相次ぐラグジュアリーデザイナー交代 ざっくり流れを押さえておこう
何十年も続く、歴史のあるファッションブランドではデザイナー交代が何度かあるものです。近年は世界的な人気ラグジュアリーブランドでデザイナー交代が相次いでいます。全体に入れ替わりのペースが上がったのは、最近の傾向。ベテランから新鋭に替わって、テイストが様変わりすることも。新デザイナーのデビューコレクションが出そろうこの機会に、割と近年に就任した、トップブランドのデザイナーをまとめてみました(過去デザイナーは省き、直近デザイナーだけに絞って記しています)。
◆シャネル
偉大なカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)が死去したことに伴い、「シャネル(CHANEL)」は2019年2月、ヴィルジニー・ヴィアール(Virginie Viard)を後継のクリエイティブ・ディレクターに任命しました。創業者以来の女性デザイナーです。彼女は30年以上もカールの右腕的な存在だっただけに、デビュー後もカール路線とブランドアーカイブを継承しつつ、テイストの若返りにも取り組んでいます。
◆ディオール
「DIOR(ディオール)」メンズの「ディオール オム(Dior Homme)」は、元「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のキム・ジョーンズ(Kim Jones)を2018年に迎えました。シーズンを重ねるごとに評価は高まるばかり。ウィメンズも16年から元「ヴァレンティノ(VALENTINO)」のマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)がアーティスティック・ディレクターを務め、フェミニズム志向を打ち出して、支持を広げてきました。
キウリとコンビを組んでいたピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)はその後も「ヴァレンティノ」を任されています。「フェンディ(FENDI)」は2020年、ウィメンズのアーティスティック・ディレクターにジョーンズを任命。「ディオール オム」との兼任になりました。「フェンディ」はラガーフェルドが長くデザイナーを務めたブランドです。
◆サンローラン
その前にカリスマからの交代劇が起きたのは2016年の「サンローラン(SAINT LAURENT)」。退任したエディ・スリマン(Hedi Slimane)に代わって、アンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vaccarello)が起用されました。去ったスリマンはその後、「セリーヌ(CELINE)」に迎えられ、老舗ブランドに新風を吹き込ませています。
◆ルイ・ヴィトン
ファッション業界でのキャリアにとらわれない大胆な人選で成功を収めたのは「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」です。2021年に急逝したヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)の後任として2023年、ミュージシャンのファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)をメンズ・クリエイティブ・ディレクターに抜擢。デビューコレクションから絶讃を浴びました。一方、ウィメンズは13年からニコラ・ジェスキエール(Nicolas Ghesquiere)がアーティスティック・ディレクターを長期にわたって任されています。
◆グッチ
ブランドイメージを書き換えた人気デザイナーの後任を任されるケースもあります。「グッチ(GUCCI)」では一大ブームを巻き起こしたアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)が退任。2023年に元「ヴァレンティノ(VALENTINO)」のサバト・デ・サルノ(Sabato De Sarno)がクリエイティブ・ディレクターを受け継ぎました。ミケーレはそれまでの路線をがらりと変えた変革者でしたが、後任もミケーレ時代とは別の路線を打ち出しつつあるようです。
◆バーバリー
「バーバリー(BURBERRY)」も実力者からのバトンタッチとなりました。リカルド・ティッシ(Riccardo Tisci)が2022年に退任。2018年からクリエーションを担ってきたティッシの後任として就任したのはダニエル・リー(Daniel Lee)。「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」や「セリーヌ(CELINE)」で実績を持つリーが後を託されました。
◆プラダ
珍しい事例と言えそうなのは、「プラダ(PRADA)」のパターンです。もともとミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)が率いていましたが、2020年にラフ・シモンズ(Raf Simons)が共同クリエイティブ・ディレクターに迎えられました。ラフは「ジル サンダー(JIL SANDER)」や「ディオール(DIOR)」で人気を博してきただけに、男女の実力派同士のデュオが話題に。結果的には成功で、ミウッチャの判断の確かさを証明する形となりました。
◆アレキサンダー・マックイーン
直近で交代が起きたブランドには「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER MCQUEEN)」があります。創業デザイナーの悲劇的な死後、右腕的存在だったサラ・バートン(Sarah Burton)が長くブランドを支えてきました。英国王室のキャサリン皇太子妃のウエディングドレスを手がけたことでも有名です。サラの退任が決まり、後任のショーン・マクギアー(Sean McGirr)が2024-25年秋冬コレクションでデビューします。「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」や「バーバリー」で経験を積んで「JW ANDERSON(JWアンダーソン)」ではレディ・トゥ・ウェアのヘッドデザイナーを務めました。
◆モスキーノ
不幸な出来事から、交代に至ることもあります。「モスキーノ(MOSCHINO)」では就任からわずか9日でクリエイティブ・ディレクターのダヴィデ・レンネ(Davide Renne)が死去。ヒットを重ねたジェレミー・スコット(Jeremy Scott)の後を受け継いだばかりでした。後任のアードリアン・アピオラッザ(Adrian Appiolaza)は「クロエ(Chloe)」や「ルイ・ヴィトン」「ロエベ(LOEWE)」などで経験を重ねてきました。こちらも24-25年秋冬コレクションでのデビューを飾りました。
目まぐるしさを増してきたデザイナー交代劇ですが、先に挙げた「ルイ・ヴィトン」でのジェスキエールのように、10年以上にわたって実力を発揮しているデザイナーもいます。たとえば、自分のブランドを持ちつつ、ビッグブランドのクリエーションを引き受けているジョナサン・ウィリアム・アンダーソン(Jonathan William Anderson)もその一人でしょう。「ロエベ(LOEWE)」のクリエイティブ・ディレクターを13年から務めながら、自らの名前を冠したブランド「JWアンダーソン」も続けています。10年以上にわたって「ロエベ」の価値を高め続けてきた立役者。アート&クラフト色を強める「ロエベ」を引っ張る、世界のモードリーダーです。
新天地でデザイナー人生が上向いた例としては「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」のジョン・ガリアーノ(JOHN GALLIANO)が好例でしょう。2014年からクリエイティブ・ディレクター務め、契約更新を重ねています。不適切な言動で「クリスチャン ディオール(Christian Dior)」のクリエイティブ・ディレクターを解任されましたが、「メゾン マルジェラ」で再び本来の才能を発揮。ビジネスとクリエーションの両面で成功を収めています。
◆ブランドが目指す方向性を知って、自分好みを探すきっかけに
2000年以前に比べて、単独のブランドで10年以上も務めるようなデザイナーは少なくなったかもしれません。近年は5年以内での退任も珍しくなくなりました。今回は取り上げていないブランドでも過去数シーズンの間にたくさんのデザイナー交代が起きています。ブランド側は新たな才能を呼び込むことによって、時代や顧客への対応力を高め、Z世代への訴求も強めているようです。
今後はキャリアや感性がこれまでのデザイナーとは異なる「異才」が起用されるケースも増えていくとみられます。デザイナー起用にはブランド側の戦略が映し出されるので、それぞれのデザイナーの強みや経歴を知っておくと、各ブランドが目指す方向性を知る手がかりになり、ショッピングの選択肢を広げるのにも役立ちそうです。
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