読んで感じたのは、気持ちいいなというか、よく言ってくれました、ということです。

 佐倉先生も、そういう発言を聞いて成長していく……。人生攻略ドラマとも言われているように、黒木先生の発言によって、みんなの士気が上がっていくのは楽しいと思います」

その子に合った進路選びが大事

 柳楽さんは、原作を読み、黒木という人物に魅力を感じた。

 「ドラマの話があった時、単純におもしろそう、と思いました。優しいことだけを言える人は多いと思うのですが、人に嫌われるとかはおいておいて、黒木先生は、そのチームにとっていいことを伝えていくスタンス。そういう人って自分の周りにはあまりいないし、おもしろいですよね。

 ぼくも実際、小学生の娘がいるので、立場で言えば黒木先生が言う受験の『課金ゲーム』に加わる側です。子供に近い親側の視点で見ると、現実にこんな先生がいて、合格させますよって言われたら、相当、心強いと思います。ただ、黒木先生のように、人のことを真剣に考えるのは難しい。黒木先生は仕事だけど、子供のことをしっかり考えていて、かっこいいですよね」

 黒木を演じることを通して、中学受験の世界を体感している柳楽さん。「中学受験は小学生には過酷なのでは?」と投げかけると、柳楽さんの考え方がわかりやすかった。

 「中学受験は、十人十色、家族によっても全然スタイルが違うし、モチベーションも親のほうが強いか、子供のほうが強いか、パターンがあると思います。受験をするならばその子に合った学校選びが、とても大事だと感じます。

 『御三家』とか偏差値の高い学校を目指すのもありと思いますが、入ってからついて行けずに辛いと感じる子もいるんだと、原作を読んで知りました。親とか塾の先生とか、大人が、経験から子供のいろいろな方向性を見つけていくことが、大事なんだなって。塾って、勉強を教えているだけと思っていたんですけど、サービス業なんですね。アシストしたり、アドバイスしたり、いい方向に導いていく、とてもやりがいがある仕事だと感じました」

 柳楽さんは是枝裕和監督の映画『誰も知らない』(2004)で主人公に抜擢され、カンヌなどで数々の賞を受賞。子役として芸能の仕事を始めたのが、中学受験をする子供たちと同じ、11歳だった。

「ぼくが中学受験をしていたら? 全く違う人生になって、『日テレで働けていたのかな』とか考えます(笑)。黒木先生のような人に出会っていたら、受験していたと思いますね。子供の頃に、黒木先生に出会ったら、勉強を頑張ろうと思うでしょう。

 ぼくは芸能界でデビューできて、ラッキーでした。でも、芸能界は当然ながら仕事の保障があるわけではありません。とにかく安定材料がほしい、自分の引き出しを増やしていかなければと、子供ながらに必死で、同時に不安との付き合いが始まりました。

 大人になって、安定して働きたいって思うじゃないですか。そういう中で、塾に通って、いい大学に行くのも、一つの安定材料でしょうね」

子役と作り上げた世界

 今回のドラマは、500人以上の中から競争を勝ち抜いて選ばれた子役31人の活躍も、見どころだ。NHKの朝ドラ『なつぞら』で主人公の子供時代を演じた粟野咲莉さん、Jr.の羽村仁成さん、市川海老蔵さんの長女・市川ぼたんさんらが出演する。

 「出てくる子役たちは、みんなすごいですよ。この前、トップ校を目指す女子のシーンがあって。堂々としているし、緊張もあるでしょうけれどそれを見せずに、頼もしい。それで、一発オーケーを出す。『自分が子役の頃は、こんなにできなかった』と思わされて。

 言ってみれば、エリート集団の子たちで、この中から将来、大スターが生まれると思います。だからぼくも丁寧にワンシーン、ワンシーンを作っていきたいです」

 では、子役出身の柳楽さんは、先生役として子供たちとどう向き合っているのだろうか。

「感慨深いというか、『自分が先生役なんだ』と実感していますね。子供の目の前で、先生という役を演じるのは、初めてなので。

 ぼくもそれなりの年齢になって、こういう役柄も演じられるようになり、嬉しいです。この塾のいいムードを、子供たちと作れたらいいですね」

 プロデューサーからも、助言があったそうだ。

 「『子供たちと、そんなにコミュニケーションをとらないほうがいい』と指導されて、意識しています。子役たちと、全く何もしゃべらないわけではなく、塾の校長としての距離感の作り方は、ぼくの課題かなと思う。

