小川一平(阪神タイガース)、トミー・ジョン手術から約9カ月が経過した現在
■トミー・ジョン手術
「ブルペンに入りましたよ」―。そう言って白い歯をこぼす。阪神タイガース・小川一平投手だ。
昨年9月21日に受けた右肘内側側副靭帯再建術(トミー・ジョン手術)から約9カ月が経過した。
近年、この手術を受けて復活する選手が増え、タイガースでも才木浩人投手や島本浩也投手が経験し、今では1軍の欠かせない戦力になっている。
小川投手もそうなるべく、復帰への道を歩んでいるところだ。
「入院中から右手でごはんを食べられていましたよ。お風呂は左手でしか洗えないから不便だったけど、でも意外とそんなに大変でもなかったですよ」。
年を越して今年1月の終わりごろ、テニスボールを手にした。テニスボールでのネットスローを経て、春季キャンプで術後はじめて硬球を使ってネットスローを開始した。
キャンプから帰ると20mを40球×3セット。これを1日おきに1週間続け、5mずつ伸ばしていって、4月には40mまで伸びた。次の段階は球数制限ではなく10~15分と時間制限になり、平地でやや力を入れての18.44mへと進んでいった。
■ブルペンの経過
しっかり定期検査をしながら、歩を進めてきた。
「3週間くらい前に、ブルペンに入りました。傾斜を使って、立ち(キャッチャーが立って構えた状態)ですけど。2回くらい入った後、ちょっと炎症が強くなったんで1回空けて、大丈夫だったんでまた始めました。立ちを4~5回やって、先週末には中腰(キャッチャーが中腰で構えた状態)を1回やりました」。
中腰で20球、球速も139キロが出たという。
「140を出したかったけど…。まぁまぁ投げられたからいいかな、くらいの気持ちです。納得はまったくしてないし、デキとしてはまじで全然…手応えもいいとは言えない。まぁでも、(段階が)進んだっていうことだけは、よかったです」。
9カ月でそこまで進捗したのだから、順調であることは間違いない。まだ残っているという痛みに不安がないわけではないが、「投げられる程度の痛み」と言い、日々状態を確認しながら先に向かっている。
「今週もう1回、中腰をやらせてもらって、それでよかったら週末に座りかな。土日どっちかで座ってもらえたらいいかな」。
座っているキャッチャーに投げるとなると、相当な前進だ。その日はもう目前まで迫っている。
■2度目の手術
一昨年12月15日に「右肘関節鏡視下手術および尺骨神経前方移行術」を受け、昨年はファームでのゲームに復帰した。150キロに迫る球でウエスタン・リーグ、オリックス・バファローズ戦(7月2日)では勝利投手にもなっていた。しかし9月に再び、右肘にメスを入れることになった。
実は一昨年の手術のときも、緩いと感じる靭帯が気にならないではなかった。不安を一掃するために、同時にトミー・ジョン手術もするという選択肢もあったが、「(今はしなくても)大丈夫だろう」という診断もあったし、なによりトミー・ジョン手術もして復帰が遅くなるのが嫌だった。当時はとにかく早く、チームの戦力として働きたいという思いが強かったのだ。
だが1度は復帰したものの、結局は2度目の離脱することになった。だからこそ、「2回も手術させてもらっているんで、ちゃんとやらないと」と今度こそは完全復活して、チームに貢献することを固く誓っている。
同じ手術をしても、それぞれ痛みの度合い、復帰時期は違う。年齢や体の状態による差異も大きく影響するようだ。
「人によるけど、でも、みんな『大丈夫』とは言ってるんで、そこは安心かなと思います」。
経験者たちの話を聞きながら、小川投手も光を見出している。
■ドラマ仲間が誕生
以前にも伝えたが、小川投手は余暇にドラマやお笑い番組を観ることが気分転換になっている。そのうち、観るだけでなく観たドラマの感想を誰かと共有したいという思いにかられてきたのだが、チームメイトにドラマ好きがなかなか見当たらなかった。そこで、一計を案じた。
「(伊藤)稜にドラマを見させてるんです(笑)」と仲間に引き込んだ。今では好きなドラマや感想などを語り合う仲だ。
ちなみに2人の間では、この春クールのドラマの中では『Belive-君にかける橋』がよかったとか。木村拓哉さん演じる橋の設計者が、自身の設計した橋の崩落事故により逮捕されるところから始まる物語だ。サスペンス色あり、人間ドラマありの作品は、「恋愛系は観ない」という小川投手にとって、大いに楽しめたようだ。
リハビリ仲間でもある伊藤稜投手も先日、フリー打撃に登板し、シート打撃の登板も見えてきた。お互い励まし合いながら、前を向く。
■来春のキャンプは万全で入る
9月で1年を迎える。「それくらいにはゲームに復帰できればと思っています」と、おおよその目途にしている。
ブルペンで投げたとはいえ、「20球とかで、めっちゃバテるんすよ」と、まだまだ投げる体力も回復していない。「あと3カ月で仕上げられるかだと思います」と、すべての面を強化しなければならない。
「来年は一発目から、ほんとキャンプからいけるように」と表情を引き締める小川投手。そのためにも「1歩進んで2歩下がることのないように」と慎重に取り組みつつ、立ち止まることなく順調に前進していくつもりだ。