2014年のロック・ミュージックを振り返る&2015年の展望
この記事を書いているのは2015年2月であり、何を今さら“2014年のロック・ミュージックを振り返る”だよとお叱りを受けそうな気もする。だが、2015年だからこそ2014年の全体像が見えてくる!…ということで、ご容赦いただきたい。
●“音楽不況”に負けないヒット作の数々
とりあえず2014年の洋楽ポピュラー・ミュージックに話題を絞っていくと、世界的に映画『アナと雪の女王』サウンドトラックが売れまくった年だった。米ビルボード誌の年間チャートでは1位、米アマゾンのセールスは3位。日本のオリコン年間チャートでも総合2位(1位がAKB48『次の足跡』なので、洋楽では 1位)、アマゾンでは1位と、独走状態だったといえる。雪の女王エルサを演じたイディナ・メンゼルが歌う「レット・イット・ゴー」は2014年を代表するヒット曲となり、彼女は『紅白歌合戦』出演、スーパーボウル国歌斉唱などの大舞台を経て、2015年4月には日本武道館2回公演を含む初来日ツアーが決定している。
さらにテイラー・スウィフトの『1989』やサム・スミスの『イン・ザ・ロンリー・アワー』などがヒット。さらにピンク・フロイドのラスト・アルバム『永遠(TOWA)』やフー・ファイターズの『ソニック・ハイウェイズ』、コールドプレイの『ゴースト・ストーリーズ』も好調なセールスを記録している。
CDのセールスが下降、ショップの閉店が相次ぐなど“音楽不況”が叫ばれる昨今だが、ヒット作はコンスタントに生まれているのだ。
また、アナログ盤レコードの復活も2014年の音楽シーンのキーワードだった。欧米を中心にアナログ盤のセールスが上昇、ワールドワイドの数字はまだ出ていないものの、アメリカで920万枚(2013年には610万枚)、イギリスで130万枚(2013年には78万枚)と順調だ。音楽市場全体で占める割合はまだ決して大きくないものの、ジャック・ホワイトの『ラザレット』アナログ盤がアメリカだけで8万6千枚、全世界で15万枚と、同アルバム(CD/ダウンロード/アナログ盤)の全体の3分の1を占めるなど、2015年は“アナログ盤で聴かれること”を意識した作品が増えそうだ。
●“古くて新しい”豊作の2014年の音楽シーン
2014年は数々の優れたアルバムがリリースされた、豊作の年でもあった。
世界の各雑誌・ウェブサイトの年間ベストの多くでトップの座を争ったセイント・ヴィンセントの『セイント・ヴィンセント』、ザ・ウォー・オン・ドラッグスの『ロスト・イン・ザ・ドリーム』、FKAツイッグスの『LP1』などはいずれも普遍的なポップ・ミュージックを立脚点にしながら2014年的フレイヴァーを加味したアルバムだった。フライング・ロータスの『You’re Dead!』は同様にトラディショナル・ジャズを踏まえながら新時代に即したアプローチをとるなど、“古くて新しい”サウンドが支持を得た年だった。
またエイフェックス・ツインの『Syro』、アルカの『Xen』という新旧エレクトロニック・アーティストの新作も、2014年を代表するアルバムとして高く評価された。
U2の『ソングズ・オブ・イノセンス』はユーザーのiTunesライブラリに自動的に追加されたことで賛否を呼び、急遽アップル社が削除する方法を発表する事態になったが、作品そのものは米ローリング・ストーン誌の年間ベスト1位に選出されるなど、高評価を得ている。
また、英MOJO誌はベックの『モーニング・フェイズ』を1位に選出。決して派手ではないがじっくり何度も聴ける作風が音楽ファンのハートに訴えるものがあった。
ハード・ロック/ヘヴィ・メタルの世界ではスリップノットの『.5:ザ・グレイ・チャプター』が世界的にヒット、日本でもオリコンのウィークリー・チャート1位を奪取、自らがヘッドライナーを務めるフェスティバル『ノットフェス』も成功を収めるなど、凄まじい勢いを見せつけた。