 現場に付き添って来る、子役のお父さんお母さんが、この記事を見てくれたら、距離感をとっていても『ぼくは怒っているわけじゃない』と知ってほしいですね(笑)」

 役の上では、スーパー塾講師であり、校長でもある柳楽さん。生徒役の子たちとの距離感は難しいという。

 「仲良くなったら、子供たちに『友達じゃん』みたいに思われるのも違うと思うので、塾の校長としての雰囲気は作り上げたいと思うんです。

 これまでに、先生役を演じた俳優さんたちは、すごいなと思う。子供たちと距離感をちゃんと作っていたのでしょうし、先生として振る舞うって、薄っぺらいとダメなのかと。先生役をやれる人は、人間としても何かしら経験して、人に指導というか、アドバイスできる雰囲気のある人だと思います。

 特に黒木先生のストイックな感じとか、刺激的なセリフを言っていてもハマるような雰囲気とかを、さぐりながら、ぼくなりに作っていきたい。黒木先生だったらどう考えるんだろうと、丁寧に向き合っています」

耳の痛いことも…師匠との出会い

 中学受験は、費用がかかる、本当に子供のためなのかという疑問の声もある。でも柳楽さんは、受験を通しての出会いを、プラスにとらえている。

「初めは、『先生がこう言ってるし、やっておこう』ということも大事かなと思うんですよね。そして、11歳前後の子が、自分でしっかり考えて自立していく。

 『道場』と同じ雰囲気を、塾に感じるんです。ぼくも20歳の頃から、護身術の道場に通っていて、精神的な成長って、すごく大事だったりするんですけど……。

 ぼくにとって今、道場の師匠が、黒木先生みたいな存在です。子供自身の成長はもちろん大事だけど、つらい時に出会えた先生は、印象に残るんですよね。多感な時期だし、あの時、会えてよかったと。黒木先生みたいに、いろいろなことを教えてくれたら、お金を払いますよね(笑)」

 中学受験を控えた家庭からは、「『二月の勝者』は、私たちのモヤモヤを可視化してくれる」「心の支え」という声もあり、熱く支持されている。柳楽さんは、受験に限定しない、大人の成長物語でもあると語る。

 「大人も、いつでも成長します。佐倉先生とか、塾の先生も成長していく。人生攻略ドラマという言葉に尽きると思うんですが、みんなで攻略していくというか。子供だけでなく親も、大人も、全員が成長する物語なのが、好きなところです。

 どれが正解か迷う時、一本の柱になる黒木先生がいて、みんなで自立しながら、こういうことのがいいんじゃないかなっていうのを、それぞれに考えて決めていく過程が大切なのかなと思います。

 ものごとをプラスにとらえていく物語ですし、人生の攻略ドラマなので、大人として、働く人として、共感できるセリフもあると思うんです」

 確かに黒木は、子供たちや部下に、近寄らないけれど、見守っている。

「口を出さずに放って遠くで見守っておくのって難しいと、ぼくも感じます。信頼がないと、できないと思います。信じているから、放っておけるところもある。

 劇中に登場する親はお母さんというよりお父さんが、ちょっと変で(笑)。けれどリアル。お父さんもすごく頑張るんだけど、中にはゲームばかりしているお父さんもいる。そこに、黒木はするどく突っ込むんですね。

 黒木先生は、合格に導くだけではなく、みんなにスイッチを入れさせていく。スイッチの入れ方がわからなかった人に、これがスイッチと教えてくれる人。まさに、サービス業ですよ」

 さらに黒木は、「嫌われ役をかってでている」という柳楽さん。

「撮影の現場でも、嫌われ役がいないと成り立たないですよね。都合の悪いことを言うわけですよ。嫌われ役のスタッフが1人いないと、現場は進まない。かって出る人がいると、本当に助かると思います。黒木先生は、それを割り切ってしている人。仕事だしって。

 ぼくにとって、護身術の道場の師匠がそういう存在です。耳の痛い事を言ってくださる。くださる、ですよね。ぼくは自分に甘くなりがちで、怠け者の気もするし、しゃきっとする場所が必要だ、と感じて、先ほどお話したように、10年くらい前から道場通いを始めました。やり続けると、そういう人間関係も含めて楽しいんです」

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ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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