yama、キンプリへ楽曲提供 表現者・TOOBOE、そのメロディメーカー、シンガーとしての眩しい才能
今、最も注目集めるネット発のアーティストの一人として、TOOBOE(トオボエ)が話題だ。音楽クリエイター johnのソロプロジェクトとしてスタートしたTOOBOEは、現在若い世代から圧倒的な支持を集めるyamaのメジャーデビュー曲「真っ白」や「麻痺」、最新曲「桃源郷」、そしてKing&Princeを始め、様々なアーティストに楽曲提供をするなどソングライタ―として活躍しているが、今年4月、シンガー・ソングライタ―として「心臓」でメジャーデビューをした。
同曲のYouTube再生回数は680万回を超え(8月24日現在)を越え、8月24日には3rdシングル「敗北」をリリース。編曲からイラスト、映像まで手がけるマルチクリエイターとして、ネットシーンとJ-POPシーンを横断的に行き来する注目の表現者にインタビューした。
ネットシーンではボカロP・johnとして、YouTube上で1000万回再生を超えている「春風」など数々のヒットを飛ばしているTOOBOE。なぜメジャーデビューへと舵を切ったのだろうか。ボカロP時代から、いつかは自分で歌おうという思いが強かったのだろうか。
「ボカロPを始めた当初は、自分で歌おうなんて、全然考えていませんでした。でも僕のボカロPとしてのルーツ的な存在の人たちが、J-POPシーンで活躍していることに憧れがありました。そんな中で、初めての楽曲提供がyamaさんで、その仮歌をボカロではなく僕の声で録って、yamaさんの担当ディレクターに送ったら『声の聴こえがいい』って言ってくれて。「歌ってみない?」と誘っていただいたのがきっかけです」。
「ボカロも続けるし、メジャーデビューは他の表現手段をひとつ増やした、という感覚です」
「きっかけ」は突然訪れた。米津玄師やYOASOBI・Ayaseを始め、ネットシーンからJ-POPシーンにフィールドを移し、時代を代表するようなヒットソングを作り、歌うアーティストに憧れていたが、それまでその声を褒められたことがなかったという。しかしその声の良さに「気づかされ」、歌ってみようと決めた。メジャーという舞台をどう捉えて動き出したのだろうか。
「ボカロから完全に移行というわけではなく、ボカロも続けるし、他の表現手段をひとつ増やした、という感覚です。でもメジャーでやるならランキングの1位を獲るとか、武道館でライヴをやるとか、大きい目標を設定して、ざっくりとですがやるべきことを逆算して考えながらやっています。でもそれに引っ張られすぎて、例えばTikTok受けがいい曲を作るとか、そういうことは考えないようにして、なるべく頭を空っぽにして創作して、できたものを一人でも多くの人に届けるには?ということをスタッフみんなと考えています」
そのキャッチ―で癖になるメロディと、主人公の心模様をきちんと届ける、繊細な表現の歌詞が評価され、yamaを始め、数々のアーティストに楽曲提供をしているTOOBOE。ソングライターとしての流儀を教えてもらった。
「歌う人のパーソナルな部分があって、声質があって、その人が歌うから説得力が出る歌詞にしたい」
「歌う人のパーソナルな部分があって、声質があって、その人が歌うから説得力が出る歌詞にしたい。なので打合せの時に、相手のかたから出てきた単語はメモをして、歌詞に入れ込んだりします。例えばyamaさんには『真っ白』とか『麻痺』とか、最近は『桃源郷』という曲を書かせていただきましたが、その時々でyamaさんが置かれている境遇が違って、『麻痺』は、テレビアニメのタイアップ(『2.43 清陰高校男子バレー部』OP曲)ということと、yamaさんが『今度初めてライヴをやる』というのを聞いて、そういうのをリンクさせて、本番のステージに出る緊張感みたいなのを、今yamaさんが歌って表現できたら絶対いいはず、と思って作りました」。
「演者としてはもちろんもっと自信を持ちたい、でも精神性としては、勝者寄りの考えは僕は元々あまりできない」
yamaの楽曲では、声の低いところから高いところまでを全部を駆使して、“人間”の体温を感じる歌詞を伝え、彼の魅力を100%引き出している。プロデューサー的な作り方だ。提供曲と自身が歌う曲、そのどちらにも共通しているのは人間の「陰」に部分にスポットを当て、負の感情を描いていることだ。「弱者」の側に立った視線の歌詞だ。だからTOOBOEの音楽は「救い」となり、若い世代を始め、世代を問わず聴き手を熱狂させる。
「『TOOBOE』というのは、負け犬の遠吠え、というのがコンセプトとしてあって、比較的、弱者寄りの目線で曲を書いています。僕自身が一生、調子に乗れない性格で、『もっと自信を持て』とよく怒られるタイプで。演者としてはもちろんもっと自信を持ちたい、でも精神性としては、勝者寄りの考えは僕は元々あまりできないので、こういう曲を書いている時は、自分の脳みそをそのまま出せているので、全然辛くないんです。このご時世、『自分はどちらかというとついてない側だ」って思っている人の方が多いと思います。そういう人たちに『頑張ろうぜ』とは言わないです。言えないし『いや、俺もつらいけど、まあ、一緒にやっていこうよ』という感じで届いて、受け取ってもらえたら嬉しいです』。
TOOBOEの中毒性のあるメロディの源とは?
