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ヒットした大作「FF16」 厳しい意見が目立つ なぜ

河村鳴紘サブカル専門ライター
スクウェア・エニックスの人気ゲーム「ファイナルファンタジー16」

 スクウェア・エニックスの人気ゲーム「ファイナルファンタジー(FF)16」(PS5)の発売から1カ月が経ちました。世界出荷数は300万本と結果は出したものの、一部の報道では売れ行きが低調というニュアンスで報じられました。またゲーム内容についても、ネットでは厳しい意見をよく見かけます。なぜ厳しい目で見られるのか。背景を考えてみます。

◇FF16を構成する4本の柱

 FFシリーズは、魔法のあるファンタジー世界を舞台に、仲間たちと力を合わせて冒険をするRPGです。日本を代表するゲームの一つといっても差し支えないでしょう。

 とはいえ、FFはエッジが効いているゲームでもあります。最新作のFF16について「知らない人にも理解できるよう、見どころと、ストーリーについて分かりやすく教えて」とスクウェア・エニックスに問い合わせると、回答が来ました。

FF16を構成するのは、「ストーリー」「キャラクター」「グラフィック」「バトルシステム」という4本の柱です。

FF16のストーリーは、シリーズの原点ともいえるファンタジーの世界を舞台に、複雑な思惑やさまざまな価値観が交錯する重厚な物語が展開していきます。ヴァリスゼアという大陸の中でマザークリスタルの下に国が形成されていきました。現代風に言うとマザークリスタルが油田にあたります。マザークリスタルは、魔法を生み出すエーテルを産出する場所で、そこにそれぞれ国ができ、栄えていきました。ところが、マザークリスタルから放出されているエーテルが枯渇し出すという状況になり、いままでは均衡を保っていた国同士が、他国のマザークリスタルに手を出し争いが始まります。

本作の主人公はクライヴ・ロズフィールド。彼の少年期、青年期、壮年期という3つの時代を通じて、壮大な物語が展開します。少年期に起きた悲劇的な事件から、彼は弟を殺した存在を追う復讐者として生きていますが、やがて世界を知り、人々との出会いから自身が信じる正義のもとに、マザークリスタルの破壊を掲げ、世界の秩序に立ち向かっていくことになります。

グラフィック面では、PS5の性能を最大限に活かし、壮大なファンタジーの世界でありながらリアリティーのある緻密な映像を描き出しています。そして、ローディングを一切排除し、物語とバトルがシームレスに展開し、まるで超大作映画を自らの手で操作しているような感覚を体験していただくことができます。

そして、本作の鍵となる「召喚獣」をテーマにしたバトルシステムにもご注目いただきたいです。巨大な召喚獣同士が激突する「召喚獣合戦」、主人公クライヴが多彩な召喚獣の力を駆使し戦う「召喚獣アクション」という2つスタイルが、FF16のバトルの特徴です。バトルが苦手な方も安心してプレーできるサポートも充実していますので、幅広い方が自分に合った遊び方で楽しめるバトルシステムとなっています。

FFらしい重厚なファンタジーのストーリーと、奥深いバトルシステムによるシリーズ初の本格アクションRPGをぜひ体感していただきたいです。

 国家が油田を巡る争いをしている……という説明は、ゲームをよく知らない人にもわかりやすいですね。そしてFF16は、グラフィックには力を入れ、戦闘にもこだわり、主人公が困難を乗り越えて世界を救う王道のストーリーが展開されるわけです。

FF16の戦闘シーン。ゲームの腕に自信がない人はアシスト的な機能を駆使し、腕に自信があるならアクション全開のプレーで。カウンターや連続技が決まるとリズムゲームのような爽快感が楽しめます。
FF16の戦闘シーン。ゲームの腕に自信がない人はアシスト的な機能を駆使し、腕に自信があるならアクション全開のプレーで。カウンターや連続技が決まるとリズムゲームのような爽快感が楽しめます。

◇FFの色合い強く

 FFの本編シリーズは、オンラインゲームも含めて遊んでいて、開発者の方々に取材する機会にも恵まれましたから、最新作がどうなのか楽しみにしていました。

 実際に遊ぶと、まずアクション要素の強い戦闘システムが新鮮でした。シリーズで存在感が薄くなっていた「召喚獣」の存在が際立ち、シリーズでおなじみのキャラクター名「シド」の使い方も見事で、セーブ画面では懐かしい2等身キャラが登場。今まで以上に過去シリーズを意識したであろう演出が多くあり、FFの色合いを強く感じる作品でした。そしてストーリーも重厚で、改革者(主人公)が庶民に歓迎されるとは限らないこと、社会的地位の低い奴隷階級「ベアラー」は考えさせられるものがありました。社会への皮肉めいたものがあるのも、FFらしく、パンチが効いていました。

