軽症が多いとされるオミクロン株でなぜコロナ病棟が逼迫するのか? 現場で起こっていること
新型コロナの陽性者が入院できる全国の病床数は約4万8,000床ありますが、オミクロン株の感染拡大により、軽症中等症病床の使用率が50%を超える地域が出てきました。
アルファ株・デルタ株が主役だった第4波・5波の頃と比較して、重症化率は減少していますが、新規感染者数の急増により、全国のコロナ病棟は嬉しくないにぎわいを取り戻しつつあります。
現在、東京都では第5波に迫る勢いで入院患者数が増えており、大阪府ではコロナ禍始まって以来、過去最多の軽症中等症病床患者数となっています(図1)。
入院例:「重症」は少ないが「軽症」ばかりでもない
現在コロナ病棟に入院している多くが、オミクロン株に感染した高齢者です。
肺炎や酸素飽和度の低下がなければ「軽症」に区分されます。軽症中等症病床を有する当院では、2週間ほど前までは「軽症」の入院ばかりだったものが、次第に高齢者層へと主軸が移り、基礎疾患の影響もあり、酸素療法が必要な肺炎を有する「中等症II」以上の患者さんも出てきました(表)。
全身状態の悪化がすべて新型コロナによるものというより、これまで踏みとどまっていた基礎疾患のある高齢者が、新型コロナによって後押しされ「中等症II」になるパターンが多いように感じます。
多発する高齢者施設クラスター
80歳以上の入院要請で目立つのは「施設入所中」という文字です。1月に入り、どの自治体でも高齢者施設クラスターが多発していることが報告されています(1)(図2)。通所介護(デイサービス)も同様の傾向です。
入浴介助の際、マスクをどうしても外してしまう職員がいたり、マスクを着用していても大声で話さないといけなかったり、というのは、高齢者の介護でよくあることです。オミクロン株は、そういう油断の隙間に入り込み、内部から感染を広げていきます。
重い基礎疾患がある高齢者にはできれば入院してもらいたいところですが、稼働病床数以上に現場は逼迫しています。そのため、施設クラスターが出てもすぐさま全員が入院できるわけではありません。職員の感染や濃厚接触によりマンパワーが不足している施設では、受け入れがすすまないことだってありえます。
また、職場内クラスターや児童関連施設のクラスターも増えています。換気が不良だった教室内で、廊下側に感染児童が偏っている、というところもありました。
若年者と高齢者では看護必要度が違う
看護必要度という言葉があります。「入院患者に提供されるべき看護の必要量」という意味で、寝たきりの高齢者や、病棟内を動き回る認知症の患者さんでは、看護必要度が高くなります。
アルファ株やデルタ株のときに、酸素吸入が必要な若年~中高年の患者さんが多かったので、「重症化しないだろうか」と警戒していました。しかし、トイレや食事など、身の回りのことは基本的にできる人が多かったので、彼らの看護必要度は高くありませんでした。
しかし、現在コロナ病棟に入院しているオミクロン株の感染者は、高齢者が主体です。そのため、看護必要度が高い患者さんが多く、1人あたりにとられる看護師のマンパワーが高くなっています。
新型コロナ自体が軽症であっても、介護サービスが受けられなくなると日常生活が送れなくなる高齢者も多いことから、ケアマネージャーなどから入院が要請されることも少なくありません。
まとめ
デルタ株と比較するとオミクロン株の重症化率は確かに低いのですが、長らくインフルエンザを診療してきた呼吸器内科医からみても、オミクロン株肺炎のほうがインフルエンザ肺炎より頻度がまだ高いと感じます。オミクロン株がインフルエンザや風邪と言うにはまだ早く、中途半端でやっかいな状態と考えています。
また、高齢者の感染者が多く、患者さんの看護必要度が高いことが、コロナ病棟を逼迫する要因となっています。
とはいえ、沖縄県同様、そろそろ全国でもピークアウトが始まると期待されます。今後、第7波・第8波が来るかどうかは誰にも分かりません。ウイルスが弱毒化して取るに足らない波になる可能性もありますし、新型コロナワクチンのブースター接種率が低いことが仇(あだ)となり、大きな波になるかもしれません。
不織布マスクの着用、こまめな手洗い・消毒、3密を避ける、といった基本的な感染対策を続けていく必要があります。また、新型コロナワクチンのブースター接種をすすめることで、全体の感染者数・入院患者数・重症者数を減らす必要があります。
(参考)
(1) オミクロン株の特徴を踏まえた効果的な対策(令和4年1月21日公表)(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000885350.pdf)