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センバツのお気に入り 第1日/奥川、衝撃の151キロと17三振

楊順行スポーツライター
「奥川君はプロの開幕試合で投げてもおかしくない」と履正社の岡田龍生監督(写真:岡沢克郎/アフロ)

 151km/h。

 ビジョンを一新した甲子園のスコアボード。従来より肉太になったスピード表示に、4万1000人のスタンドがどよめき、釘付けになった。今大会ナンバーワンとも言われる星稜(石川)・奥川恭伸が、初回にたたき出した自己最速の数字だ。

 履正社(大阪)の一番・桃谷惟吹に対して、148キロ、150キロ、149キロと続けた4球目だった。これはファウルされたが、続く129キロのスライダーで空振り三振。ここから、奥川の三振ショーが始まる。1回から5回まで、きれいに2個ずつの三振を奪って10個。6回は1個だったが、7回2個、2死一、二塁とピンチだった8回は3個で、9回にも1個。終わってみれば、毎回の17三振で3安打完封と、1回戦屈指の好カードで難敵・履正社に3対0の快勝だ。

勝ってお立ち台をイメージした奥川

 試合前に、「勝ってお立ち台に立っていることをイメージしています」と話していた奥川は試合終了後、バッテリーを組む山瀬慎之助とともに現実に勝利のお立ち台に立つと、こういった。

「初回は、球場の雰囲気を味方につけようとあえてスピードを意識しました。甲子園は何試合か経験させてもらっているので、それがしっかり生かせたと思います。ストレートと変化球をテンポよく織り交ぜました」

 それにしても、17三振である。昨秋の北信越大会で、松本第一(長野)に対して立ち上がりからの10者連続を含む13三振(5回コールド)というドクターKぶりを見せてはいたが、なにしろ相手は2014、17年とここ5年で2度のセンバツ準優勝がある履正社。申し訳ないが、北信越よりワンランクは上だ。それに対し、150キロ級のストレートとスライダー、フォーク、チェンジアップを絶妙に配しての投球に、敵将・岡田龍生監督も、

「どの変化球も、横から見ていていいところから落ちてきます。あれだけ制球よく放れるピッチャーとは、なかなか対戦したことがありません。ただ夏に向けて、奥川君を打てないと日本一になれないということははっきりしました」

 と舌を巻くしかない。対戦前、「プロ野球の開幕戦で投げてもいいほどの力がある」と奥川を評したのも、まんざら社交辞令でもなかったようだ。

 ただ実は大会直前まで、奥川の状態はあまりよくなかったという。星稜・林和成監督によると、

「(16日の)近江(滋賀)との練習試合まではピリッとしなかったんです。ただフォームの修正点などを話して、"そうですね"と本人も納得し、それを近江戦で試したら7回を無失点。そこからはフォークのキレもよくなり、どのボールでもストライクが取れる。今日は自信を持って先発に送り出しました。ただ、相手は強力打線ですから、配球だけはみっちり研究しましたよ。その結果、まっすぐの使い方さえ間違えなければいける、と」

 8回は2死一、二塁、9回は一死一、三塁とさすがに終盤にピンチが続いた。ことに9回はプロ注目の四番・井上広大の打席。「井上君に打たれると乗ってくる」と警戒する相手で、もし一発放り込まれれば一気に同点の場面だ。だがそこも、2ストライクと追い込んで1球外してから、スライダーで併殺に仕留めてゲームセット。

肚をくくって腕を振れた

「いままでピンチになると、変化球で思い切って腕が振れないことがありました。そこで肚をくくって腕を振って投げられたので、入学以来けっこう上位に入る投球ができたと思います」

 と奥川は自賛する。小学校からずっと女房役で、初回の先制打など3安打で奥川を援助した山瀬主将も、「変化球がよかった。まっすぐも数字以上の切れがありました」。難敵を完封した奥川は、これで昨秋の北信越大会から連続57回3分の1を自責点0。悲願の大旗獲りに向け、優勝候補がまずはハードルをひとつクリアした。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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