 同時に、ゲームのトレンドが「自由度の高さ」にあるので、誰でも分かる一本道のRPGが、一部から批判の対象になるとも思いました。一本道のRPGにも、広い世界を自由に探索して選択肢の多いオープンワールドタイプのRPGにも、それぞれ持ち味はあるのですが、前者は何かと批判されやすいのは確かです。

 ちなみに私が実際にプレーを始めると、FFシリーズ未経験の妻が、興味本位で鑑賞。「次の展開はどうなるの?」と質問し、先に進めようとすると「(私が)見たいからちょっと待って」などと言って中断させられたりしました。主要キャラクターの運命が気になるようで、私が仕事をしていると、妻が「今はFFをやらないの?(←先が気になるから早くゲームを進めろ……という意味)」などと催促されたりしました。そんなに気になるなら、自分で遊んだら?と思うのですが、「見ているのが楽しい」のだそうです(自分で遊ぶ方がもっと楽しいと思うのですが)。

 FF16は国家の興亡が描かれ、多くの登場キャラがいますから、固有名詞が多すぎて人によっては理解が難しいこともあるでしょう。しかしそこは親切設計で、いつでも用語の説明が見られたり、後半になると複雑になった世界情勢の解説もあります。次に行く場所も表示されるし、ゲームで迷うことがありませんでした。

 一方ネットではいろいろな意見がありますが、強めの批判……特にストーリーについて、理解しづらい、整合性に欠ける、お使いの要素ばかり……という意見を見かけました。戦闘システムもアクションの要素が強すぎる……という疑問も目にしました。

◇ネットの感情「ポジティブ」60%台

 どのコンテンツでも「全員が絶賛」ということはありえませんが、「肯定」「否定」の比率は気になるもの。そこでFF16は「肯定」「否定」のどちらが多いのか、他の人気コンテンツと比べてどうなのかを調べてみました。

 ヤフージャパンのサービス「リアルタイム検索」(7月30日時点からさかのぼって30日間)で、「FF16」のワードを打ち込んで検索すると、感情「ポジティブ」の割合は、64%台でした。ゲームファンから評価が高いとされるゲーム「ゼルダの伝説」の「ポジティブ」は75%で「さすが」といったところ。そして「ポケモンスリープ」は68%でした。

 ゲームではありませんが、現在公開中の宮崎駿監督のアニメ映画「君たちはどう生きるか」は、メディアでは「評判は賛否両論」と報じられていますが、「ポジティブ」は87%。人気テレビアニメ「推しの子」と「水星の魔女」はそれぞれ67%でした。

 大河ドラマ「どうする家康」は「ポジティブ」が36%ですが、これは従来の徳川家康のイメージに捕らわれない意欲作で、視聴者が突っ込みたくなる要素があるからでしょうか。

 FF16は、「ポジティブ」が極端に高いわけではないものの、さりとて低いわけでもないのです。要するに、イメージとデータは必ずしも合致しないということです。

 ゲームに限らず、アニメでも、ストーリーについてはプレーヤーや視聴者の「好み」があります。個人がSNSで情報を発信する時代であり、肯定的な意見よりも、批判的な話のほうが面白がられます。「他人の不幸は蜜の味」という感じでしょうか。

戦闘シーンのムービーは圧巻。かなり迫力があります。
戦闘シーンのムービーは圧巻。かなり迫力があります。

◇出荷数で批判できる「からくり」

 FF16は、ゲーム内容だけでなく、出荷数でもやりようによっては「売れない」と批判できる面がありました。

 PS5本体の世界累計出荷数が約4000万台で、FF16のソフトの出荷数が300万本ならば、所有者の約7.5%が買った計算になります。現時点でこの割合は、ゲームビジネスをある程度理解する人ならば“合格点”を出すでしょうが、あえて無視することもできます。

 そして、FF16の出荷数に「ダメ出し」をするのであれば、日本のパッケージソフトの初週出荷数(約33万本=ファミ通調べ)などを取り上げて、それを根拠に「売れなかった」などとすれば良いのです。他にもニンテンドースイッチの人気ゲームと比べて、「パッケージソフトの販売数が少ない」というのもそうですね。

