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ソマリア海賊が壊滅、昨年の発生件数ついにゼロ 今こそ日本のマグロ漁支援が必要だ

木村正人在英国際ジャーナリスト
NATO軍に拿捕されるソマリア海賊(2009年)(写真:ロイター/アフロ)

アフリカ・ソマリア沖やアデン湾に出没し、2011年には237件も発生したソマリア海賊が昨年、ついにゼロになりました。国際商業会議所(ICC)国際海事局(IMB)海賊情報センターが2日、2015年の海賊発生状況を発表しました。

出典:IMBのデータをもとに筆者作成
出典:IMBのデータをもとに筆者作成

英シンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス)の報告書(12年当時)によると、ソマリア海賊が10年に稼いだ身代金は計2億5千万ドル。海賊の拠点になっていた北東部の自治政府「プントランド」などでは住宅開発が進められていました。

11年2月、インド洋でソマリア海賊に乗っ取られたイタリア船籍の石油タンカーは10カ月後に解放されましたが、乗組員22人の身代金は1150万ドルだったと言われています。海賊1件当たりの身代金は08年当時の69万~300万ドルから10年には最大900万ドルに急騰します。

プントランド自治政府の年間予算(12年当時)は1760万ドルで、海賊は「主要産業」になっていました。プントランドの中心都市ガロエでは住宅が倍増し、大きなビルが建設され、交通量が増えました。出撃拠点のエイル港でも新しいビルや住宅が建てられ、自家用車の数が増えていたことが当時、確認されています。

ソマリア海賊が壊滅したのは「海上警備が強化され、海賊のビシネスモデルが崩壊したからだ」と、海賊問題や国際テロに詳しい竹田いさみ獨協大学教授は筆者の取材に語っています。欧州連合(EU)は海賊対策のためソマリア沖周辺で初の海軍作戦「アトランタ」を発動し、08年には常時10隻の艦船を派遣しました。

欧州債務危機が深刻化してからは北大西洋条約機構(NATO)や日本などと協力して全体で25隻の艦船を確保して、海上警備にあたってきました。日本の自衛隊も参加した米海軍主導の第151合同任務部隊(CTF151)、NATOの「オペレーション・オーシャン・シールド」など様々な海賊対策が展開されました。

ロシア、中国、インドなども独自に参加しました。ソマリア沖・アデン湾は、日本関係船舶が年に約1600隻も行き交う重要な海上交通路です。自衛隊は護衛艦2隻を派遣するとともに、哨戒機P-3Cを2機ジブチに派遣して海賊の監視に当ってきました。

ソマリア海賊が壊滅したのはこうした国際社会の協力が実ったからです。しかし、海賊対策費は身代金被害総額の50倍近くに達しており、海賊に代わる地域産業の育成など抜本的な対策の見直しが必要になってきています。

最近、Yahoo!JAPANニュース個人でdragonerさんの「すしざんまい社長はソマリア沖の海賊を壊滅させたのか?」というエントリーが大きな話題を呼びました。筆者もすぐに「すしざんまい」を営む株式会社喜代村の木村清社長に取材を申し込みましたが、今のところ実現していません。木村社長はソマリアへの漁業支援について他のインタビューで次のように説明されています。

「わたしはソマリアの新政府に、民間による漁業支援を申し出ました。隣のジブチ共和国とも漁業分野の合意書を交わし、日本にマグロを安定的に供給するルートを確保するとともに、ソマリアの若者の雇用を増やし、海賊を減らすことにも協力できるのではないかと思ってやっています」(WEDGE 2014年4月号)

「うちの船を4隻もっていった。漁の技術も教えましょう。冷凍倉庫も使えるようにする。ソマリア政府にはたらきかけてIOTC(インド洋まぐろ類委員会)にも加盟する。獲ったマグロをうちが買えば、販売ルートも確保できる。こうやって一緒になってマグロ漁で生活ができるようにしていったんです」(ハーバー・ビジネス・オンライン16年1月16日)

国際海事局(IMB)のサイラス・モディ副部長に問い合わせたところ、「木村社長がソマリアの漁業支援に参画しているかどうかは私たちでは把握していません。漁業支援のイニシアチブはかなり古く、木村社長が参画しているのなら、とても素晴らしいことです。ソマリアの人たちは彼らの生活を維持するために漁をして、輸出できるようになることが必要です」と話しています。

ソマリア西部のソマリランドで「フェア・フィッシング(公正な漁業)」に取り組むユスフ・アブディラヒ・ギュレッドさんにも国際電話をかけ、取材してみました。「ソマリランドで木村社長の名前は聞いたことがありませんが、国際社会の海上警備でソマリア海賊がいなくなり、漁業に従事する人が増えてきたのは確かです」という答えでした。

前出の竹田教授も「木村社長のしていることは良いことです」と言います。ソマリア海賊がいなくなり、漁業が復活したことで外国漁船による乱獲、違法操業が今、大きな問題になり始めています。ソマリアの漁法はとても近代的とは言えず、非常に遅れています。英紙ガーディアの報道によると、イエメンやイラン、韓国などの近代漁船がソマリアの豊かな漁場を荒らしているそうです。

出典・セキュア・フィッシャリーズの報告書より抜粋
出典・セキュア・フィッシャリーズの報告書より抜粋

ソマリアでは国連食糧農業機関(FAO)の主導で漁民の登録制が導入されています。乱獲や違法操業を取り締まるためです。しかし、持続可能な漁業の普及に努める団体「セキュア・フィッシャリーズ」によると、近代漁船を用いた外国漁船による違法操業の漁獲量はソマリア漁船の3倍にのぼるそうです。1981年以降、外国漁船による違法操業の漁獲量は20倍に増えています。

同

ソマリア沖は「すしざんまい」の木村社長が言うようにマグロの好漁場です。今のところ持続可能な状況です。ソマリアの漁場が荒らされ、収入源を失った若者たちが海賊に逆戻りしては元も子もありません。ソマリアへの漁業支援も海賊対策と同様に国際社会の協力が求められています。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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