TOOBOEが作るメロディに、大きな影響を与えたフェイバリットアーティストとして、スガシカオと斉藤和義の名前を挙げてくれた。さらに桑田佳祐、奥田民生など、誰からも愛される曲を持つアーティストが彼の原点にある。さらに日本のポップシーンの重要人物の名前を挙げてくれたが、TOOBOEが中毒性のあるメロディを書く、注目のメロディメーカーたる所以がわかる。
「90年代のヒット曲のコンピ盤を借りて繰り返し聴いていました。筒美京平さんが書くメロディ、松本隆さんの歌詞はもちろん体の中に入っていますが、一番影響を受けたのは、編曲家の船山基紀さんです。昔の曲を聴いて『あ、いいな』て思って調べると、大体編曲は船山さんで、作詞阿久悠さんで、この二人にはすごく影響を受けています。特に船山さんが作るイントロがすごくよくて、特に『勝手にしやがれ』(沢田研二)のイントロはめちゃくちゃ好きです。今はTikTokの台頭とかで、歌始まりじゃないと聴いてもらえないという感じになってしまっているけど、『勝手にしやがれ』ぐらい強いイントロを作れたら、そういうことじゃなくなるんだろうなって思えるぐらい、威力があると思います。キンプリの『シンデレラガール』も船山さんのアレンジで、今でもあんなにキラキラしたポップスを作ることができるなんて、キャリア関係なく勉強し続けていると思いますし、尊敬しています」。
職業作家が曲を作り、圧倒的な世界観を持った“歌い手”が作りあげる、“強度”が高い当時の楽曲に憧れるという。強度が高いからこそ、昭和、平成、そして令和の時代になっても聴き手の耳にひっかかる。「それを自分ひとりでやるのは無理ですが、なるべくやりたい」と自身のテーマを教えてくれた。
8月24日に発売した「敗北」は1st「心臓」、2nd「oxygen」とは全く違う音楽性を感じさせてくれるが、疾走感と歌謡曲的エッセンスが薫る、中毒性があるという部分は共通している。サビ頭から始まって、最後まで“持って行かれる”。そして約3分という短い曲だ。熱量が高くドラマティックさが凝縮されている。
「『敗北』は歌詞の威力が強かったので、サビ頭にしました。僕の曲は変わった構成ではなくA、B、サビ、2番のA、B、サビぐらいで、『敗北』はもっと短いです。一曲が短いのは偶然で、作ってるときのフィーリングです。そもそも今の曲は、テンポがどんどん速くなっているので、多分普通の構成にしても3分に収まると思います。僕の曲って、テンポを落とすと実はメロディがめっちゃ演歌だと思います。それがたまたまテンポが速くなって3分ぐらいになった、というだけだと思うんです。だから熱量は演歌や歌謡曲と同じぐらいになるのだと思います」。
色気を感じるロックスター然とした佇まい
熱量を作るのはTOOBOEの空気を、より細かく震わせているような独特の声とそこから放たれる歌が特徴あるリズムを作り、エモーショナルでドラマティックな曲になる。「心臓」のライヴ映像が公開されているが、それを見るとボカロPというより、バンドを従え、佇まいはロックスターそのものだ。歌っているその姿は色気を感じるロックスター然とした空気を纏っている。「ボカロP出身の」という枕詞は必要ないくらい、それを知らない人が聴いても、TOOBOEの音楽は上質なポップスとして受け止めてくれるはずだ。
新しく聴いてくれた人に“ボカロで人気だった”みたいな前置きをわざわざ説明しなくても、『何かいいね』って言ってくれる音楽を目指したい」
「そこに頼るのは、基本的にナンセンスだし、ただ、ボカロ時代からのファンの人を裏切ることはしたくないです。ボカロPからシンガーになるケースは結構あります。リスナーの中にはボカロじゃなきゃ聴かない人もいれば、ボカロだから聴かないっていう人もいる。そういう中で、TOOBOEとして活動を始めてからもブレずに、ずっと聴いてくれる人がいるのは本当にありがたかったし、そういう人がいることをこの一年でめちゃくちゃ感じました。ボカロっぽさって何なのか、難しい概念だと思います。それぞれがやっている音楽は全然違っていて、ボカロの中でもカルチャーがあって、だから概念としてはすごく難しいです。ただ、自分の作家性は残したもの、昔聴いていた人も裏切らない感じで、今回もそんなイメージを作りつつ、新しく聴いてくれた人に“ボカロで人気だった”みたいな前置きをわざわざ説明しなくても、『何かいいね』って言ってくれる音楽を目指したいです」。