 確かに、歴代のFFシリーズにおける日本国内のパッケージソフトの販売数を取り上げていくと、低下傾向にあるのは事実です。しかし、それはダウンロード販売の比率が高まっていることもあり、海外市場が重要になっています。もちろん日本市場も重要ではありますが、そういっても「最重要」ではなくなりつつあります。にもかかわらず日本市場だけを見て、さらにごく一部のデータ(パッケージソフトの販売データ)だけをわざわざ抽出して話をする意味があるのか疑問は残ります。

 特にFF16は、PS5の独占販売期間(6カ月)の後で、何かの動きがあることが考えられます(何もしないのであれば、経営視点では相当の疑問です)。現時点の「世界出荷数300万本」は想定の範囲内ですし、最大商戦期の年末年始の動きを見て判断したいところです。

同作のカギになる「マザークリスタル」。美しいグラフィックは見どころの一つです
同作のカギになる「マザークリスタル」。美しいグラフィックは見どころの一つです

◇過去シリーズでも批判 でも売れる

 そしてFFシリーズを振り返ると、常に何かしらの批判をされてきた経緯があります。同時に批判を浴びながらも、売れ続けています。本編シリーズ最新作が発表されたらニュースとして話題になり、ヤフートピックスにも採用されます。シリーズ累計出荷数でも、1億8000万本以上という揺るがぬ実績があるのです。

 PS2の本体普及を後押しした「FF10」も、キスシーンなどが当時、一部で気持ち悪いなどと批判を浴びました。さらに続編の「FF10-2」も売れたのですが、女性キャラがメインで「ギャルゲー」などという意地悪な意見もありました。

 オンラインゲームに挑んだ「FF11」も、当時は少なかったパッケージソフトの出荷数が批判されました。同作は、ゲームを遊ぶための月額利用料金がポイントで、企業の収益に長年にわたって寄与するのですが、その点が当時はなかなか理解されなかったのです。

 「FF12」も、主人公の影の薄さ、フィールドの大きさが適当でないなどと指摘され、「FF13」もストーリーや世界観が分かりづらいと批判されました。

 オンラインゲームの「FF14」は、最初はゲームの完成度が低く、経営陣が会見で陳謝する事態になりました。(その後、ゲームをまるごと作り直して立て直し、ゲーム業界関係者らを驚かせました)。

 「FF15」はゲームソフトの開発に手間取って発売がかなり遅れたことも、さらにストーリーもわかりづらいと批判されました。しかし約5年かけて出荷数は1000万本を突破しました。

 要するに、やたらと批判はされるが、常に結果を出す(売れる)というのがFFの歴史です。裏返せば、目立つ批判の声は、遊ぶ人が多く「売れるゲームの証」とも言えます。本当にダメで売れないゲームであれば、遊ぶ人が少ないわけで、批判の数も少なく、ネタにもならないからです。

 振り返って考えられるのは、FFシリーズは、ゲーマーが気軽に意見をしやすい、言いやすい環境にあるというのは、あるかもしれません。作品はどれも先鋭的で、何かと挑戦的なことをしてきた歴史があります。エッジが立っている作品は、どうしても自分の好みに合わないところが出るわけで、SNSという発信ツールがある以上、意見をしたくなるのは自然の流れなのかもしれません。

◇「批判のための批判」をどうするか

 それとは別にSNSで展開される批判について、考える時期に来ているのかもしれません。遊ぶ側は批判も含めて好きに発言しています。そうであるなら、作り手側も、ネットの意見をくみ取るかの選択は自由であり、極端に言えば耳を傾けないこともあっても良いと思うのです。コンテンツ制作は微妙な匙加減が必要とされることですし、後々に評価が変わることもありえるからです。

 ゲームソフトはその性質上、実際に発売してみないと売れるかわからない面があるのですが、看板の大作ゲームの開発費は巨額で(数十億円は当たり前)、失敗が許されない事情があります。

 そして繰り返しになりますが、どんな人気作も、何かしらの批判があります。人気マンガ「鬼滅の刃」の最終回でも、一部から批判がありました。そして大人気の「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」でも、「前作のマップの使いまわし」という指摘もありました。その気になれば、何でも批判できるのです。

 FF16は、初心者にも配慮していて、しっかり遊べるゲームでした。ネットの意見も多様で、中には前向きで面白い批評もありますが、残念ながら一部にフォーカスしてあげ足を取ったり、ネット受けを優先するような「批判のための批判」もありました。そうした一部の声が、コンテンツに良い効果を与えるかといえば怪しいでしょう。

 来年、FF16が宝塚でミュージカルになることが発表されたように、FF16というコンテンツがより多くの人に触れられ、楽しむ機会が増えればと願っています。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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