なぜスペインは”新世代”の台頭もイタリアに敗れたのか?見据える次の世界と約束された未来。
試合に勝って、勝負に負けた。
これはスポーツの世界でよく使われる表現だ。EURO2020準決勝のイタリア対スペインの一戦で、敗れたスペインにそのような印象を抱いた者は少なくないだろう。
だが敗戦は敗戦である。スペインは欧州の4強に名を連ねたが、決勝を目前にして大会から姿を消した。
「イタリアが優位というのが大方の予想だったと思う。でも、若い選手たちは今大会で多くを経験した。もちろん、残念だよ。ここで大会が終わって欲しくなかったからね。僕たちは試合を支配していた。イタリアを上回っていたはずだ。誇りを持って戦った。だけど、フットボールとPK戦はこういうものだ」とは主将を務めたセルヒオ・ブスケッツの言葉である。
「これが僕の最後の代表戦になるかは分からない。いまは、その話をするべきではないと思う。僕がいてもいなくても、スペイン代表は未来を楽観的に捉えていい。次のワールドカップに向けて、この道を歩んでいくべきだ。素晴らしいグループがあり、それを誇りに思わなければならない」
■因縁の相手
スペインにとって、イタリアは因縁の相手だった。
EURO2008準々決勝で対戦した際には、0-0の末にスペインがPK戦を4-2で制した。そのまま勢いに乗り、スペインは優勝を飾った。それは黄金時代の始まりだった。2010年の南アフリカ・ワールドカップで世界王者となり、EURO2012でも快進撃を続けたスペインだが、その大会のファイナルで再び立ちはだかったのがイタリアだ。そこでは4-0とスペインが大勝した。しかし、それが黄金のチームの終着点であった。
奇しくも、あの決勝でビセンテ・デル・ボスケ当時監督がセスク・ファブレガスをファルソ・ヌエベ(ゼロトップ/偽背番号9)に据えたように、ルイス・エンリケ監督はダニ・オルモをファルソ・ヌエベに配置した。今大会、「我々はモラタと10人の選手だ」と豪語してアルバロ・モラタを信頼してきた指揮官であるが、イタリアを前にして奇策を講じた。
■偽背番号9とイタリアの守備
D・オルモの存在はイタリアの守備陣の混乱を招いた。右サイド、左サイド、中央と神出鬼没に現れ、時には中盤に下がりポゼッションに参加する。2CBのジョルジョ・キエッリーニとレオナルド・ボヌッチ、そしてアンカーのジョルジーニョがD・オルモのマークの受け渡しに手を焼いていた。
対して、イタリアはレオナルド・スピナッツォーラの負傷離脱が響いた。【4-3-3】と【4-3-3】のぶつかり合いで、左サイドバックで高い位置を取るスピナッツォーラがいれば、イタリアは攻撃時に3バックになるシステムで戦えるはずだった。だがスピナッツォーラ、マルコ・ヴェッラッティ、ロレンツォ・インシーニェの左サイドのトライアングルが使えなくなり、イタリアの攻守の重心は下がらざるを得なかった。
スペイン対イタリアのスタッツにおいては、スペインがポゼッション率(70%:30%)、パス本数(805本:287本)、シュート数(16本:7本)、ボール奪取数(73回:68回)、デュエル勝数(48回:46回)とすべての面で上回っていた。
しかしながら勝利の女神はイタリアに微笑んだ。GKジャンルイジ・ドンナルンマのビッグセーブもさることながら、MVP級の活躍を見せたD・オルモとチーム内得点王のモラタがPKを失敗したのは象徴的だった。
「非常に厳しい敗戦だ。僕たちはもっと違う何かに値したはず。でも、このグループとコーチングスタッフを誇りに思うべきだ。サポーターは本当に素晴らしかった。僕たちはイタリアより優っていた。すごく残念だ」とはジョルディ・アルバの弁だ。
「僕は10年にわたりスペイン代表でプレーしてきた。実際のところ、現在のようなグループはなかった。ロッカールームの雰囲気はこれまでも良かったけれど、いまは最高だ。それは外からは分からないと思う。僕は今後も代表で監督に起用される準備を整えていく。自分のチームでレベルを示して、2022年のワールドカップに出場したい」
矢が折れ、刀が折れ、スペインはまさに満身創痍で戦っていた。ラウンド16のクロアチア戦、準々決勝のスイス戦と決勝トーナメントに突入してからは全試合が延長戦までもつれ込む展開だった。
PK戦でイタリアに敗れ、泣きじゃくっていたのはペドリ・ゴンサレスだ。ルイス・エンリケ監督とチアゴ・アルカンタラに慰められても、簡単には落ち着けなかった。18歳の青年は、スペインの新世代の台頭を示すシンボルだった。あの涙を、次なる勝利への糧にーー。見据える先に、来年のカタール・ワールドカップが待っている。