大雪が自然環境と人間に与える影響を考える
”歴史的”大雪に日本が見舞われています。
この大雪により、各地で交通機関が麻痺するなど、日常生活に重大な支障が生じていますが、今後も大雪が各地で続くようです。
このように人間の生活に大きな影響を与えた今回の”歴史的”大雪ですが、影響を被るのは人間だけに限りません。山野に生息する野生動物にとっては、大雪は生死を左右する死活的問題であり、野生動物に起きた問題は長いスパンを経て、人間社会にも大きなインパクトをもたらします。災害が進行中の現在は、人間への直接の影響・被害報道に重点が置かれていますが、ここでは大雪による自然環境の変化が、人間に与える長期的な影響について、過去の事例から考えたいと思います。
エゾシカの大量死を招いた明治12年の大雪
先ほど引用したニュースの中で、「過去120年ほど続く観測の歴史」とありましたが、気象観測・記録が行われるようになった120年前より以前の明治12年(1879年)に、北海道で豪雪と暴風雨を伴う異常気象があったとされています。この大雪により、数十万頭に及ぶエゾシカの大量死が発生し、十勝川にはエゾシカの死体が溢れたとされます。この死体は気温の上昇とともに腐敗をはじめ、腐敗による臭気で十勝川の水が飲料出来なくなる等、時間を置いて人間生活にも影響を与える事になります。
今回の大雪での積雪は、多いところでは本州内陸でも1メートルを超えています。ホンシュウジカの場合、50cm以上の積雪が30日以上続くと死亡する個体が現われ、50日以上で多発するという研究がなされています。短足のイノシシも豪雪地帯での生存に不向きで、今回の大雪に加え、今後も低温によって雪解けが遅れた場合、これら野生動物の生息頭数に影響を与えるかもしれません。
増えすぎたシカが減る?
現在、北海道を始め、日本全国でシカを始めとする野生動物による農業・山林被害が増加しており、平成23年度の農業被害額はシカによるものが83億円、イノシシが62億円となっており、年々増加傾向にあります。また、JR北海道管内では、シカによる列車の運行障害が、2004年以降は年間1000件を超えるようになるなど、人間生活への影響も見逃せません。
このように野生動物と人間社会との間の軋轢が年々増している最大の理由は、野生動物の生息頭数が特にシカ・イノシシで増加している事にあります。このような頭数増加と農業被害を受け、環境省ではこれまでの保護前提の管理政策から、捕獲等による抑制に切り替える方針で、今国会では鳥獣保護法の改正を目指しています。ここで問題になるのが、今回の大雪の影響です。大雪により、過去の例のように大量死が発生した場合、産業にも影響が出る恐れがあるのです。
鳥獣保護法の改正に与える影響は
現在検討されている鳥獣保護法改正では、民間業者による駆除の解禁も議論に含まれており、既に法改正後の参入を検討している企業もあり、ビジネスチャンスと捉える向きがありました。しかし、今回の大雪により、仮に一部地域でシカの大量死が発生した場合、その地域でのシカの生息数管理は抜本的見直しを迫られる事になり、民間参入が「無かったこと」にされる可能性もあります。そうなると、参入準備をしていた企業にとっては大損以外のなにものにもならない事態になるでしょう。
異常気象等による野生動物の大量死は珍しくない現象で、過去も度々起きています。ところが、明治に大量死の発生と食肉・毛皮需要の増加があってから、日本の野生動物の生息頭数は適正頭数より低めに推移してきており、少々の異常気象があっても食料を奪い合う同種が少ないため、広範囲での突発的大量死は近年見られませんでした。近年の野生動物の生息数増加は、大量死の可能性も増している事を意味しており、今回の大雪でそうなった場合、ある意味で日本に自然なサイクルが戻ってきたと言えるのかもしれません。
歴史的大雪とは言え、まだ積もってから間もないため、野生動物に今後どう影響するかは現時点では不透明です。しかし、過去の事例から想定されるシナリオに備え、今審議が進んでいる鳥獣保護法改正と、改正後を睨んだ企業の動きに今後注目した方が良いかもしれません。