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チック症とアレルギー疾患の意外な関係 - 最新の研究から見えてきたこと

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

【チック症とアレルギー疾患の関連性 - 最新の研究が示唆すること】

チック症とアレルギー疾患の関連性について、最新の研究結果をもとに解説したいと思います。

チック症は、突発的で反復的な運動を特徴とする神経精神疾患です。近年、世界的にチック症の発症率が上昇傾向にあり、子供たちの日常生活に大きな影響を与えています。一方、アレルギー疾患も近年増加傾向にあり、両者の関連性が注目されています。

最近発表されたメタアナリシス(複数の研究結果を統合して解析する手法)では、喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、湿疹、食物アレルギーとチック症との間に有意な相関関係があることが示されました。特に、湿疹ではオッズ比(ある事象の起こりやすさを示す指標)が3.87、アレルギー性結膜炎では3.65、食物アレルギーでは2.79と、強い関連性が認められました。

【チック症とアレルギーの関連性を示唆する免疫学的メカニズム】

では、なぜチック症とアレルギーに関連性があるのでしょうか?その手がかりとなるのが、免疫システムの働きです。

チック症患者では、インターロイキン-12やTNF-αなどの炎症性サイトカインの濃度が上昇していることが報告されています。同様の所見は、アレルギー性鼻炎やアレルギー性結膜炎、喘息でも認められており、これらの疾患で重要な役割を果たしていると考えられています。また、チック症とアレルギー疾患のいずれにおいても、T細胞の異常が病態に関与している可能性が示唆されています。

さらに興味深いことに、サイトメガロウイルスや肺炎マイコプラズマ、連鎖球菌などの感染症は、チック症の発症や悪化だけでなく、喘息発作の引き金にもなることが知られています。これは、感染症による免疫機能の破綻が、チック症とアレルギーの両方に影響を及ぼしている可能性を示唆しています。

【チック症患者における皮膚症状の重要性】

チック症患者では、湿疹や蕁麻疹などの皮膚症状を合併することが少なくありません。実際、今回のメタアナリシスでも、湿疹とチック症の関連性が示されました(オッズ比3.87)。

皮膚は免疫システムにおいて重要な役割を果たしており、皮膚症状はアレルギー反応の表れであると同時に、免疫機能の乱れを反映している可能性があります。チック症患者における皮膚症状の評価は、病態の理解や治療方針の決定に役立つかもしれません。

【チック症の予防と治療におけるアレルギー管理の重要性】

以上の知見から、チック症の予防と治療において、アレルギー疾患の適切な管理が重要であると考えられます。アレルギー症状をコントロールすることで、チック症状の改善が期待できるかもしれません。

ただし、チック症の原因が アレルギー そのものであるかどうかは、今後のさらなる研究が必要です。現時点では、両者に共通する免疫学的な異常が存在する可能性が示唆されているに過ぎません。

日本でも、チック症とアレルギーの関連性に関する研究が進められています。今後、日本人を対象とした大規模な疫学研究や、基礎研究の進展によって、より明確な関連性が明らかになることが期待されます。

参考文献:

1. Chang Y, Zhang Y, Bai Y, Lin R, Qi Y, Li M. The correlation between tic disorders and allergic conditions in children: A systematic review and meta-analysis of observational studies. Front Pediatr. 2023;11:1064001. doi:10.3389/fped.2023.1064001

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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