その一方でヨブの『Clearing The Path To Ascend』やポールベアラーの『ファウンデイションズ・オブ・バーデン』が前作に引き続いて絶賛されるなど、新世代の台頭が目ざましい年だった。
なお2月8日(現地時間)、グラミー賞の授賞式が行われたが、“ベスト・アルバム”部門で『モーニング・フェイズ』、“ベスト・ロック”部門で『ラザレット』、“ベスト・オルタナティヴ”部門で『セイント・ヴィンセント』、“ベスト・ダンス/エレクトロニック”部門で『Syro』が受賞している。
●2015年の注目アルバム
2015年には1月の時点でボブ・ディランの『シャドウズ・イン・ザ・ナイト』やマリリン・マンソンの『ザ・ペイル・エンペラー』、ビョークの『ヴァルニキュラ』などの注目タイトルがリリースされているが、これからも要チェックのアルバムが続く。
とりあえずビッグネームの新作ではブラック・サバス、トゥール、ミューズ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、フェイス・ノー・モアなどに期待が出来そうだ。
さらに希望的観測だが、もしかしたら年内にレディオヘッドとメタリカの新譜も聴けるかも知れない。
噂に上っているガンズ&ローゼズのニュー・アルバムは…あまり期待せずに待っていよう。
その他にも2月にはトーチの『リラプス』移籍第1弾となる『リスターター』、3月にはスワーヴドライヴァーの17年ぶりとなる新作『アイ・ワズント・ボーン・トゥ・ルーズ・ユー』などが控えている。多作なメルヴィンズは複数のアルバムを出してくれるだろうし、2015年も音楽ファンにとっては、充実した1年になりそうである。
最後に、筆者の年間ベスト10を挙げておきたい。
<山崎智之 2014年パーソナル・ベスト・アルバム10>
1. モンスター・マグネット『Milking The Stars: A Re-Imagining Of Last Patrol』
ただでさえ年間ベスト級だった傑作ハード・ロック・アルバム『Last Patrol』をさらにヘヴィでスワンプでサイケでアシッドにリ・イマジンしたら大変なことになってしまった。
2. Thou(ザウ)『Heathen』
スラッジ・ドゥームがアートの領域に突入した芸術作品。2015年以降のメタルの世界標準のひとつとなる記念碑。
3. マストドン『ワンス・モア・ラウンド・ザ・サン』
先進性や実験性を犠牲にすることなく聴きやすくなっていく、21世紀メタルを代表するバンドの到達点。
4. ポール・ロジャース『ザ・ロイアル・セッションズ』
メンフィスの名門ロイヤル・スタジオでソウルの名曲の数々を熱唱。黒人より黒いのに随所で英国風味が漂うのも美味。
5. ロバート・プラント『ララバイ・アンド…ザ・シースレス・ロアー』
レッド・ツェッペリン、ブルース、英国フォーク、米国ルーツ、アフリカ、中近東、ループなど多様な要素を結びつける唯一無比のヴォーカル。
6. エレクトリック・ウィザード『Time To Die』
ドロドロ度が戻り気味の邪気あふれるドゥーム・メタル。
7. ゴート『Commune』
スウェーデンの怪しいトライバル・サイケ・グループ。2作目ということで前作の衝撃は薄れたものの、エレクトロニックな要素も取り入れて怪しさ全開。
8. ゲイリー・クラーク・ジュニア『Live』
スタジオ作とショーケース来日ライヴでは行儀良すぎか?と思わせたが、本作では極濃ギター・プレイの連続。
9. マニック・ストリート・プリーチャーズ『フューチャロロジー<未来派宣言>』
ヨーロッパ共同体の一部としてのイギリス人のアイデンティティと、20世紀的フューチャリズムを取り入れた、近年の彼らでは最大の冒険作。
10. デス・フロム・アバヴ1979『フィジカル・ワールド』
再結成アルバム。ベース&ドラムスのデュオによる極太重低音のグルーヴと躍動感。